天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

小池光歌集『梨の花』(7/11)

■猫のうた(一首で猫らしいと思える歌を含む) 31首(内「猫」は19首)ある。小池さんの猫好きは、短歌によく表れている。ちなみに、これまでの十歌集における猫を詠んだ歌数は次のようになっている。 『バルサの翼』(0)、『廃駅』(1)、『日々の思い…

小池光歌集『梨の花』(6/11)

■人名 さまざまの分野の関連した人たちの名前が111首に見られる(歌集の19.7%)。小池さんの教養の広さと人間関係の深さを垣間見ることができる。次に大雑把に歌数の多い順にあげる(カッコ内は歌数)。歌人(23)、作家・評論家(12)、演奏家・作曲家(8…

小池光歌集『梨の花』(5/11)

■固有名詞の使い方 (人名は別に) 固有名詞の持つ文化的背景や語源、音韻の特性などが短歌一首の特性・特徴を支配する。作者の経歴、生活環境、教養などを知る手がかりともなる。時代が進むに従って世界文明が発展するので、固有名詞は爆発的に増えてゆく。…

小池光歌集『梨の花』(4/11)

■助詞・助動詞・副詞の使い方 品詞の選び方、使い方で短歌の醸し出す情緒が決まってくるが、小池さんの場合は副詞の用法に特色が出る。これは多分に斎藤茂吉から学んだ点であるように思う。後で触れるが、ユーモアの雰囲気を感じさせるところに力を発揮する…

小池光歌集『梨の花』(3/11)

■オノマトペやリフレイン これらは快い韻律に寄与する。リフレインには、言葉の繰り返し以外に単音の繰り返しを含む。 いちめんの低き空よりひたひたと悲しきものは降りはじめたり 足の爪赤く塗りたる姉むすめ青く塗りたる妹むすめああ 病院庭(には)の満開の…

小池光歌集『梨の花』(2/11)

■韻律・破調(句跨り・句割れ、字余り・字足らず 含む) 今回、韻律の面ですぐに気づくのは、破調が多いということ。ほとんどの作品が程度の差こそあれ、破調を含んでいる。ただ、短歌の韻律(五七五七七)を大きく破るものは、あまりない。破調にならざるを…

小池光歌集『梨の花』(1/11)

小池光さんの第十歌集『梨の花』(現代短歌社)全563首を読み終わった。小池さんの短歌技法については、このブログですでに2019年1月6日~1月26日の「知の詩情」シリーズに要約しておいた。『梨の花』の作品群は、これら様々な技法が融合されて…

はかなし(6/6)

没年を明らめんとして幾冊を閲(けみ)しゆきつつしきり果敢(はか)なし 木俣 修*誰かの亡くなった年月を明らかにしようと、幾冊もの参考書を調べている場面。 ひた寒くせせらぐ水のほとりにてはかなく燃ゆる草紅葉あり 木俣 修 病める子が小さき花火遊ぶさま…

はかなし(5/6)

潮(しほ)沫(なわ)のはかなくあらばもろ共にいづべの方にほろびてゆかむ 斎藤茂吉 米櫃に米のかすかに音するは白玉のごとはかなかりけり 北原白秋 うつし身は果(はか)無(な)きものか横向きになりて寝ぬらく今日のうれしさ 古泉千樫 うつし世ははかなきものを…

はかなし(4/6)

萩の花暮々(くれぐれ)までもありつるが月出(いで)てみるになきがはかなき 金槐集・源 実朝*「萩の花の、日の暮れるついさっきまであったのが、出た月の下に見てみると なくなっている。儚さというものよ。」小林秀雄が好んだ一首。 さむしろに露のはかなく…

はかなし(3/6)

さきの世の契りをしらではかなくも人をつらしと思ひけるかな 金葉集・前中宮上総 はかなくて過ぎにしかたを数ふれば花にもの思ふ春ぞへにける 新古今集・式子内親王*式子内親王は1153年頃京都に生まれ、1201年に京都で亡くなった。およそ 48年の生涯であっ…

はかなし(2/6)

人を見て思ふおもひもあるものを空に恋ふるぞはかなかりける 後撰集・藤原忠房*「人と逢って、その人に思いをかけるという思いもあるというのに、私は 確かなあてもなしに恋をしている。これはなんともはかないことだ。」 はかなくて絶えなむ蜘蛛の糸ゆゑに…

はかなし(1/6)

「かりそめ」の歌を見ている時、「はかなし」の歌が気になったので調べてみた。古典和歌では、前者よりもはるかに多く詠まれていた。「はかなし」は、もともと予定した仕事の結果がうまくいかないことを言ったらしい。後に、とりとめない、むなしい、情けな…

果物のうたーレモン(2/2)

四つ割りにしたるレモンの切り口のみづみづと黄の半月をなす 大西民子 下宿までいだく袋の底にして發火點いま過ぎたり檸檬(レモン) 江畑 實*下句が、特に発火点が何を意味するのか不明。辞書によれば発火点とは、物質が 空気中で自然に燃え始める最低温度。…

果物のうたーレモン(1/2)

レモンの原産地はインドのヒマラヤ山麓。日本のレモン栽培は明治6年に静岡県で栽培が開始された。(参考: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) レモンの歌には、比喩が多く使われているようだ。 夜ふかくしぼるレモンの滴滴の一滴ごとにつのり…

