天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

鑑賞の文学 ―俳句篇(4)―

月天心貧しき町を通りけり 蕪村 [朔太郎]月光の下、ひとり深夜の裏町を通る人は、だれしも皆こうした詩情に浸るであろう。しかも人々はいまだかつてこの情景を捉え表現し得なかった。蕪村の俳句は、最も短かい詩形において、よくこの深遠な詩情を捉え、簡…

鑑賞の文学 ―短歌篇(4)―

うちしめりあやめぞかをる時鳥鳴くや五月の雨の夕暮 藤原良経『新古今集』 [塚本邦雄]意味の上では二句で切れ、表記を厳密にするならここで一字あけ、「時鳥」以下の三、四、五句を続けるべき、即ち卒然と読み下せば、必ず時鳥で切ってしまう懼れのあるこ…

蒲原有明

蒲原有明(かんばら ありあけ)は、明治九年(1876年)三月十五日、東京麹町に生まれた。島崎藤村の影響を受けて詩の世界に入った。わが国近代象徴詩の代表格である。有明が鎌倉宮から覚園寺へと続く薬師堂ケ谷の一角に居を構えたのは大正九年(1920年)三…

鷹の爪

トウガラシの代表的な品種。熱帯アメリカ原産、ナス科の植物。乾燥させた実を丸ごと、あるいは輪切りや粉末にして香辛料として使う。粉末にした鷹の爪は一味唐辛子と呼ばれる。米の中に入れておくと防虫効果がある。 つゆじもは幾夜降りしとおもふまで立てる…

ナマズ科。淡水魚で四本の口ひげを持つ。体の表面は粘液に包まれ、鱗はない。初夏、水草に産卵する。イタリア北部の湖で釣りあげられた巨大ナマズは、長さ8.2フィート(2.5m)、重さ250ポンド(約113kg)もあったという。メコンのナマズ Pa beuk では、長さ2…

金木犀

モクセイ科モクセイ属の常緑小高木樹。原産地は中国南部で、日本には江戸時代に渡来した。雌雄異株だが、日本には雄株しか入っていないので結実しないという。現在でもそうなのか?花冠は白ワインに漬けたり(桂花陳酒)、茶に混ぜて桂花茶と呼ばれる花茶に…

小泉八雲展

生誕160年、来日120年を記念して、10月2日から11月14日まで、神奈川近代文学館にて開催された。充実した資料と説明が展示されていた。日本における14年あまりの日々を中心に、草稿、書簡、遺愛品、初版本、写真など約400点により、54年…

鑑賞の文学 ―俳句篇(3)―

近代において、俳人・与謝蕪村の名を一躍世に高からしめたのは、正岡子規であったが、その方法は、一句一句の鑑賞によってではなく、蕪村句集全体を分析・分類して評価したものであった。分析の項目は、詳細は省くが、以下のような設定であった。 ・積極的美…

鑑賞の文学 ―短歌篇(3)―

瓶にさす藤の花ぶさみじかければたゝみの上にとゞかざりけり 正岡子規 (注)「墨汁一滴」十首中の第一首目で、長い詞書がついている。 [斎藤茂吉]平明な作であるが此歌ほど甚深の味のある歌は稀有である。いま世でよくいふ鮮やかな敏い感覚の歌の実例はと…

背高泡立草

キク科アキノキリンソウ属の多年草。北米原産で、明治に渡来、全国に群落をつくって芒などと競合しながら広がった。わが国には、もっと背丈の低い(高さ:80cm程度)秋の麒麟草がある。なお、同時期に帰化したブタクサと間違いやすい。 休耕の田に咲きさかる…

藤沢宿

東海道五十三次の宿場の一つ。時宗総本山の遊行寺や江ノ島詣の観光の拠点でもあった。宿場になったのは、慶長6年(1601年)のこと。藤沢公民館と藤沢市民病院の間には、藤沢御殿と呼ばれる徳川将軍家の宿泊施設があった。家康、秀忠、家光などが30回ほど利用…

鑑賞の文学 ―俳句篇(2)―

古池や蛙飛び込む水の音 芭蕉 [子規]善悪の外に独立し、是非の間を離れたるを以て善悪の標準をあてはめ難きものなり。この句は俳諧の歴史上最必要なるものに相違なけれども、文学上にはそれ程の必要を見ざるものなり。 [虚子]そうたいしたいい句とも考え…

鑑賞の文学 ―短歌篇(2)―

たまきはる宇智(うち)の大野(おほぬ)に馬(うま)並(な)めて 朝(あさ)踏(ふ)ますらむその草深野(くさふかぬ) 中皇命『万葉集』 [斎藤茂吉](『万葉秀歌』から、この歌の鑑賞の要点のみを以下に。) 一首は、豊腴(ほうゆ)にして荘潔、些(いささか)の渋滞なく…

白粉花

オシロイバナは、オシロイバナ科の多年草で、南米原産。花が美しいので観賞用に栽培されるが、野生化している。江戸時代始め頃に渡来したという。花は夕方開き、芳香がある。このため和名としては夕化粧とも呼ばれる。種子は黒いが、割ると白粉のような胚乳…

ぎんなんの季節

大船からバスに乗って白山神社まで行き、そこから徒歩で鎌倉湖、覺園寺、荏柄神社、鶴ケ丘八幡宮、川喜多記念館 などをめぐった。寒くないので木枯しとは言わないのだろうが、十一月中旬の強風の中を歩いた。道々気を配って歩くと、新しい景色が出来ているこ…

