2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧
日常生活で知りたいことや疑問はたくさんあるので、それを歌に詠むことは 当然といえる。その対象が、人、場所などにより使用する言葉が違う。何、誰、何処、どれ 等々。 何 世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝びらき漕ぎ去(い)にし船の跡なきがごと 万葉集…
叩く 夏の夜は槇のと敲き門たたき人頼めなる水鶏なりけり 和泉式部 叩くとも誰かくひなの暮れぬるに山路を深くたづねては来む 菅原孝標女 ただならじとばかりたたく水鶏ゆゑあけてはいかにくやしからまし 紫式部 *次の歌と贈答歌のかたちをなす。 よもすが…
祈る 天地(あめつし)のいづれの神を祈らばか愛(うつく)し母にまた言問(ことと)はむ 万葉集・大伴部麻与佐 *天地(あめつし): 「あめつち(天地)」にあたる上代東国方言。 霰(あられ)降り鹿島(かしま)の神を祈りつつ皇(すめら)御軍(みくさ)にわれは 来にし…
動作の主体となる體の部位によって言葉は異なってくる。今回は、足(脚)手(腕)の場合をみてみよう。 歩む おし黙し舗道の灯かげに歩みつつこの黒き群は何を思へる 臼井大翼 いくほどをわれら歩みしあをあをと潮騒光る崖の上の道 古泉千樫 たはむれに母を…
楽しみ 山県に蒔けるあを菜も吉備人(きびひと)と共にし採(つ)めば楽しくもあるか 古事記・仁徳天皇 *山県: 山の畑。 矢(や)釣山(つりやま)木立も見えず降りまがふ雪にさわける朝(あした)楽しも 万葉集・柿本人麻呂 *矢釣山: 奈良県高市郡明日香村八釣と…
哀れ(悲しみ) 春はただ花のひとへに咲くばかり物のあはれは秋ぞまされる 拾遺集・よみ人しらず あはれてふことこそうたて世の中を思ひ離れぬほだしなりけれ 古今集・小野小町 *うたて: 情けない。 ほだし: 妨げ。束縛するもの。 一首の意味は、 「あは…
怒り(憤り) 羽根(はね)蘰(かづら)今する妹がうら若み笑みみ怒(いか)りみつけし紐解く 万葉集・作者未詳 *羽根(はね)蘰(かづら): 成人を迎える女性が頭につける髪飾り。一首の意味は、「(はねかづらの髪飾りをつけている愛しい恋人。うら若い彼女は、微…
喜怒哀楽は人間の感情の基本的要素であり、したがって短歌表現の基礎になる。 本稿では、喜怒哀楽のそれぞれについていくつかの歌語事典の中から、例歌を集めてみた。なお歌にはそれぞれの感情の起因が明らかでないものもあり、感情を抱いた時の周囲の情景を…
平成二十九年 「古希の春」 鳩来り積める落葉を掻きちらす 他愛無き言葉に笑ふ七五三 小春日や大黒天を撫でまはす 街路樹の落葉みつめて人を待つ 裏山に土牢二つ笹子鳴く 銭洗ふ師走の水や弁財天 冬枯れのけやきの根方鋏塚 大寒や熱きご飯に生たまご 寒風に…
平成二十三年 「彼岸花」 富士の山甲斐へとかぶく冠雪よ わらんべが枯葉あつめて風呂といふ 冬涛のとどろく岩屋龍の夢 木漏れ日をただよひゆくか雪蛍 餅搗くや小谷戸の里に子供会 笹鳴や猫がとび込む藪の中 猛々し朝の光の水仙花 扁平の仏足石にかざり餅 佛…
平成二十年 「透きとほる」 色うすき返り花咲く山の墓地 煩悩をかたじけなしとお茶の花 咲き群れて連弾といふ冬薔薇 倒木の枯葉になづむ山路かな 遠山の粧ひを見る木の間かな 山の端にけむり一筋笹子鳴く 立冬の肩すぼめ読む文庫本 築山は不二をかたどる石蕗…
平成十七年 「アライグマ」 山門に帽子忘れてしぐれけり 草むらに飛び込むつぶて笹子かな 撫で牛の石まろまろと落葉かな 落葉掻休めて僧の立ち話 結界に佇みて聞く百舌鳥の声 分岐して道細くなるみかん山 水仙のすこしさみしき遺髪塚 断崖へ篁の道笹子鳴く …
平成十四年 「からくり時計」 途切れたる鉄路の先の枯野かな 猿島に砲台ありき石蕗の花 キュキュキュキュと白菜笑ふ小川かな 吊橋に山の影さす冬至かな 黒漆しぐれに曇る馬上盃 手玉石ふたつつるつる石蕗の花 柿の木の庭に竹馬転びけり 大年の風にざやめく貝…
平成十二年 「高射砲」 高射砲据ゑしとふ山笹子鳴く 木枯の北京の夜の白酒かな 笹鳴や神雷戦士碑の静寂 笛塚を過ぎてしぐるる箱根かな 大祖(おほおや)の眼差もある囲炉裏かな 何を狙ふ脚震はする冬の鷺 白菜を洗ふ姉様被りかな 踏みしむる大地くづるる霜柱 …
