動作を詠む(3/3)
叩く
夏の夜は槇のと敲き門たたき人頼めなる水鶏なりけり
叩くとも誰かくひなの暮れぬるに山路を深くたづねては来む
ただならじとばかりたたく水鶏ゆゑあけてはいかにくやしからまし
*次の歌と贈答歌のかたちをなす。
よもすがら水鶏よりけになくなくぞ槇の戸口にたたき侘びつつ
*「一晩中水鶏以上に泣く泣く開けてほしいと槙の戸口をたたき続けて思い
嘆きました。」
打つ
あられ打つあられ松原住吉(すみのえ)の弟日娘(おとひをとめ)と見れど飽かぬかも
万葉集・長皇子
皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思(も)へば寝(い)ねかてぬかも
万葉集・笠 女郎
打つ田には稗(ひえ)は数多(あまた)にありといへど択(え)らえしわれそ
夜(よ)をひとり寝る 万葉集・柿本人麿歌集
佐野山に打つや斧音(をのと)の遠かども寝(ね)もとか子ろが面(おも)に見えつる
万葉集・東歌
みよし野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
新古今集・藤原雅経
更けにけり山の端近く月さえてとをちの里にころもうつ声
まどろまで眺めよとてのすさびかな麻のさ衣月にうつこゑ
秋とだに忘れむとおもふ月影をさもあやにくに打つ衣かな
銃を打て血を見よとさそふ命令のわが裡の何処からくるかを知らず
春日井 建
君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る
抱く
上野(かみつけの)安蘇(あそ)の真麻群(まそむら)かき抱(むだ)き寝(ぬ)れど飽かぬを
あどか吾(あ)がせむ 万葉集・作者未詳
黒瞳(くろめ)がち上目(うはめ)する時更によしその子よろこび抱きて我寝つ
ひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みし
ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる
抱かれしときわれはいかなる顔をせむはかなきことを思ひて歩む
石川不二子