天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『夜のあすなろ』(1/6)

 佐々木通代さん(「短歌人」同人)の第二歌集が、9月5日付で六花書林から発行された。短歌を学ぶ人たちにとってはもちろんのこと、短歌を作らない読者にとっても感銘を与える歌集になっている。家族・知人や歌枕(旅)を中心とした日常詠なのだが、短歌表現の基本が自然な感じで通底して、読み始めると中断しがたくなる。以下に例をあげてみよう。

 

*ひらがな表記の工夫

  車ひく牛のまなこのしづかなり海をうつさず空をうつさず

  いただいたごちそうばかりおもひだす荒川堤さくらさいてた

  たかだかと剣(つるぎ)をかざす天使像みあげてすすむただ風のなか

  こぶりなる若狭の鯛のぎんいろの雨ふるひるを濡れつつあゆむ

  菓子箱のなかに桑食む幼虫のいつしんふらんは三日となりぬ

  廻りつつ昏き海よりあらはれて白き氷塊かずかぎりなし

  ろくぐわつの庭は何やらなまぐさしぼんやりをれば絡め捕らるるぞ

  胸しろきおろろん鳥の寄りあへるサハリンの海おもひてねむる

  ジプシーの舞曲ききゐるあさにして白木蓮の冬芽がひかる

  痩せすぎの十三歳(じゅふさん)われが土手にみしほのおのいろの萱草のはな

 

歌集