天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

茄子

ナス、ナスビ。インド原産のナス科の一年草。実の色は通常は黒紫色だが白、黄、緑などもある。日本へは中国を経て8世紀頃に渡来した。形には丸ナス、卵形ナス、長ナスなどがある。くりぬいたナスの中にシギの肉を入れて焼いた鴫焼きは美味しいというが、鴫…

黒揚羽

夏の蝶である。普通に蝶と言えば春の季語になるが、夏の蝶は、羽を広げると10センチにも達する大きな揚羽蝶の仲間をさす。詳しくは、鱗翅目アゲハチョウ科の一種。ナミアゲハともいう。幼虫はカラタチ、ミカン、サンショウなどの葉を食べ、蛹で越冬し、成…

雲(2)

以下には近代短歌に詠まれた雲の例をあげる。 ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲 佐佐木信綱 天つ風吹き立ちぬらし飛行機の翼に触れてゆく雲のあり 石榑千亦 西吹くや富士の高根にゐる雲の片寄りにつつ一日たゆたふ 島木赤彦 かぎり なき みそ…

忘れ草

ユリ科ワスレグサ属の多年草。花が一日限りで終わると考えられたためにこの名前が付いたという。キスゲ、ノカンゾウ、ヤブカンゾウなどがある。中国では「金針」、「忘憂草」などとも呼ばれる。 和歌に詠まれた例を以下にあげる。 我が宿の軒にしだ草生ひた…

臭木(くさぎ)

山野にはえるクマツヅラ科の落葉低木。葉に臭気あり。この若葉を食用にする地方もあるとか。八、九月に白色の花を枝先につける。良い香がする。果実は球形で藍色に熟し、紅紫色の萼との対比に風情がある(右画像)。「くさぎ」を常山木と書くこともある。ま…

雲(1)

微小な水滴または氷晶からなる粒が集まって大気中に浮んで見えるもの。水滴なら10ミクロンほどのものが1立方センチに50から500個浮かんでいる。漢字は、雨+云を意味する。云は回転するさまを表す。つまり雲は雨が回転するもの。古くから雲は詩歌に…

南瓜(かぼちゃ)

日本南瓜と西洋南瓜がある。いずれもアメリカ大陸が原産地で、日本南瓜は十六世紀にカンボジア経由で伝来したところから、カボチャと呼ばれるようになったらしい。西洋南瓜は明治時代に渡来。観賞用にペポ南瓜がある。右の画像は、おもちゃカボチャ。 あぐら…

落花生

マメ科の一年草。南米の中央高地が原産。江戸時代初期に渡来したらしい。花の基部が伸びて地中にもぐり込み莢を結ぶところから命名された。晩秋に実を掘り上げて収穫する。タンパク質と脂肪を多く含む。秋の季語。傍題に南京豆、ピーナッツ。 落花生喰ひつつ…

残暑雑詠(4)

あまりに髪が伸びて暑苦しいので、ひさしぶりに理髪店に行った。別の日、JR相模線の宮山駅で下車し、寒川神社に行き境内を散策の後、参道を歩いて水道記念館に入り、見学の後さらに寒川駅まで歩いた。 風に揺れトンボとまれる稲穂かな 一ノ宮参道並木蝉し…

バナナ

熱帯各地で栽培されるバショウ科の多年草に成る果実。日本には果皮の青いものが輸入され、追熟して黄色になったものが店で売られる。一年中出回っているので、季節感に乏しいが、俳句では夏の季語。沖縄や奄美諸島では、初夏から秋にかけて、島バナナが食べ…

鑑賞の文学 ―短歌篇(31)―

歌人の高松秀明さん(「獅子座」編集人)は、「短歌人」の大先輩である。ただ私が入会した時には、すでに退会されていた。季刊の「獅子座」を、短歌人会の平野久美子さんから時々頂いている。今年7月号の〈作品鑑賞〉は、小中英之歌集『翼鏡』で「獅子座」…

秋海棠

中国原産のシュウカイドウ科の多年草。江戸時代初め(寛永18年)にわが国に渡来したという。雌雄同株だが、初め雄花が数多く咲き、のちに雌花が開く。庭園で栽培されるが、暖地では日陰の湿地に野生化している。 病める手の爪美しや秋海棠 杉田久女 秋海棠山…

梨(2)

昭和三十年代になって、甘味の強い新水、幸水、豊水などが栽培の主流になった。近現代の俳句、短歌に詠まれた例もあげておく。 通夜の梨さくさく噛んで人少な 上村占魚 長十郎この重たさが友の情 中嶋秀子 梨狩の抱いてもらひし子供かな 細川加賀 梨の実の二…

枝豆

青いままの大豆を湯がいたもの。十三夜の月に供えるところから、「月見豆」という別名がある。町の飲み屋では年中食べている気がするが、秋の季語である。傍題に月見豆。 枝豆や三寸飛んで口に入る 正岡子規 枝豆や舞子の顔に月上る 高浜虚子 わがまへに枝豆…

噴水

古代からあり、前一世紀のアレクサンドリアのヘロンは、サイフォンの原理を応用して噴水を考案したことで知られている。日本には明治初期に初めて設置されたという。ずっと古く奈良時代にもあったのでは、と思うのだが。 おなじ丈ほどの噴水子の死後も 北 光…

梨(1)