平成十年 「猟解禁」 空を嗅ぐ犬を放てり猟解禁 酒蔵の塀のまぶしき小春かな 波音や島の屋台の温め酒 冬来ぬとぬるでかへるでささめくも 黙深き樫あらかしの小春かな 断崖のウミウ動かず冬日差し 確かなるわが足音や山眠る 札幌のささら電車や今朝の雪 スピ…
平成七年 「機関車」 公園の黒き機関車冬ざるる 水涸れや小便小僧のやるせなく 隕石や出雲の冬をつきぬけて 枯葉散る修道院の塀高き 狛犬の頬かむりしてむき合へり 林立の帆柱入江に春を待つ 籾殻を焼きて冬立つ筑波山 小春日や乗合船にさそふ声 着ぶくれの…
平成四年 「獅子頭」 碧き目の流鏑馬の射手疾駆せり 焼き餅をぶちたたかつしやい囲炉裏端 酒買ひて夕陽浴びれば百舌鳥の声 山覆ふ雪あり山の力こぶ 平成五年 「原生林」 寒雲の燃えてなにやら力湧く 銃一声野兎かけのぼる斜面かな 自転車の白菜一つ揺られゆ…
平成二十八年 「延寿の鐘」 秋風に延寿の鐘を撞きにけり 豊作や竹ロケットを打つ秩父 子供らが案山子を笑ふ畦の道 息切れて琵琶の阿弥陀寺もみぢ狩 伊勢志摩の真珠をおもふ今日の月 平成二十九年 「古希の春」 カーテンに猫がとびつく秋の風 米ぶくろ抱へて…
平成二十八年 「延寿の鐘」 秋風に延寿の鐘を撞きにけり 豊作や竹ロケットを打つ秩父 子供らが案山子を笑ふ畦の道 息切れて琵琶の阿弥陀寺もみぢ狩 伊勢志摩の真珠をおもふ今日の月 平成二十九年 「古希の春」 カーテンに猫がとびつく秋の風 米ぶくろ抱へて…
平成二十四年 「盆提灯」 子らの絵や遊行通りの盆提灯 ゆく雲の影にくもれる稲田かな 鎌倉に風の声聞く萩の門 稲穂垂れ東西南北威銃 ヤナップもカービィもゐる案山子かな 糸瓜忌や墓碑に没年月日なく 日蓮のをどる筆跡水の秋 大山は鹿啼くこゑをかなしめり …
平成二十二年 「運動会」 楽湧き来山のふもとの運動会 実ざくろの笑ひひろがる梢かな 干柿の影のつらなる障子かな 山門の燈籠かげる紅葉かな 首筋に剃刀当つる冬隣 漂泊の雲ひとつゆく冬隣 わが背丈越えて咲きたる紫苑かな 萩咲きて鬱ふかまりぬ石畳 鎌倉や…
平成十九年 「日の斑」 川沿ひに滝を目指せる紅葉かな 秋雨や大樹を小鳥棲みわけて 蟷螂の若きが泳ぐにはたづみ 秋風の釣果を競ふ魚拓かな 日の丸の風に散り交ふ銀杏かな 里山の日の斑にひろふ木の実かな 江ノ電に触るる尾花もありにけり 松籟にまぎれて遠し…
平成十七年 「アライグマ」 ぎんなんを残らず拾ふ神明宮 赤々と熟柿くづるる谷戸の雨 秋の日の大名行列うらがなし 石塊に魂一字菊香る 臨済宗大本山のもみぢかな 椎茸のほだ木あたらし赤まんま 黄葉の陰なす山や海光る 街道へ脚立はみだし松手入 山もみぢ鎌…
平成十五年 「古城趾」 古城趾に百舌鳥の高啼く岬かな ひよどりの群るる歓喜の一樹かな 晩秋の谷戸勤行の太鼓かな 秋の鳶観艦式をうべなへり 鯔飛ぶや潜水艦の黒き背 早ばやとボジョレーヌーボー届きけり 項垂れて流鏑馬戻る秋の雨 関跡や従二位の杉に百舌鳥…
平成十三年 「静粛に」 うつむくも秋思許さぬぬかる道 百舌鳥猛る小学校の昼餉時 賑はしや社の屋根に木の実降る 静かなる足柄古道柿を捥ぐ 大杉に隠れて咲けり鳥兜 鎌倉ややぐらに垂るる蔦紅葉 川狭め鮭遡上せり山紅葉 ペンギンの泳ぐ背に散る紅葉かな 柿し…
平成十一年 「沢桔梗」 水音の高き湿原沢桔梗 くれなゐはネパール産や蕎麦の花 それぞれの羅漢にとまる赤とんぼ 龍胆に今宵ワインと決めにけり 掛軸の達磨が睨む梅擬 菊日和大名行列動き出す 投げ交はす毛槍箱根の菊日和 紅葉散る東映太秦撮影所 木の実落つ…
平成九年 「ゴンドラ」 星月夜天狗松から話し声 ばつた見る犬の尻尾のピンと立ち ポリバケツこぼれて跳ぬる鰯かな 黒たまご大湧谷に霧深し ひややかや国宝庫裡に黒き釜 瀬音澄む足柄古道秋薊 初雁やビル屋上の露天風呂 沼を発つかりがねの群大音響 雁の群首…
平成七年 「機関車」 反射炉は江戸の昔よ稲雀 鶏頭の燃えたつ里に下山せり 腕組みて秋の夕陽の男かな 野仏や首にかけたる烏瓜 灯火親し隣のピアノやみて後 櫓をこぐや葦刈る人に声かけて 伊賀上野はやも案山子の出で立てり 平成八年 「プラタナス」 声かけて…