天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集・平成十三年「香菓(かぐのこのみ)」

  それぞれの落葉掃く朝曇り日の小路小路

  曇り日のここは明るき黄葉の欅広場に子ら飯を食む                         

  岩壁の赤きロープに取りつける人影ひとつ山紅葉照る

  学園の裏庭覗く日曜日消し忘れたる聖樹の明かり

  シドニーのマウンドに立つ松坂を熱燗酌みてわが声援す

  表情のなきたたずまひ校門のあかとき浮かぶ少年の顔

 

     解脱求めて   七首

  雨降りて小暗き朝をさみしむか店に立ち入る雌鹿の群

  南大門に人ら並べて撮る写真雨に濡れたる鹿が見てをり

  飛鳥寺如来の前に坐りゐて扇風機に吹かれ見上げてをりぬ

  田の畦に石組古りてまろまれり蘇我入鹿首塚といふ

  来し東院堂に胸あつく聖観世音菩薩を仰ぐ

  正面をひたに見つめて説きたまふ天と地を指す聖観世音

  初秋の奈良を巡りて横になる西日射し込むシングルベッド

 

     最終定理(二)   四首

  過激なる定義したれば孤独なり「無限」抱へて立つカントール

  問題の分かり易さにフェルマーの最終定理の美しさあり

  閉ぢこもる研究室に日は翳り書きあぐねたる証明の式

  交はりを断ちて見せざる手の内に最終定理の証明はある

 

  夕づけるさねさし相模の茜空富士と大山並び立つ見ゆ

  本人の与り知らぬ墓石のつやつやと光る「葛西善蔵

  猪の皮二枚干したる山道に猟犬供養塔新しき

  高館に立てばかなしも秋の陽に北上川の水面光れる

  借金を返し終はりて家古りぬの輝ける庭

  見尻坂、貝殻坂の間(あひ)に立つ外人墓地の十字架の群

  アマゾンの森の心を忘れざる裸族は雨期の飢ゑに耐へたり

  ポリ容器結びつけたり大山の樅の木立に降る酸性雨

  年の瀬の「あったかふる里直行便」北に南に深夜を走る

 

     世紀越ゆ   九首

  暮れなづむ茜の空にたふとかり今日わが立ちし大山の峰

  大山の麓に買ひし伽羅蕗の醤油煮旨し熱き御飯に

  並び立つサラブレッドの脚と知る吊り広告のなまめかしさに

  歳晩の卓に並ぶる酒肴訪ひくる子等を花活けて待つ

  夕暮の片瀬の海のかいつぶり浮かび来るを息つめて待つ

  新世紀招き寄するは吉のみと天狗の団扇人みなが持つ

  潜水艦三隻を見て帰り来ぬ正月二日の横須賀港に

  白バイに先導されて走りくる新世紀それぞれの青春

  かくも速く走り過ぎ去る青春か寒風つきて汗ばめる肌

 

              最終定理(三)   五首

  証明の傷に秋風滲みたれば来む厳冬の凍死を思ふ

  相照らし楕円方程式を見るロゼッタストーンのモジュラー形式

  フライ最終定理を読み解けば谷山=志村予想に等し

  隔たりし領域ふたつにかけ渡す最終定理の虹の証明

  来しかたのかたへにありし問題の解けたる後のさみしさにゐる

 

