2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧
草中に刀をはふりて立ち尽す敗戦の日は暑かりしかな 大越一男 古今集仮名序におほきみ、すべらぎとありし人のこゑ敗戦告げき 栗木京子 *昭和20年8月15日に玉音放送(昭和天皇)により、日本の降伏が国民に公表された。 戦(いくさ)の日に砲をつくりし廃屋を…
国やぶれ歌滅びなむといふこゑに我は答へきただ否とのみ 鹿児島寿蔵 国やぶれて唇紅きマグダレナ昼の巷にもの怖れなし 山田あき *マグダレナ: ヨーロッパ系の女性名。マグダラのマリアに由来。 やぶれたる国に秋立ちこの夕の雁の鳴くこゑは身に沁みわたる …
敗戦の餓ゑ迫る日に生れいでてこの児は乳を吸ひやまぬかも 筏井嘉一 敗戦をはぐらかすものなべて地にひきずり降し批判なすべし 小名木綱夫 椰子林の青きは燃ゆるごとくにて月出づれば敗戦の隊を点呼す 前田 透 国やぶれて山河あり今宵さやかなる大空の月を仰…
数ならぬみにはあれどもねがはくはにしきの旗のもとに死にてん 平野国臣 *平野国臣: 攘夷派志士として奔走し、西郷隆盛、真木和泉、清河八郎ら志士と親交をもち、討幕論を広めた。天誅組の挙兵に呼応する形で但馬国生野で挙兵するが失敗して捕えられた。京…
<閑話休題> 花鳥佰さんの第二歌集(短歌研究社刊)である。芸術家、文化人、芸能人などを所縁の地を訪れて詠んだ作品に惹かれた。紀行文も欲しい、と思った次第。全三八六首。 代表的なレトリックとして、擬人法、直喩、一字空け、オノマトペ、ひらがな表…
幾千の眼(まなこ)のまへに黒潮はをとこを戦(いくさ)へおくりたる路 小黒世茂 アラビアン・ブルーの海はひたすらに光りてをりぬ戦あらしむな 藤岡成子 「戦(をのの)き」も「戦ぎ(そよ)」もあるをまどふなく「戦(いくさ)」と 読みて徒労感濃し 斎藤すみ子 熱い…
大学は戦に黒く塗られきと我ら添ひゆくその黒き壁に 葛原 繁 窓をうつ風に目ざめてききゐたり友の多くは戦(いくさ)に死にき 島本正齋 征く日まで戦(いくさ)のさなか端坐して深夜ひとりの碁を打ちし音 窪田章一郎 かすかなる幸といはむか子の亡くて戦に死なす…
食料に供出せよと強いられて葦刈りぬ母と戦いの日は 武川忠一 *葦は河川及び湖沼の水際に背の高い群落を形成する。建築や紙の材料として活用できるほかに、肥料、燃料、食料、生薬原料、漁具、葦ペン、ヨシパルプなどの用途がある。 一国がきらめく匕首(あ…
今のわが齢おもへばわが父よ東京空襲の火中(ほなか)なりける 窪田章一郎 中国に兵なりし日の五ヶ年をしみじみと思ふ戦争は悪だ 宮 柊二 たたかひを終りたる身を遊ばせて石(いは)群(むらが)れる谷川を越ゆ 宮 柊二 戦争を拒まむとする学生ら黒く喪の列のごと…
月かげは蚊帳にあまねし戦ひを思ひつづけしが今は眠らむ 柴生田稔 かへりみて 己(し)がさびしさを言ふなかれ。若きをたのみ 国は戦ふ 折口春洋 国こぞり人勢(きほ)ふときなにゆゑの戦ぞやと思ひ見るべし 半田良平 真日なかに家焼け落つる前に立ち哭く人もな…
いくさみてやはぎの浦のあればこそ宿をたてつつ人はいるらめ 夫木抄・よみ人しらず *「軍見て矢をはぐ」は、戦いが始まってから矢を作るを意味する。事が始まってから、 あわててその準備にとりかかることのたとえ。 たたかひは見じと目とづる白塔に西日し…
地雷(じらい)は、地上または地中に設置され、人や車両の接近や接触によって爆発して危害を加える兵器である。設置方法には、人力、地雷敷設車両や専用ヘリコプターを使う大型の弾殻の中に入れて遠隔地から散布、などの方法が利用される。 ミサイルは、目標…
砲弾の破片のうずくこめかみに土瓶の尻をのせて冷せり 山崎方代 胴体を波に深くしづめ軍艦の取りつくしまもなく横たはりゐる 木下利玄 海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も 塚本邦雄 一隻の空母入り来て泊(は)つる夜や葉の細部まであぢ…
星の如くB二十九に迫りゆきたちまち落つる戦斗機二機 岡野弘彦 秋津しま上空に機首をあげゆきてひかりとなりし戦闘機ある 柴 英美子 焼夷弾消しし記憶の怪しくもおぼろに遠く朝の飯(いひ)食ふ 谷 馨 *焼夷弾: 家屋物資の焼失破壊や火炎による人員殺傷の目…
攻撃、防御、威嚇などのために用いる器具や装置類が武器、兵器になる。昔の刀、槍、甲冑などから現代の戦車、飛行機、軍艦、空母へと拡がった。特に核兵器は、人類のひいては地球の破滅をもたらしかねない。 ますらをの鞆(とも)の音すなりもののふの大臣(お…
