天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

質問・疑問を詠む(1/2)

 日常生活で知りたいことや疑問はたくさんあるので、それを歌に詠むことは

当然といえる。その対象が、人、場所などにより使用する言葉が違う。何、誰、何処、どれ 等々。

 

          

  世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝びらき漕ぎ去(い)にし船の跡なきがごと

                  万葉集・沙弥満誓

*「この世を何に譬えよう。朝の港を漕ぎ出て行った船の引く跡が一瞬にして消えてしまうようなものか。」

 

  自然死といふこと人間にもありや既に死にたるは我が何と何

                      土屋文明

  眠りしまま死んでしまひし父のこと何といふべし五月の五日

                      河野裕子

 

 

           

  み吉野の青根が峰(たけ)の蘚蓆(こけむしろ)誰か織りけむ経緯(たてぬき)無しに

                万葉集・作者未詳

  君ならでたれにか見せむ梅のはな色をも香をも知る人ぞ知る

                 古今集紀友則

  たれをかも知る人にせむたかさごのまつも昔の友ならなくに

                古今集藤原興風

  誰も皆消え残るべき身ならねど行き隠れぬる君ぞ悲しき 

               栄花物語藤原伊周

  あはれあはれ思へば悲しつひの果忍ぶべき人誰となき身を

                   式子内親王

  たれかまた花たちばなにおもひ出でむわれも昔の人となりなば

               新古今集藤原俊成

  人よりも心のかぎりながめつる月はたれともわかじものゆゑ

               新古今集藤原頼宗

  こよひたれ薦(すず)吹く風を身にしめて吉野のたけの月を見るらむ

               新古今集・源 頼政

*薦(すず)吹く風: 篠竹を吹く風。  吉野のたけ: 吉野の山嶽。

 

  たれが香に思ひうつると忘るなよ夜な夜な馴れし枕ばかりは

                建礼門院右京太夫

  我ならでかけの垂(たり)尾(を)のたれか世に暁つぐる声をまつらむ

                    荷田春満

*かけの垂(たり)尾(を): 鶏の垂れた尾。

 

  だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし

                    寺簗修司

 

花たちばな