  真夏日の北極熊の背泳ぎは気持よげなり青きプールに

  大地震にダマルカ村は消えにけり瓦礫に坐り子は笛を吹く

  開山の兄を慕ひて出家せし尼なにゆゑの火定三昧

  初雪の積もれる上に散り敷ける紅葉かなしも踏み行きがたし

  足の爪切る給仕らを見てしより肉の「赤門」を憎みて訪はず

  戦争の臭ひはつかにただよへり石油専用貨車のつらなり

  木に止まり羽ばたく鳥の羽根を透く春の朝日のたふとかりけり

  しつこしと厭ふテレビのコマーシャルもいつしか口ずさむ風呂の中にて

  東海道空を暗めて降る雪に信号燈は頼りなく見ゆ

  手広から鎌倉までをたどりけり放代さんが歩きし道を

  雪の上に足跡残し消えにける山の獣の行方思へり

  地にかかる篠竹を頭に押し分けて下る雪の林道

  岩風呂ゆ谷川岳をながむれば気流湧くらしうす雲走る

  谷川岳に登り得ざりし思ひ出やロープウェイの往復切符

  空低く雪降る前の静けさに枯葉の谷の吊橋渡る

  桜木の枝に積もれる一夜雪朝の光のぬくときに落つ

  紅梅の根方に水仙咲きにほふ曽我自修学校発祥の地に

  日蓮が閉じ込められて刑を待つ露去りやらぬの森

  廃業のホテルの部屋のカーテンを人のひくごと春風揺らす

  あらたまの年の光は猛々しに熱を湧かしむ

  苗植ゑて十万本になりぬべし群れてけぶれる杉の実花粉

 

     奈良の旅   五首

  山椒とたらの芽添へて香り立つ鯛のあら煮に酌む吟醸酒

  旅先の奈良の宵闇やるせなし一万円をパチンコに擦る

  手の指の欠けてかなしき阿修羅像春のあしたに顔あかく立つ

  春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇

  時の塵かぶりて白き四天王、日光、月光、奈良の御仏

 

  吟醸酒一合枡にあふれさす茶髪娘の慣れたる手つき

 

     ユトリロの空   五首

  モンマルトル コタン小路に仰ぎ見る鉛色の空ユトリロの空

  石畳漆喰の壁酔ひどれのユトリロがゆく 父を知らざり

  恋多き母なり愛の欠落を酒が満たせる昼の居酒屋

  母恋ひて酒に溺るるユトリロがさまよひて描くパリ裏通り

  アル中の白の時代をなつかしみ老いてなぞれるゼンマイ仕掛

 

     早春賦   八首

  よくしやべる老女二人とわれとゐて祇園「松乃」に鰻食ひをり

  祇王祇女母刀自三人の墓に添ひ清盛公の供養塔立つ

  手を合はせ巡る化野念仏寺小石のごとき墓がひしめく

  若鹿が角突きあへる公園の濡るる深紅の椿

  伊賀忍者屋敷めぐれば気味わろし落とし床あり地下に口開く

  肥沃なる農地控へし城下町芭蕉生家の表札「松尾」

  井戸多き蓑虫庵の庭に立つ句碑の様々春雨に濡る

  水温む伊勢の野川に白々と立ちて動かぬ首長き鳥

 

  花咲くと町の知らせを読みにけむ車並べるかたくりの里

  蕉翁にゆかりあるとふくひな笛伊賀の上野にわれも買ひたり

  革命の象徴としてポル・ポトの傷暴く人傷隠す人

  凍滝に春きたるらし水音の滝壺の上に虹立ち初むる

  春光の中川一政美術館茶室に掛かる書に翳り無し

  青空の下のアトリエ百号のカンバス立てて描く駒ヶ岳

  しなやかに米寿迎へし身のこなし眼鏡の奥の眼澄みたり

 

     花うかれ   八首

  極楽寺坂のトンネル覗き込む山の桜と橋の上の我

  境内にふたつ並べる袂石、手玉石とふ神の

  大枝垂桜見に来る見て帰る人のあふるる入生田(いりゆうだ)の駅

  烏賊一夜干とさごしの開き買ふ花見帰りの小田原の駅

  継承者なくも安けく眠れると入るを薦むる「とこしえの塔」

  どこの花かしこの花と話しをり箱根花見の媼らのバス

  乙女ひとり鰻屋に来てうなぎ食ぶその父祖思ふ春昼下がり

  歌枕訪ねて帰る家づとに買ふはその地の匂ふ漬物

 