出征とは軍隊の一員として戦地に出発すること。 たたかひの島に向ふと ひそかなる思ひをもりて、親子ねむりぬ 釈 迢空 若くして 心真直(マナホ)に征きにける伍長一人を 心にたもつ 折口春洋 *折口春洋は、折口信夫(釈迢空)の短歌の弟子であり養子関係を結…
インパール戦の生き残り兵寡黙にて菊に水遣る朝に夕べに 木村光子 *インパール戦: イギリス領インド帝国北東部の都市であるインパール攻略を目指した戦のこと。兵站を無視し精神論を重視した杜撰な作戦により、多くの犠牲を出して歴史的敗北を喫した。 必…
夏の巷、黒きいなごのごとき手の樂(がく)嫋嫋とつよし廢兵 塚本邦雄 突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼 塚本邦雄 膝頭いたく尖りて死にし兵かたへに置きて雪に穴掘る 大内與五郎 *過酷な労働を強いられたシベリア抑留における体験らしい。 …
糧食尽きはててあかざの葉を食へり傷病兵等衰へて行く 小泉苳三 *あかざ: 畑や空地などに多い雑草。葉は茹でて食べることができ、同じアカザ科のホウレンソウによく似た味がする。シュウ酸を多く含むため生食には適さない。 あたらしき国を護りの戦を予想…
もののふの矢(や)並(なみ)つくろふ籠手(こて)の上に霰たばしる那須の篠(しの)原 金槐集・源 実朝 *籠手: 戦闘時に上腕部から手の甲までを守るための防具。この歌は、栃木県那須野における狩猟の時の情景。 もののふの取りつたへたる梓弓引いては人のかへす…
「兵」という漢字は、古代中国では戦争そのものを表していた。そこから戦争をする人を兵士と呼ぶようになった。その後、「兵」だけで、「兵士」を意味する語として使われるようになり、現代に至っている。和歌では、武人、武士を意味する「もののふ」や勇ま…
教師らを信ずるなくて一国の何の政治といきどほろしき 窪田章一郎 政変のありとふ記事も日(にち)にちに遠きひびきを聞くごとく読む 山本友一 恃むなき政治とすでに彼らいう少年ら輝やかに誇りし兵のなき国 武川忠一 乱世を生き堪ふるとき閑人の口より出でて…
はかなくもなほ治まれと思ふかなかく乱れたる世をば厭はで 足利義政 *足利義政: 室町時代中期から戦国時代初期にかけての室町幕府第八代将軍(在職:24年)。幕府の財政難と土一揆に苦しんだが、自らは東山文化を築くなど、数奇の道を探求した文化人であっ…
政治とは、主権者が、領土・人民を治めること。まつりごと。ある社会の対立や利害を調整して社会全体を統合するとともに、社会の意思決定を行い、これを実現する作用。(デジタル大辞泉の解説) 具体的事案について詠うときは、時事詠になる。 高円(たかまど…
以下の例からもわかるが、新古今集では、「数ならぬ」という表現がよく使われた。 数ならぬ身は無きものになし果てつ誰が為にかは世をも恨みむ 新古今集・寂蓮 世を厭ふ名をだにもさは留め置きて数ならぬ身の思出にせむ 新古今集・西行 *「この世を穢土とし…
人知れず落つる涙のつもりつつ数かくばかりなりにけるかな 拾遺集・藤原惟成 *古今集のよみ人しらずうた「行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり」を踏まえる。 「人知れずこぼした涙が積もり積もって川のようになり、むなしく数を記すほど…
ここでは、具体的な数の歌ではなく、「数」という字を詠んだ作品をとりあげる。 なお、すでに2015-09-13に「数のうた」として一部を取り上げているが、ここでは、あらためて包括的に多くの作品をまとめておく。 数無し、数ならず: 物の数ではない。取るに足…
飛行船: 空気より比重の小さい気体(水素やヘリウム)をつめた気嚢によって機体を浮揚させ、これに推進用の動力や舵をとるための尾翼などを取り付けて操縦可能にした航空機。1852年にフランスのアンリ・ジファールによって蒸気機関をつけた飛行船の試験飛行…
ジエツト機の金属音かすめわれがもし尖塔ならば折れたかも知れぬ 森岡貞香 プロペラ機くもりに赤き灯をともしさびさびと居り小さき空港 高安国世 夕空に雲引きてゆく飛行機のうつくしかりし戦ひののち 岡野弘彦 *この飛行機は敵機であったか、味方機であっ…
日本における飛行機の開発は、ライト兄弟よりも早かった。二宮忠八は1891年にゴム動力付き模型飛行機を作った。忠八はカラスをマネれば飛行可能だと考え、実験を始める。そしてカラスのような尾翼をもったプロペラ式の模型飛行機を作り上げ、35mほどの飛行に…