天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

夏の風(3)

小学館より

 山背風(やませ): 東北地方の太平洋沿岸に山越えて吹いてくる冷たい北東風のこと。山瀬風とも書く。

     津軽女等やませの寒き頬被       富安風生
     やませ来るいたちのやうにしなやかに  佐藤鬼房


  勝ち負けの弓のやませに散る花をまとゐの外の人も見よかし
                     弁乳母
  野をわたる山背風(やませ)は頬に寒けれど春のひかりとなりし山々
                    結城哀草果
  春曇り海の岬へ吹き落す長き山背(やませ)の七里長浜
                    福田栄一


荷風(かふう): 蓮の上を吹き渡る風のこと。

     蓮の葉や水を離れんとして今日も暮る   村上鬼城


薫風: 若葉の間を吹き抜けて初夏の香りを運ぶ南風。

     薫風や恨みなき身の夏ごろも       与謝蕪村


黄雀風: 陰暦五月に吹く南島の風。

     人妻は髪に珊瑚や黄雀風         三橋鷹女


御祭風(ごさい): 「ごさいかぜ」とも。伊勢神宮祭礼(六月中旬)の頃に吹く北東の風。

     小枕に仮り寝のさむき御祭風かな     飯田蛇笏


日方(ひかた): 日本海沿岸に吹く夏の季節風。「しかた」とも呼ぶ。

     シカタ荒れし風も名残や時鳥       河東碧梧桐


茅花流し: 銀白色の茅萱の花穂を吹き渡る風。

     茅花流し水満々と吉野川         松崎鉄之介
     もう一度つばな流しに立ちたしよ     角川照子


夕凪(ゆうなぎ): 海岸地方では、夏の日没から午後十時近くまで無風状態になる。朝凪もある。

     夕凪や仏づとめも真つ裸         宮部寸七翁
     どの家もいま夕凪の伊予簾        今井つる女
     朝凪や膝ついて選る市のもの       片山由美子


  来ぬ人を松帆の浦の夕凪に焼くや藻塩の身も焦れつつ
                         藤原定家