  墓石なき散骨の葬生前に頼む「やすらぎ黄泉路会」をば

  山の手の新興住宅そよ風に下手よりくる牛舎の臭ひ

 

     かたくりの里   五首

  昨夜降りし雪の残れる城山にうつむき咲けるかたくりの花

  藪椿散る城山に咲き出づる堅香子の花万葉の花

  かたくりの花のまにまに咲きゐたり紛らはしきは猩々袴

  堅香子の花に囲まれしづもれる墓地を羨む翁と媼

  残雪の垂(しづ)り受けたる首筋に斬首の前の涼しさを思ふ

 

  遊行寺のおほき木蓮咲きにけり毎年見るもたふとかりけり

  遊行寺の放生池を鎮めたり影を落とせる白れんの花

  子の名前大書せる凧大空に揚げて綱引く茶髪の兄(あに)い

  お彼岸の堂に籠もりて書き写す女ばかりの般若心経

  生ごみの収集曜日月、水、金鴉覚えて跳び歩く朝

  鈴付けて風呂敷包背に負へる犬を伴ふ川崎大師

 

     相模国   九首

  うぐひすの啼く篁(たかむら)の空翔(か)けて燕激しき恋をするかも

  たんぽぽの黄色の花を握りしめ「たんぽぽしやん」と幼子は言ふ

  歌碑立つる場所の下見に来しといふ舟に笑まへる白秋一家

  見桃寺門を出づれば沖に見ゆ白馬の群のごとき白波

  をみならが食うべ始めて匂ひけり三浦三崎に買ひしトロまん

  「クリスタル・ホテル」裏手に新しき「セント・ラファエル・ショウナン・チャペル」

  「マルフク」の看板裏に高啼ける鴉一羽は子鴉ならむ

  相模川土手に妻子を坐らせてかなしからずや釣り糸垂るる

  八人が大凧支へ帰り来る相州俣野のげんげ田の中

 

     大道芸   六首

  童顔のパントマイムをかなしめり客まばらなる野毛の地下道

  間の悪き拍手起これば取り落とす中国ヨウヨウ人笑はせて

  「日本棋院九段」の旗はためけり老人ばかりの大道将棋

  ぢを病める若きをみなは只でよし蝦蟇の油を付けて進ぜむ

  十八年野毛山に棲み床ずれの胸に血を噴くフタコブラクダ

  同居せる檻の狭きにいらだつや背黒鴎を川鵜がつつく

 

  路地裏に夕陽翳れば今日もくる「とうふ」「なっとう」物売りの声

  いづこにも名残の坂はなかりけりまろびて悔し尻こすり坂

  嘴にイカナゴあまた咥へたるウトウ帰り来の島に

  「晩酌屋久兵衛」の酒器買ひにけりきき酒に酔ふおはらひ町に

 

     青の季節   九首

  「ああ火葥(ひや)の神々」と戦士を讃へけり敗戦間際の朝日新聞

  目を細め壁に映れる草花の影を見てゐつ夕陽の猫は

  元町の洋品店に立ち寄ればジャスミン香る「午後の曳航」

  痛めたる片足庇ひ背をかがめ交尾許せる雌鳩あはれ

  雨に濡るる鳩の羽毛の汚きを憎みてをりぬ寺の軒下

  白秋の死にし齢になりたれば日毎苦しくなる不整脈

  いつせいに人仰ぎ見る崖上の黄色まぶしきマリーゴールド

  丘の辺に濃き紅を散らしたり山背に揺るる雛罌粟の花

  折れ伏せる青草に寄る色鯉の濁れる水を媼らと見き

 