バラ科ナシ属の落葉高木。栽培果樹。春に白色の五弁花が咲き、秋に実が成熟する。二十世紀(青梨の代表)、長十郎(赤梨の代表)などが有名で、季語「梨」の傍題にもなっている。もみじも美しい。万葉集には作者不明ながら以下の三首が載っている。 水なしや…

鑑賞の文学 ―短歌篇(30)―

きりぎりす兜の下に不在なる、否、不要なる戦場歌人 藤原龍一郎 これは、「短歌人」九月の東京歌会に出された詠草。芭蕉が『奥の細道』の小松において詠んだ俳句「むざんやな甲の下のきりぎりす」の本歌取りである。 この歌を鑑賞しようとすると芭蕉の句が更…

鑑賞の文学 ―俳句篇(29)―

むざんやな甲の下のきりぎりす 芭蕉 周知のように『奥の細道』の小松という所に出てくる句である。句の前の文を引用する。 此の所太田の神社に詣づ。実盛が甲、錦の切(きれ)あり。 住昔源氏に属せしとき、義朝公より賜はらせ給ふとかや。 げにも平士の物にあ…

藪茗荷

山野のやや湿ったところにはえるツユクサ科の多年草。夏から秋にかけて、莖の上部に五、六層の円錐花房を出し、白色の小花を密につける。花茗荷という。球形の実は藍色に熟す。 所嫌はずはびこり花咲くやぶめうがひとり楽しむ この四五日を 吉田正俊 はろば…

瓢箪(ひょうたん)

夕顔の変種。実は熟すと果皮が堅くなるので、果肉を出して乾燥させ、酒器にした。 俳句の季語は瓢(ふくべ)で秋のもの。瓢箪は傍題。他にひさご、千生り など多くある。 瓢箪の尻に集まる雨雫 棚山波朗 妻の持つ我が恋文や青瓢 小川軽舟 青天というもまれにて…

残暑雑詠(3)

鎌倉七口の一つ極楽寺坂切通しのそばにある極楽寺は、詳しい名を「霊鷲山感応院極楽律寺」と称する。『極楽寺縁起』によれば、もと深沢にあった念仏系の寺を、正元元年(1259年)に北条重時が、この場所に移したことが起源。当時ここは地獄谷と呼ばれ死骸が…

月(3)

農耕生活にとっては暦が必須になる。季節の巡りには朝日や夕日の位置が目安になり、日々の巡りには月の満ち欠けが目安になる。特に日本においては、縄文の昔から月は生産と深く関わり、人間の生殖活動も例外ではなかった。この観点から記紀歌謡や和歌を読む…

朝顔

朝顔が咲くと秋がきたことを知る。実際には夏のうちから咲き始めるのだが。牽牛花とも。種子は「牽牛子(けんごし)」という漢方の利尿剤で、日本には奈良時代に薬として伝わった。江戸時代以降、栽培が広まり、交配によってさまざまの変種が創り出された。私…

百合(続)

7月29日のブログで書いたが、続きとして短歌を追加しておく。万葉集には十一首も詠まれている。多くは山百合という。先に一首紹介したが、ここでは三首あげる。他に現代短歌も。 吾妹子(わぎもこ)が家の垣内(かきつ)の小百合花後(ゆり)とし 言はば不欲(い…

月(2)

現代短歌にも月は数多く詠まれている。月面着陸関係の作品をあげておこう。 月にゆく船の来らば君等乗れ我は地上に年をかぞへむ 土屋文明 月面に人が降り立つ大き代に短き日本の歌をいとしむ 宮 柊二 月面に醜き象(かたち)さらしゐむホモ・サピエンスの つけ…

残暑雑詠(2)

藤沢市にある白旗神社は源義経を祀る。以前にも紹介したが、義経の生首は腰越で検められた後、海に捨てられた。藤沢の川に流れ着いたその首を村人が洗い清めて祀ったという。 鎌倉の腰越には小動(こゆるぎ)岬(みさき)という小さな岬がある。名前の由来は、風…

桐の実

桐は初夏に紫の花をつけた後、卵形の実を房なしてつける。十月頃、熟して二つに裂け、翼のある種を多数飛ばす。 此処に来て桐の実とうす雲の空 藤田湘子 夕月のさして寒さはまされども淋しきものは桐の実のから 尾山篤二郎 今日はもう十一月の二十日なり桐の…

どくだみ

ドクダミ科の多年草。葉が薬の臭いがする。腫れものに塗れば治まる。漢字では「蕺(草)」と表記する。十通りの薬効があるというので十薬の別名がある。古くは、シブキと言った。夏の季語。 十薬の匂ひに慣れて島の道 稲畑汀子 十薬のさげすむたびに増えてを…

月(1)

我が国の詩歌の主要題は、古来、雪月花となっている。この言葉は、もともと中国の漢詩からきた。白居易(772年― 846年)の詩「寄殷協律」の中に、次のような句がある。 琴詩酒友皆抛我 (琴詩酒の友 皆 我を抛(なげう)つ) 雪月花時最憶君 (雪月花の時 最も…

河骨(こうほね)

北海道から九州、朝鮮半島の小川や沼にはえるスイレン科の多年生水草。地下茎が白く、骨のように見えるところから、この名前がついた。根茎を乾燥したものを川骨といい、強壮、止血などの薬用にする。水上に出ている葉は質が厚く、水中に沈んでいる葉は質が…