天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集・平成三十年「春愁」

     イチローを追ふ(十一)   七首

  外国人選手トップの安打数MLBの歴史にのこる

  先発し六打席あり二安打しアウト一つにフォアボール三つ

  フィリーズ戦代打に立ちてスリーラン百三十二メートル飛ぶ

  名投手ストラスバーグの直球に三球三振うつ向きもどる

  先発し単打、二塁打、フォアボール されどチームは大敗したり

  イチローの年間代打の打席数MLBの新記録なす

  センターとして先発し二安打す通算三千七十五本

 

     イチローを追ふ(十二・完)   七首

  年間の最多安打を記録せし年より開始イチメーターを 

  シアトルのシーズン・チケット買ひつづけイチメーターを掲げてゐたり

  イチローの二通の手紙が一番の宝物と言ふエイミーさんは

  シアトルを発ちてフロリダ・マイアミへ今年最後のイチローを見に 

  この年を代打安打でしめくくる四千三百五十八本

  五十まで選手たらむといふ決意エイミーさんは不安顔なる 

  いつの日かシアトルに来るイチローをエイミーさんは夢に見るらし 

 

     春愁   十五首

  朝夕に見るもの聞くものことごとく哀しくなるは命なりけり

  細胞が命の基本遺伝子のはたらきにより動きが決まる

  養鰻の池さわ立てり春(はる)朝(あさ)の影きはやかに鷺のはばたく

  飛ぶ走る泳ぐいづれか秀づれば種は存続す鳥獣世界

  怪我をして助からざれば母ライオン子の顔咥へ窒息せしむ

  大津波跡に残りて立ち枯れし奇跡の一本松は伐られつ

  晩年のこと気にかかり落ちつかずあまた書棚の書籍やファイル

  歳とりて容姿みにくくなりたるを命の果てとあきらめにけり

  わが命宇宙の塵にみたざれば墓など無用散骨でよし

  三十年以上も居間の鉢にあり妻が世話する大きカボック

  散歩には妻を伴ひどちらかが残りし後のこと話し合ふ 

  AIが喜怒哀楽をもつことも可能ならしむ深層学習(ディープラーニング) 

  相対性理論の理解足らざればあらためて見る「放送大学

  落馬して記憶失せたる騎手もゐる終(つひ)の棲家の養老牧場 

  いつまでも変はらずにゐてと言ひ残し明るく逝きし人を忘れず

 

     早春賦   七首

  あづさゆみ春の日差しの里山の枯木の幹をリスかけのぼる

  鳥の巣かはた宿り木かふたつほど桜こずゑにかたまれる見ゆ

  水仙の咲けるなだりをのぼり来て菜の花越しに見る富士の峰

  雲を追ひ森を鳴らして駆けきたり木の芽うながす春の嵐

  糸川の熱海桜にメジロきてインスタ映えをわれら狙へり

  けふひと日人にやさしくできたかと反省するをならひとなさむ

  さはがしきカモメの群を避けて佇つ池のほとりの一羽アオサギ

 

     鎌倉探訪―月影ケ谷(やつ)   七首

  阿仏尼の住ひし場所はこのあたり踏切そばに石碑は立てり 

  子のために所領安堵を訴へて東へ下る母たくましき 

  阿仏尼の『十六夜日記』に想ひみる風音すごき月影ケ谷  

  将軍に和歌の手ほどきしたればかかなへられたる母子の願ひ 

  阿仏尼の持仏なりしと伝へたり人の背丈の月影地蔵 

  阿仏尼の墓は路傍に子の墓は浄光明寺に鉄路が分かつ 

  阿仏尼の母子(ははこ)が耐へし年月に涙こぼるる月影ケ谷 

 

     鎌倉探訪―腰越   七首

  紅梅の山門入れば左手に誰姿森元使塚(たがすがたもりげんしづか)あり 

  菩提樹と海紅豆立つ山門をくぐりて出会ふ光松の裔 

  信号を鳴らして来たり優先は路面電車の腰越通り 

  腰越之状を見つめて無言なる義経弁慶主従の像は 

  弁慶の腰掛石に腰おろし写真撮る人観光客は 

  本堂の襖絵とせる逃避行 静、弁慶、義経が立つ 

  太宰のみ死にきれざりし心中のふかき悔恨小動崎(こゆるぎがさき) 