鑑賞の文学 ―俳句篇(1)―

俳句の鑑賞文の歴史を見ておこう。 俳句の鑑賞文については、大正七年四月に発行された、高浜虚子『俳句は斯く解し斯く味ふ』(新潮社)が、多くの読者を得て、また出版社も増えて、版を重ねた。このように一句について鑑賞する形式が始まったのは、服部土芳…

鑑賞の文学 ―短歌篇(1)―

和歌の鑑賞文の歴史を見ておこう。 歌論や歌学の発生は古く、平安朝に遡る。通常、和歌の本質論は歌論と言い、それ以外の和歌に関する諸知識を求める学問を歌学と称する。平安時代中期に成立した古今和歌集仮名序で日本的歌論が展開されるようになってから歌…

鑑賞の文学 ―序―

短歌や俳句の鑑賞の一つの目的は、作品と作者を世に紹介することである。鑑賞によって名歌・名句になったり、作者が有名になって世に出るということもある。短歌の一首、俳句の一句を鑑賞するとは、詠まれている詩情を賞味すること。情景を解釈し、工夫され…

姫蔓蕎麦(ひめつるそば)

十一月も中旬になろうというのに、鎌倉の紅葉もまだ見頃を迎えない。もう少し待たなければならない。円覚寺境内では、寒椿、杜鵑草、十月桜、石蕗、菊、関谷の秋丁子、野牡丹、姫蔓蕎麦 などの花々や、紫式部、千両 などの実が見られた。 蹲踞から立ちて弓引…

シャリンバイの実

前回江ノ島に行った時には、岩場で入れ食い状態で釣れていた鯖がほとんど釣れなくなっている。太平洋沿岸を回遊するサバは、伊豆半島沖で春頃産卵し、餌を食べながら北上する。このサバ達が産卵のために南下を始める時期が9月-10月頃で、この時期のサバは脂…

鳳仙花

別名に爪ぐれ、爪紅(つまくれない)、つまべに。ツリフネソウ科の一年草で、インドネシヤ原産。平安時代に渡来したらしい。花の色には、白、赤、黄などがある。 鳳仙花照らすゆふ日におのづからその実のわれて秋くれむとす 金子薫園 たたかひは上海に起り居た…

箱根大名行列

11月3日。ずいぶん久しぶりに箱根大名行列を見に行った。大名行列を強いられた参勤交代は、三代将軍徳川家光が、大名の財力消耗を企んで設けた制度だが、後には、大名の勢力を誇示するものになったというから面白い。箱根大名行列は、小田原藩十一万三千…

十月桜

バラ科サクラ属の落葉小高木。「コヒガンザクラ」の園芸品種。10月頃から咲き始め、翌春にも咲く、年2回花を咲かせる珍しい桜。鎌倉では、円覚寺や瑞泉寺などの境内で見かける。ただ、春の桜と違って地味なので、気がつかないことも。 精一杯枝ひろげたるを…

晩秋の湘南平

雨の日が続いて山野をあるくことが出来なかったので、久しぶりに湘南平を縦走したら、足ががくがくになってしまった。縦走といっても二時間ばかり歩いたにすぎないが。なお、以下の句の「静の草屋」とは、島崎藤村旧居のこと。 主なき静の草屋の秋ともし 秋…

がまずみ

漢字では、莢蒾 と書く。スイカズラ科の落葉低木。晩夏から秋にかけて3mm-5mm程度の実をつける。実は赤く熟し、晩秋ともなれば表面に白っぽい粉をふく。この時期が一番うまいという。残念ながら一度も食べたことがない。焼酎に漬けて果実酒にすることも。 か…

野紺菊

キク科シオン属の多年草。花期は9月から11月。本州から九州の山野にはえる。 子狐のかくれ貌なる野菊かな 蕪村 草の中に野菊咲くなり一里塚 子規 頂上や殊に野菊の吹かれをり 原 石鼎 野紺菊殖ゆるを疎み抜きたるに思はずも咲く三四年経て 佐藤志満 つつ…

非日常の歌

短歌に詠む題材には、様々のものがある。近代以降は、写実主義を重視するところから、実体験や日常生活を元にしている。ところが、テレビ、インターネット、ゲーム機、3D映像などが普及している今日、バーチャルな体験を歌にする傾向が現れている。典型例…

クサギの実

急に寒くなって震えている。二宮町の吾妻山は、今の時期、秋の花も終りになり、さりとて紅葉にはまだ早く、なんとも中途半端な山の景色である。背高泡立草の黄の花が目立つくらい。林にクサギの実が藍色に熟し、星型の紅紫の額の中心に納まっているのが侘び…

紫苑

シオンは菊科の多年草。東アジア原産。栽培の歴史は古く、平安時代の「今昔物語」にも出てくるらしいが、まだその箇所は未確認。根はせきどめや利尿の薬になる。別名に、オニノシコグサ (鬼の醜草)、ジュウゴヤソウ(十五夜草)がある。 道のべの紫苑の花も…

茄子

インド原産のナス科一年生の野菜。中国を経て渡来した。丸ナス、卵形ナス、長ナスなど多くの品種がある。焼く、煮る、揚げる、漬物にする など料理法も多様。 ちひさなる茄子は紫紺を盗みをり十大弟子の袈裟の色より 葛原妙子 しんかんと七月いたり母がため…