  香り立つ朝の珈琲苦ければ京都伏見の田舎饅頭

  漱石の鬱を癒せし帰源院桜散りたる後の静けさ

  DNAの解明競ふ今の世にSPYとふ言葉精気帯びたり

  軒下に棚を作りて並べたりお猪口に植ゑしグミ、ユスラウメ

  ひろらなる海の癒やせる傷なれどまたも傷つくパールハーバー

  卵黄、バター、砂糖加へて練り上げし雅(みやび)芋とふ裏ごしの芋

  身障の幼子に声かけてゆく月曜朝の駅の階段

  神坐す山の頂き登りきて憩へる人の顔ぞすがしき

  息継ぎの音高鳴れりアマゾンの川面に朱き古代魚の肌

  長々と蛇口の水を飲んでいる線路工夫の汗をうらやむ

  紺碧の海が癒せる傷なれどまたも傷つくパールハーバー

  青々と水田ひろがる足柄の水音高きあぢさゐの里

 

     具会一処   九首

  線香を一束買ひて手桶持ち御堂目安に登る坂道

  墓石にこびりつきたる閼伽水かけて流しけるかも

  白、黄色、紫もあり青白き百合の蕾も ふたつ花束

  初めての歌会は秋の円覚寺雲頂庵に高瀬氏と会ふ

  「三井ゆき先生」と言ひ、初めての歌会に強くられき

  読み返す葉書の文字のうねうねと励まし給ふ言葉たふとき

  何事も持続は力と励まされ入会以来欠詠は無し

  「酒のうた」四季折々に選り給ふ酒好きなれば倦まずわが詠む

  数ふれば十三首になりぬ「酒のうた」高瀬一誌の選に入りたる

 

     川崎大師   五首

  献香の煙被りて手を合はす若葉まぶしき川崎大師

  のし烏賊にお好み焼に蛸焼にタオル竹籠唐辛子売る

  めぐりては福徳稲荷不動堂七味横目にたこ焼を食ぶ

  竹細工梟を売る口上に餌をやるなと人笑はせて

  バス待ちて人ら坐れる木のベンチ端に三毛猫寝ねて動かぬ

 

  火山灰被りし森に梅雨くれば色の濃くなる胴吹き若葉

  亭々と欅並み立つ参道をゆけばニイニイ蝉の声降る

  藤村邸七時を過ぎて止まりたる柱時計と麦藁帽子

 

     朱の季節   九首

  ぬめぬめと光る背中の青緑生れしばかりの蜥蜴岩這ふ

  赤き筋首と甲羅に現れて怒れるごとく亀池に棲む

  肉垂るる喉(のみど)鳴らして威嚇せりカンムリサケビドリの夏来る

  看板に鴉止まりて高啼けり眼科胃腸科歯科肛門科

  鳶あまた飛行せる空江ノ島の岩屋の裏に焼くバーベキュー

  銀猫の話記せる碑(いしぶみ)の漢文なれば眺むるばかり

  釣舟とプレジャーボート係留の河口に生るる赤き

  国のためと信じて死にし将兵を厭へる国にならむとすらむ

  わだつみの鱗(いろくづ)の群に慕はるる「呑龍」といふ重爆撃機

 

     相模国   五首

  頼朝と政子並びて語らひし月夜に淡き沖のはつしま

  頼朝の隠れし窟(いはや)鵐(しとど)とふ鳥飛び立ちて敵くらませり

  引汐になれば現る唐船を造りて泊めし和賀江の港

  北条の母が襲ひし子の源氏谷戸のやぐらに墓並び立つ

  雨降らぬ相模の海に霞立ち目路果つるまで白波の浜

 

  いつ埋めし何の木の実か忘れけり青芽出で来るカボックの鉢

  梅雨雲の奥処ゆくらし飛行機の音の籠れる真鶴岬

  神主の「乾杯」の声高らかに伊豆山神社に契りしふたり

  いにしへの屍掘り出し展示せる風土記の丘に降る蝉時雨

  潮垂るるウエットスーツを並べ干すダイビングスクールの昼食時間

 