 

     二刀流渡米す   七首

  張本も江本も無理と断言す二刀流なる大谷翔平

  翔平の今日は四打席三安打ショータイムなるスリーランあり

  とび起きてテレビを前に手をたたく打者大谷のホームランには

  スプリット、フォーシームもておほかたの試合を制すはや三勝目

  投手打者いづれの技も秀でたりMLBはオータニに湧く

  調整のしかた心得経験もありて安心とソーシア監督

  見るのみの生き甲斐なれば大谷の不調なるとき不安はつのる

 

  ニュートリノ来ればかぼそき仄明かり地下深く置く重水タンク

 

     鎌倉探訪―松葉ガ谷(やつ)   七首

  上人の熱意を今に伝へたり小町大路の辻説法跡 

  捕縛吏をのがれ隠れし洞窟は松葉ガ谷に今も残れる 

  刑場へゆく上人にぼた餅をさし出だしたり老いたる尼は 

  日蓮の辻説法の跡を見て何を思ひし正岡子規は 

  上人の辻説法を詠みし歌安国論寺に歌碑となりたり 

  上人の弟子多ければ鎌倉に日蓮宗の寺栄へたり 

  質素なる食事なりしと伝へたる土光敏夫安国論寺に 

 

     鎌倉探訪―稲村ケ崎  七首

  すめろぎが明治の御代に詠みたまふ稲村ケ崎新田義貞

  義貞の十一名のもののふが自刃せしとふ稲村ケ崎 

  絶景と稲村ケ崎を讃へにしコッホ博士の記念碑はあり

  岸壁に波打ち寄せてしぶき立つ稲村ケ崎に春陽かげらふ

  荒海に十二人の子ら乗せてボート沈みぬ白き富士の根 

  江ノ島のかなたの富士に手を振るか弟かばふ兄の姿は 

  晩年は七里ガ浜を歩きける西田幾多郎哲学の道  

 

     鎌倉探訪―由比ガ浜  七首

  鶴ケ丘八幡宮へ一直線由比ガ浜から若宮大路 

  そのかみの刑場ありし由比ガ浜義経の児も遺棄されしといふ 

  潮引けばはつかあらはる和賀江島船の出入りの港なりしが 

  白波の渚続ける由比ガ浜ハクセキレイと犬と歩ける 

  実朝の夢に造りし唐船は浮かばざりけり由比ガ浜沖 

  浮かばざる船を造りし陳和卿ゆく方知れず船は朽ちたり 

  シロナガスクジラ一頭漂着す死を確かめて人だかりせり 

 

     白内障の治療   七首

  ひだり目に霞かかれり両目でも視界ぼやけて歩きがたしも 

  白内障検査を待ちてテレビ見る右目左目開いて閉ぢて

  ひだり目の水晶体をくだきとり人工レンズを入れる手術ぞ

  術前の体温血圧心電図はかりて待てり安楽椅子に 

  白内障手術の過程を感じ得ずただ明滅の光点三つ 

  白内障日帰り手術はありがたし術前術後の送り迎へも 

  眼帯をとればひだり目きはやかに診察室の備品見分くる

 

     ショータイム(一)   七首

  三試合連続ホームラン打ちしかば「翔(ショー)タイム」とふ呼び名つきたり 

  大谷の右肘靭帯損傷のニュースとどきて落胆ふかき 

  大谷は二人の選手に等しいと故障に滅入るソーシア監督 

  「トミー・ジョン手術は無しですませたい」気分はおもきエプラーGM 

  トミー・ジョン手術を回避注射にて回復を待つ大谷の日々  

  左手のティーバッティングはじめたり先ずバッターとして復帰せむ 

  大谷の復帰待たるるエンジェルス順位成績下がるばかりぞ  

 

  短歌にも起承転結あるべしと仙台文学館の講座に

 

エイミーさん