天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

むくげ

過去に何度かとり上げたが、ここではそれらと重複しない作品をとりあげる。 むくげは、漢字では木槿と表記するが、東アジア原産のアオイ科の落葉低木である。庭木や生垣として栽培される。8,9月に5弁の花が咲く。その色には、白、紅紫など。とくに真っ白…

相聞歌―時代と表現―(5/5)

□ 古典和歌における修辞の特色は、序詞的比喩、掛詞、本歌取などであった。近現代短歌になると掛詞や本歌取は少なくなり、口語(調)の表現が試されるようになった。和泉式部と俵万智の作品の比較及び与謝野寛と永田和宏の作品の比較から分るのは、相聞歌に…

相聞歌―時代と表現―(4/5)

□ 現代短歌における典型的なあるいは理想的な相聞の例を河野裕子と永田和宏の場合に見ることができる。二人は河野の死期を予想できたので、河野の晩期の二人の相聞歌は真に胸に迫るものとなった。 河野裕子と永田和宏は、周知のように夫婦であり、二人ともよ…

相聞歌―時代と表現―(3/5)

□ ところで色好みというか複雑な女性関係を持った男性歌人は、近代にもいる。特に鉄幹・与謝野寛の場合は錯綜していた。同時進行的経緯をたどることはやめて、関係した女性たちをあげると、 (1)女学校の教え子・浅田信子(女児が生まれたが夭折) (2)女…

相聞歌―時代と表現―(2/5)

□ ここでは複数の男と関係したり妻子ある男と通じて子供を作ってしまった女性歌人の相聞歌をとりあげる。初めに和泉式部の場合。 和泉式部が関係した男性は多数いたと伝わるが、主には次の五人のようである。 (1)最初の夫・橘道貞(娘・小式部をもうけた) (…

相聞歌―時代と表現―(1/5)

和歌の世界における四季と恋とは、一方が自然の美しさを客観的に眺め、他方が人の心の有り様を見つめるところから生れた二つの大きな主題である。 一般に「相聞」は、時候の挨拶やお見舞いなどを含む消息往来を指す言葉だが、本文でとり上げる和歌における相…

月影地蔵

泉秀樹の江ノ電沿線史跡めぐりをTV番組を見ていたら、極楽寺近くに住んでいた阿仏尼のことが紹介された。過去のブログ2011年11月22日 月影ケ谷(つきかげがやつ)ですでに詳細を書いているので、重複を避けるが、今回はじめて月影地蔵(鎌倉24地蔵のうちの…

漱石の俳句作法(8/8)

おわりに 蕪村と漱石には驚くほど多くの類似点があった。生立ちにおいて父母の愛情に恵まれなかった。両者ともに漢詩文を自作できる力量があった。生涯の俳句数は、蕪村2,800句、漱石2,425句と同数のレベル。両者が好んで詠んだ鳥は鶯であった。句集は両者と…

漱石の俳句作法(7/8)

蕪村との類似性 ところで俳句における漱石と蕪村との類似性を詳しく分析したのは、森本哲郎が最初であった。中でも現代なら剽窃だとされかねない多くの類似句をあげているが、以下のような例がある。 二人してむすべば濁る清水哉 蕪村 二人して片足宛(づつ)…

漱石の俳句作法(6/8)

(三) 謡曲の内容を俳句に詠んだ。なお謡と俳諧の関係については、すでに蕉門筆頭の宝井其角はじめ、蕪村の一番弟子であった几董も「謡は俳諧の源氏也」と『新雑談集』で述べている。 漱石の場合を以下にいくつかあげよう。 『平家物語』から 時鳥弓杖つい…

漱石の俳句作法(5/8)

材料: 狐狸、怪異を連想させる動物、広い地名、不浄の物、上流社会の様 など。以下、該当箇所を太字に示す。 蕪村の例句 戸を叩く狸と秋を惜みけり 蝮(くちばみ)の鼾も合歓の葉陰かな いばりせし蒲団干したり須磨の里 糞一つ鼠のこぼす衾(ふすま)かな 漱石…

漱石の俳句作法(4/8)

人事的美: 十七字の小天地に変化極りなく活動止まざる人世の一部分なりと縮写せんとするは難中の難に属す。ひとり蕪村は思うがままに写した。時間を写すことができたのは、一人蕪村のみ。 蕪村の例句 旅芝居穂麦がもとの鏡立て 身に入(し)むや亡妻(なきつま…

漱石の俳句作法(3/8)

蕪村に学ぶ一 漱石に俳句を薦め添削までした子規は、周知のように芭蕉よりも蕪村を称揚して、蕪村俳句を世に知らしめた。 子規は明治24年から没頭した俳句分類を通して、蕪村に着目した。句会などにおいて蕪村の特徴をみんなに話すことがあったであろう。さ…

漱石の俳句作法(2/8)

子規の評と添削 和田茂樹『漱石・子規往復書簡集』 (岩波文庫)を年次順に、漱石の句稿と子規の添削状況(別表・漱石の句稿と子規の評言・添削)を追ってゆく。 35通の句稿には全部で1,448句があった。一方、永田竜太郎編『夏目漱石句集―則天去私全句』には2,…

漱石の俳句作法(1/8)

[注]本シリーズは、2014年9月に評論としてまとめたもの(画像を除く)です。はじめに 夏目漱石は正岡子規を介して与謝蕪村を近代に受け継いだ。このことを、子規との交遊の仕方、具体的な句稿のやりとり などの資料をもとに跡づけてみたい。 俳句は子規に…