     西行を追ふ(一)   九首

  西行のたどりし道はいかなるや峰を見上ぐるこでまりの花

  白鷺の影を映せる綾川の土手下りくれば雲井宮跡

  並み立てる小山を見ればふつふつと湧き出づる怒りしづめかねつも

  まつられし白峰の宮朝風に恨みやはらぐうぐひすの声

  入唐(にっとう)に先立ち父母に残さむと池に映して描きし自画像

  テーブルにうつぶすごとく食うべゐる父母を見る金縁眼鏡

  真玉を生殖巣に埋め込まれシロチョウガイは白き液噴く

  性欲を覚ゆるほどにかなしかり波間に浮かぶ海女のいそ笛

  西行芭蕉は如何に渡りけむこの波荒き水道

 

  青臭き嫁の不倫を言ひ募り夜をなまめく初老の妻は

  ふがひなき男と思ふ不倫せる嫁許さむと妻に告げくる

  修復を申し出でしが断りぬ子よりも強き不倫の嫁は

  共稼ぎ社宅に住めば成り立ちし二人の暮らし向日葵枯るる

  けなげにも親の世話にはならぬとふ無理な暮らしを気遣ふ妻は

  半生のうるめ丸干炙りたり戦火に明くるアフガニスタン

  撫でられてべそかくほどに磨り減りし「赤い靴」はく少女の像は

  あをあをと髭剃り跡に陽は照りてニコライ堂を牧師出で来る

 

     西行を追ふ(二)   八首

  西行が庵かまへし場所なべて表を避くる裏山の陰

  流鏑馬の的はずしても楽しきは浮世の外の雅なりけり

  出家せし身にまつろふは光のみ敵味方なく濁世を渡る

  西行は視線を遠く置きにけむ老いて厭はぬみちのくの旅

  八幡宮の楠若葉注連縄細く幹太かりき

  飴舐めて疲れを茶屋に癒しけり茶摘みさかりの小夜の中山

  将軍の目に止まらむと歩きけむゆきつもどりつ若宮大路

  水銀を飲みて合はする死期もあり花の下にはあらぬ噂も

 

     八雲立つ   五首

  太柱束ねて建てし雲に隠れて見えざりしといふ

  竪穴式住まひの土間の土の色風土記の丘に土笛を吹く

  八雲立つ出雲国府の跡に吹く青田の風のむし暑きかな

  をちこちに古墳が暗き口を開くいづくにかある

  貴族の膳、庶民の膳と並ぶれば海の恵みの食多かりき

 

  その底の郷愁深き人造湖ブラックバスの影が濃くなる

  岩走るオコジョ狙ふかチョウゲンボウ羽ばたき浮かぶ北岳の空

  排ガスの音に戦き立ち尽くす箱根畑宿石畳道

  屋台にはぎんなん、たこ焼き、ぶどう飴、天津甘栗 嗚呼七五三

  誰を待つでもなく待てる方代さん鎌倉駅にほのぼのといる

 

     白の季節   七首

  好奇心強きオコジヨに見つめられ登山者ゆけり北岳の尾根

  青き目が大道芸の火を吐けり「港の見える丘」公園に

  威勢よき子供神輿は足早にホテルCATSを巡りてゆきぬ

  老いてなほ見習ひたきはこの人と伊能忠敬の旧宅を訪ふ

  北限に棲むニホンザル秋来れば雄の雄叫び雌の恋鳴き

  後ろ足ひとつ欠けたるボスザルの記憶に残る鉄錆の罠

  霧深き釧路湿原丹頂の思慮深げなる歩みなりけり

 

     戦   六首

  元帥の銅像下のホームレス寝ねて過ごせる今日敗戦忌

  朕といひ爾臣民といふ物言ひの神話世界を生きし近代

  「戦陣訓」読み上ぐる陸軍大臣の声朗々と忘我の境

  「国のために死にしを何と思ふか」と迫られてをり英霊たちに

  軍人に無駄死強ひし「戦陣訓」捕虜となりしを今も隠せる

  報復とふ言葉安易に使ひたりつゆけき野辺に咲く彼岸花

 

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