天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集・令和元年「同窓会」

     ショータイム(二)   七首

  大谷は復帰後すぐにDH六番にして球場湧かす

  復帰後の二戦目に打つ初ヒット明日は大谷二十四歳

  一か月ぶりのヒットによろこびの声あがりたり国のあちこち

  復帰後のアメリカ独立記念日を祝福したりヒット、二塁打

  大谷が苦手な左投手ゆゑ第三戦はベンチスタート 

  大谷の四球盗塁きつかけにドジャーズ戦に逆転勝利  

  翌日のドジャーズ戦は代打にてホームランせりエンジェルス勝つ 

 

     ショータイム(三)   七首

  球場の選手を見れば想はるるローマ時代のグラジエータ

  十代や五十代の女性から大谷応援のメッセージくる 

  大谷の復帰後初の登板の平均球速百五十五キロ 

  相棒でありしキャッチャーのマルドナード打席に立ちて大谷に笑む 

  トラウトとプーホールズに大谷が続きホームラン エンジェルス勝つ 

  シーズンの終はる翌日手術して成功せりとバスのテレビに 

  トミー・ジョン手術終はればア・リーグの新人王のタイトルが待つ 

 

     同窓会   七首

  涛音にそだてられたる大松のあまた立ちたり橋立の森 

  吊り橋に迂回路あれど怖いものみたさに渡るつはぶきの花 

  あの先生この先生はお元気か当時思ひて話ははづむ

  亡くなりし友の誰彼をなつかしむ五十年目の同窓会は 

  相部屋の友のいびきの激しさにいつしか慣れてひととき眠る 

  空晴れて朝日出づれど晩秋の風はつめたし伊豆高原に 

  友たちと手を振り別る青空の朝日まぶしき伊豆高原に 

 

     悟り   七首

  人間の寿命限界百二十五歳となせり統計学は  

  「地球史を読み解く」講座見終はりて心にかかる地球消滅 

  膨張のすゑに宇宙は消滅す一千四百億年ののち 

  大いなる悟りといはむ相対性理論をのこし死して散骨 

  二十万年経ちて争ひ激化するホモサピエンスの滅びは近し 

  人生の悟りとなさむ宇宙論千億年のうちの百年  

  忘れたる人の名前を思ひ出す五十音図をくちずさみつつ 

 

     鎌倉探訪―土牢跡   七首

  光則寺墓地のはづれのふた所土牢なりし洞窟はあり 

  日蓮を斬殺せむとふりあげし刀にひらめく一ついなづま

  明日佐渡へまかると言ひて土牢の弟子を気遣ふ日蓮の文 

  許されて出牢ならば佐渡に来よ急ぎきたれと日蓮は書く 

  土牢の跡とも見えず大岩の重なりあひて断崖をなす

  捕はれし悪七兵衛景清の無念をおもふ土牢跡に 

  囚はれし父に会はむと鎌倉へ下向したれど叶はざりけり 

 

     令和へ   七首

  大化から二百四十八番目新元号は令和となりぬ

  中国の登録商標に見つかりし新元号の令和とふ文字

  令和なる「令」に権威をよみ取りて元号名にふさはずと言ふ 

  「和を以つて貴しとなす」新元号「令和」のもてる暗喩となさむ  

  百年がたちて得られし映像のブラックホール令和を前に 

  平成の最後の日には寿司を食べ令和明くればステーキを食ぶ  

  大化から二百四十八番目「令和」「令和」とみな唱へたり

 

  一本の綱にたよりて老人と老犬がくる夕ぐれの道

 

     鎌倉探訪―刑場跡   七首

  人死にし場所におかれし地蔵尊 刑死、殺人、はた行き倒れ 

  そのかみの刑場なりし塔の辻供養塔あり六地蔵立つ 

  後醍醐を支へしゆゑに斬首さる文章博士日野俊基は 

  親王が首落とされし場所といふ大塔宮の裏の首塚 

  土牢に幽閉されし九か月のち引き出され首落とされし 

  親王の功をしのべる鎌倉宮明治天皇の御下命になる 

  望ましき体制もとめ闘ふは今も昔も変らざりけり 

 

     全身麻酔   七首

  立ち上がり歩かむとすればぷつくりと膨れ出でくる鼠径ヘルニア

  半日の会議に耐ふる発言は先鋭となる ヘルニアの所為

  優秀なる医師で後輩と予約表とりてくれたり掛かりつけ医師

  今までに全身麻酔の外科手術経験なくて不安極まる 

  手術前大谷翔平のホームラン、ヒットを見ては力湧きたり 

  麻酔薬一瞬に効き目覚むれば一時間半の手術終はれり 

  近寄れる若き女性看護師の肢体まぶしむその健康美 

 

     折に触れて   七首

  M87銀河に焦点合せたり地球上六ケ所の望遠鏡は 

  百年がたちて得られし映像のブラックホール令和を前に

  石油から人が作りしすぐれものプラスチックは始末におへぬ

  急死せしスキャッグス投手を悲しみて顎鬚剃りしオースマス監督 

  トラウトの悔やみの言葉に涙せり後ろに立てる大谷翔平

  代打にて亡き親友に追悼の一打放てり大谷翔平

  終活とふはやり言葉が身にせまる昭和、平成、令和と生きて 

 

     軽井沢   七首

  木洩れ陽の林ゆたけき軽井沢別荘もてる人をうらやむ

  万葉の二首を刻める歌碑立てり碓氷峠の見晴台に 

  水墨の滝、崖の絵に魅せられて千住博の思ひ伝はる

  水のみを描ける瀧の水墨画床にひろがる水しぶき視る

  自在なる筆のさばきの水墨画水のみ描きて大瀧かかる 

  壁一面大瀧の絵がかかりたり床に流るる幻の水

  上皇上皇后が思ひ出のテニスコートを訪ひて笑まへり

 

     鬱   七首

  過去のこと思ひ出だせば悔い多くやり直せねば鬱はふかまる

  茶器什器ぶつかるはつかなる音も雷のごとくに脳にひびかふ

  ささいなる言葉づかひのまちがひも耳にのこりて気分を害す

  身近なる花の名前も忘れはてただ美しと日々をすごせり 

  人の顔見るたび嫌悪おぼえたりことにテレビの大映しせる

  体力は落つるばかりぞ寝ころびてMLBのテレビ観戦 

  終活の期間短縮なすべしとなすべきことを書きならべたり

 

ショータイム