相模川(3/3)

先にふれたように相模川の下流は馬入川と呼ばれる。もっともこれは昔の名残であり、現在、この名を使う人は少ない。平成十六年三月に平塚市が立てた「東海道 馬入の渡し」の立札によると、江戸幕府は、大きな河川に橋をかけることを禁止した。そのため、相模…

相模川(2/3)

寒川近くの相模川は、局地的な豪雨のせいで水嵩が増し、濁っていた。一羽の家鴨が、四、五羽の残り鴨と一緒に岸辺に遊んでいた。水浴びしたり丹念に羽づくろいをした後、みんなブロックの上に上って眠り始めた。不思議な光景であった。 川風に立ちて羽ばたく…

相模川(1/3)

神奈川県中部を流れる川。源は山中湖と言う。大月市で笹子川、相模湖の下流で道志川を合せ、津久井湖、相模原を経て、海老名で中津川と合流、平塚市で相模湾に注ぐ。上野原町附近の上流では桂川、河口付近では馬入川とも呼ばれる。 満潮の夏の河口に投網かな…

「白雲」第44号

「白雲」は文芸同人誌で、この朱夏号で創刊22周年になる。編集人代表は、岡本高司さんで、山田みづゑ主催「木語」時代の俳句の先輩である。私は「白雲」のメンバーではないが、年2回の発行のたびに同誌を貰って、気ままな感想をさし上げている。 「白雲」に…

平塚の七夕まつり

今年も平塚の七夕まつりに出かけた。関東三大七夕祭りの一つで、他の二つは、入間川七夕まつり(埼玉県狭山市)と茂原七夕まつり(千葉県茂原市)。観客動員数では、平塚が圧倒的に多い。その歴史は割りと浅く、終戦後の1950年7月に復興まつりが開催されたの…

歌集『窓は閉めたままで』(4/4)

最後にこの歌集の作品を特徴づけている他の要因を考えてみたい。ひとつは短歌を奥ゆかしく感じさせる古典的語法である。現代語やカタカナの言葉に混じって古い言葉があると違和感よりも安心感がある。次にユーモアのセンスも重要。紺野さんは女性なので、女…

歌集『窓は閉めたままで』(3/4)

短歌は読んだ時の音・韻律といった聴覚の面に左右されるだけでなく、字づら・表記から受ける視覚効果にも大きく左右される。短歌というと大和言葉が中心になり、外来語やカタカナ言葉は少ない、という印象を持ちやすいが、紺野裕子さんのこの歌集では、現代…

歌集『窓は閉めたままで』(2/4)

ここでは紺野裕子さんの短歌を心地よく読ませる韻律の技法を作品例と共に紹介しよう。紺野さんの歌には破調は少ない。典型は次の歌に見られる。 青木ガ原樹海あかるし傘をうつまばらの雨のおとも止みたりこの歌は次のように、母音「ア」の分布・リフレインに…

歌集『窓は閉めたままで』(1/4)

紺野裕子さん(「短歌人」所属)の第三歌集『窓は閉めたままで』が、短歌研究社から発行された。全358首。清新で気持良く読みやすい。紺野さんは、福島県出身なので、東日本大震災における東電福島原発事故が故郷に及ぼした深刻な影響への憂いは深い。しかし…

砥上ヶ原(とがみがはら)

たまたまテレビ(J:COM)のチャンネルを廻していたら、江ノ電沿線の駅周辺の歴史を解説する番組に出会った。その中に藤沢駅の次の石上駅が、昔の砥上ヶ原に属しており、西行や鴨長明が詠んだ歌も紹介されていた。 2012年7月31日のブログ「湘南の西行歌碑(3…

橋のうた(6/6)

レインボーブリッジは、東京の港区芝浦地区と台場地区を結ぶ吊り橋で、平成5年8月26日に開通した。レインボーブリッジという名称は一般公募による。正式名称は「東京港連絡橋」と、極めて即物的。 明石海峡大橋にも「パールブリッジ」という愛称があるが、こ…

橋のうた(5/6)

極楽橋について。大阪城に本丸北端の山里丸と二の丸を結ぶ全長54mの橋があり、極楽橋と呼ばれているが、一首目にある極楽橋は南海電鉄・高野線の終着駅(高野山ケーブルの入口)にある橋であろう。不動坂という高野山への参道に通じている。 父の筆跡(て)に…

橋のうた(4/6)

永代橋について。隅田川に四番目に作られた橋。元禄11年8月に5代将軍徳川綱吉の50歳を祝して開通したもので、現在の位置よりも100m程上流であった。文化4年、深川富岡八幡宮の祭礼日(深川祭)に詰め掛けた群衆の重みに耐え切れず、落橋事故を起こした。この…

橋のうた(3/6)

二首目の「四ツ木橋」は、墨田区八広と葛飾区四つ木の間の荒川放水路に架かる国道6号の橋である。1922年の橋、1952年の橋 と変遷があるようだ。 一首のなかに橋が二カ所にでてくると作者の思いがより強く感じられる。 人も馬も渡らぬときの橋の景まこと純粋…

橋のうた(2/6)

橋は、障害物により分離された二つの場所をつなげる手段である。具体的には、道路・鉄道・水路などを、川や谷、また他の交通路の上などに通す際、その通路としてかける構築物。 「橋を渡す」あるいは「橋を掛ける」は、象徴的に、「関係をつける。渡りをつけ…