天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集・平成二十九年「古希の春」

       あらためて過去振り返る古希の春

       カーテンに猫がとびつく秋の風

       墓ならべ藤村夫妻蝉しぐれ

       頭に触れて風鈴鳴りぬ鴫立庵

       米ぶくろ抱へて急ぐ秋の雨

       観賞にたへて糸瓜の垂れさがる

       鳩来り積める落葉を掻きちらす

       大輪の黄なるダリアに満ち足りぬ

       他愛無き言葉に笑ふ七五三 

       小春日や大黒天を撫でまはす

       街路樹の落葉みつめて人を待つ 

       裏山に土牢二つ笹子鳴く

       年とりて花のいのちをうらやめり

       差し交す紅葉の木立化粧坂  

       銭洗ふ師走の水や弁財天  

       冬枯れのけやきの根方鋏塚      

       大寒や熱きご飯に生たまご      

       寒風に顔さらしたる朝湯かな     

       立春の日射しにねむる電車かな 

       不用なる火の見櫓か春の富士  

       砲撃のとほくとどろく曽我の梅 

       津波来し海を見下ろす桜かな

       出稼ぎの思ひ出語る花見かな

       大八洲桜見てみな浮かれだす

       越して来し日を思ひ出す辛夷かな 

       夕食に花見弁当老夫婦   

       恐竜の絶滅おもふ月の痣

       皮衣着て筍のたくましき 

       紫陽花やつるべに活けて井戸の端 

       孤高なる松の枝ぶり梅雨の空 

       紫陽花や鎌倉十井つるべの井 

       髪洗ふごとし柳に雨やまず 

       七夕ややすらかな死もねがひけり 

       寝ころんで野球見てゐる夏座敷 

       バスを待つ炎暑のベンチ背を伸ばし 

       冠雪の富士あからひく朝日光

       森ふかく山百合人を恋ふごとし

       洪水の引きて花火や大曲

       寄り添へば花火が照らす涙かな 

       み仏の胎内に入る長谷の春

       秋彼岸龍が水吐く手水鉢  

 

糸瓜