果物のうたー柘榴

柘榴はミソハギ科ザクロ属落葉小高木、また、その果実のこと。原産地については、西南アジア、南ヨーロッパ、北アフリカ など諸説ある。日本には923年に中国から渡来したという。(参考: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) 夏の蚕(こ)はいま…

果物のうたー枇杷(2/2)

事、平和に関りてより黙(もだ)ふかく枇杷食へりわれら膝を濡らして 塚本邦雄 枇杷の汁股間にしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ 塚本邦雄*枇杷の汁を股間に垂らしてしまったところから、自分の歳や今後が思われて 自分だけは老いないでいたい…

果物のうたー枇杷(1/2)

枇杷の原産地は中国南西部。日本には古代に持ち込まれたと考えられており、主に本州南部や四国や九州に分布する。開花は11月〜2月、摘果を3月下旬〜4月上旬。(参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) しめやかに雨過ぎしかば市(いち)の灯は…

果物のうたー林檎(3/3)

すりおろす林檎は忽ち錆びてゆきかすかに虫の飛ぶ音がする 大西民子*なんとも孤独な生活を思わせる。 林檎割れば林檎の種のこぼれ出(で)ぬ円(まろ)く小さく堅き林檎の種 都築省吾 黄の林檎一つ置かれて輝ふに遠き風のみわれは聴きゐる 久方壽満子 朝あさを…

果物のうたー林檎(2/3)

りんごの花のゆふべは霞(かす)むほの明りたどりて何に逢はむとはする 斎藤 史*作者の心の在り様が分かる気がする。 青りんごあをく削がれし夜の卓 たちまち錆びて夏のとき過ぐ 斎藤 史 黄金(きん)いろの林檎の肌にたはむれの如く一刷毛の紅ある不思議 田谷 …

果物のうたー林檎(1/3)

林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹、またその果実のこと。原産地は北部コーカサス地方という説が有力。世界中では数千から1万以上の品種が存在するという。日本には、古く中国からもたらされた和リンゴがあった。西洋リンゴは、安政元年(1854年)に、アメ…

現代短歌の表現(5/5)―一字空け

一字空け。それは取合せ・転換の妙・詩情の織り込みを明確に読者に意識させることになる。故に作者にとっては冒険であり、勇気を要する。歌会などでは、わざわざ一字空けしなくてもよいのではないか、という批評がよく聞かれる。以下に歌集『ポストの影』よ…

現代短歌の表現(4/5)―ひらがな

ひらがな表記と旧仮名遣いの魅力・効果を活かした作品。和歌短歌の視覚的魅力は、ひらがな表記に現れる。作法のひとつとして、一首をすべてひらがなで書いてみるところから始める、という方法がある(小池光さん推奨)。ただ歌集『ポストの影』には、外国語…

現代短歌の表現(3/5)―破調

破調の作品。歌集『ポストの影』では、字余りが多いが、短歌の韻律を大きく壊す目立った破調はない。外国語(カタカナ語)の入った作品に破調が出やすい。以下、赤字の部分に破調を示す。 朝の儀式のベッドの上の体操にティンカーベルがふいに乗りたる 浴槽…

現代短歌の表現(2/5)―カタカナ語

外国語・カタカナ語の入った作品。諸外国の国名、人名、化粧品名、衣食住の事物の固有名、文藝や音楽作品 などがやまと言葉や漢語と共に詠まれている。 歌集『ポストの影』より 朝の儀式のベッドの上の体操にティンカーベルがふいに乗りたる 浴槽にデフォル…

現代短歌の表現(1/5)―はじめに

小島熱子さん(「短歌人」所属)の第五歌集『ポストの影』(砂子屋書房)を読んだ。様々な観点から吟味してみて、目立つ特徴として、次の4項目がある。◆外国語(カタカナ語)の使用 ◆破調 ◆ひらがな表記 ◆一字開けこれらの多くの作品を読んでいるうちに、現…

果物のうたー蜜柑

我友は蜜柑むきつつしみじみとはや抱(いだ)きねといひにけらずや 斎藤茂吉*気の置けない友に、自分の好きな女性のことを話したら、友は蜜柑を剥き ながら早く抱いてしまいなさい、としみじみと言ったのだった。 ぢつとして、蜜柑のつゆに染まりたる爪を見つ…

果物のうたー西瓜

砂(すな)畑(はた)のしき藁のうへにうすみどり西瓜の蔓(つる)の延びのすがしさ 古泉千樫 現身(うつしみ)の歯がたあらはにわが食ひし西瓜を仮寝よりさめて見ぬ 大熊長次郎 ひそひそと西瓜を食ひし妻子(つまこ)らを怒りし父のことも悲しき 柴生田稔*父の思い出…

果物のうたー葡萄(3/3)

一房の青き葡萄に色身(しきしん)のあかるむ秋と歩みを返す 山中智恵子*助詞「に」「と」の使い方が分かりにくい。色身とは肉体・からだのことだが、 葡萄との関係が不明。見ただけなのか、手に取ったのか。体があかるむ秋だなあ と感じて引き返したというの…

果物のうたー葡萄(2/3)

種子あらぬ信濃の葡萄皮うすく味よき葡萄老の口たのし 窪田空穂*種なし葡萄の作り方: その多くは最初から種がないのではなく、栽培の 過程で「ジベレリン」などの植物ホルモンを使用することで種なしにしている。 うすらなる空気の中に実りゐる葡萄の重さ…