天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『サーベルと燕』について(3/4)

とり合せ、下句への転換、モンタージュ

  蒙古野の空にひびかふ雁のこゑ茂吉うたひしわれは読みつつ

  はかなごとおもひてをれば秋晴れに今朝は秩父のやまなみは見ゆ

  ゆふぐれのせまる寒風うけながら佃(つくだ)渡船(とせん)のいしぶみのまへ

  谷川雁毛沢東」の一行がおもひだされて冬の蜂あるく

  奥歯いつぽんほろりと取れて瞑目す東西南北なむあみだぶつ

 

ウィット(ユーモア+批評)、ペーソス]

  いはゆる「銀座のバー」にひとたびも行きしことなし行かずをはらむ

  ベートーヴェンピアノソナタを聞きながら赤いきつねを食ふのも一生(ひとよ)

  歌はおろか文学に縁なきふたりのむすめ父の日にパジャマ買つてくらたり

  宝石を拾ひしごとし茂吉歌集にひとつの誤植をみつけたる時

  奥歯いつぽんほろりと取れて瞑目す東西南北なむあみだぶつ

 

事実・真実の持つ驚き]

  あたたかき冬の日にして手つなぎあひ保育園児のおさんぽが行く

  平成三十年四月二十日この日を限りしづかにも活動をやめし母の心臓

  夏萩の咲きそめし花に来たる蜂しばらくめぐり飛びつつ去りつ

 「炭火焼きホルモン」とのみ大書せる看板ありて春暮れむとす

 

萩の花