天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集・平成七年「機関車」

       公園の黒き機関車冬ざるる

       水涸れや小便小僧のやるせなく

       反射炉は江戸の昔よ稲雀

       隕石や出雲の冬をつきぬけて

       鶏頭の燃えたつ里に下山せり

       腕組みて秋の夕陽の男かな

       野仏や首にかけたる烏瓜

       枯葉散る修道院の塀高き

       狛犬の頬かむりしてむき合へり

       林立の帆柱入江に春を待つ

       灯火親し隣のピアノやみて後

       籾殻を焼きて冬立つ筑波山

       小春日や乗合船にさそふ声

       着ぶくれの主に蹴られ犬縮む

       物言はぬ木木に囲まれ暖かき

       枯枝に身をあづけしが折れにけり

       敷島の大和は杉の花粉かな

       みぞるるや氷見の港のかぶす鍋

       冬花火ベルリンの壁壊さるる

       鉢抱へ妻の出で立つ初明り

       焚火して山門修理の宮大工

       わたつみの初日滴り出でにけり

       節分の鬼震災の跡に泣く

       山鳩の羽色冬の青さかな

       海豹の大き寝言や日向ぼこ

       凍てつきし草原のパオ月上がる

       大仏の胎内ぬくし暗くとも

       炬燵にも鉛筆削り広辞苑

       観測員富士山頂に餅を搗く

       天草やバラモン凧はうなりあげ

       熊避けの口笛かすれ山登る

       チャルメラに和する遠吠おぼろ月

       春の海光あふるる操舵室

       居酒屋に大根切る音響きけり

       流氷に海豹の仔の瞳かな

       高千穂や夜神楽の間のにぎり飯

       櫓をこぐや葦刈る人に声かけて

       蝸牛ディズニーランドの灯を背負ひ

       白き帆の一列出づる湾の春

       妻ときて薮蚊にくはる沢の音

       戸隠の忍法雪にまろび消ゆ

       春一番マクドナルドの混合へり

       雉子鳴くや噴煙高き桜島

       式次第打合せゐる花曇

       太陽の二つ重なる蜃気楼

       春の雪名人戦千日手

       春の海恋人岬の鐘が鳴る

       木下闇祠もらひし道祖神

       鳥翔ちて老樹の落花はじまりぬ

       ブラームスの生家真白し風薫る

       寝たきりの床の母にも更衣

       つまづきて鴬鳴けり朝の谷戸

       梅若忌観光船の子等はしやぐ

       カシミヤはモンゴル山羊の春毛かな

       水飴や花の下なる紙芝居

       菜の花や川の中洲に川岸に

       万緑の三四郎池の石に座す

       番台の芸妓鑑札夏来る

       菖蒲湯をありがたがりてのぼせけり

       梅雨空やまぶしき白き靴買はむ

       曲り家に五月雨を聞く遠野かな

       廃校に集ひ新茶の手揉みかな

       汗かきて轆轤回せば土笑ふ

       仔馬にはまつさらな土北海道

       鮠獲りてアカショウビンはうちたたく

       乳飲み子の三春人形胸涼し

       新涼の隧道出口まぶしかり

       大砲の音に揺るぎし春霞

       早苗饗や甲賀の里の鉄砲漬

       森姫と名付けしぶなの滴れり

       あぢさゐの青きに肩をたたかれし

       山深き里の闘牛夏来る

       からころと湿生花園の蛙かな

       合鴨の子の群放つ青田かな

       水鳥は水面を駈けて飛び立つも

       子泣き止む風鈴真夜に鳴り響き

       育てよと水田に放つ錦鯉

       日を恋ひて水面に出でし海月かな

       無防備の畑に熟るるトマトかな

       夕顔の実の覗きけり夜の窓

       禰宜巫女の後に従ふ神輿かな

       白河の関よりみちのく揚雲雀

       西行芭蕉も汲みし清水かな

       打水や板前の下駄高鳴れる

       大谷廟母とふたりのソーダ

       銀閣寺母買ひくれし夏帽子

       百合匂ふ水分神社の石の階

       伊賀上野はやも案山子の出で立てり

       はるけくも鳥翔りゆく雲の峯

 

機関車