天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2011-01-01から1年間の記事一覧

小春日の江ノ島

いつの間にか中津宮の境内に水琴窟が出来ていた。入口に「水琴窟 奘瞭停」の看板が立っている。水琴窟は江戸時代の庭師が考案したという。地中に甕を埋めて空洞を作り、そこに手水鉢や柄杓などからの水の滴りが反響して、琴の音色に聞こえるようにした仕組で…

さといも

里芋はサトイモ科の一年生作物。熱帯では多年生。葉は長大な楯の形。インドからインドネシア地域が原産地。品種は約200もある。万葉名は「うも」。 蓮葉はかくこそあるもの意吉麻呂が家なるものは芋(うも) の葉にあらし 万葉集・長忌寸意吉麻呂 里芋の…

鎌倉材木座

由比ヶ浜から材木座海岸まで海辺を歩き、ベンチに座ってしばらく満潮時の和賀江嶋旧蹟を眺めた。根石のみが残ってみえる。そこから光明寺へ行き、三尊五祖来迎之庭を拝観、さらに安国論寺から八雲神社へとたどった。 材木座の由来は、鎌倉時代に和賀江嶋を港…

師走の鴫立庵

こころなき身にもあはれは知られけり 鴫立沢の秋の夕暮 西行 大磯の鴫立庵では、12月になると毎年「鴫立庵」という小冊子が発行される。そこには鴫立庵の由来やその年の西行祭の情況そして投句箱からの選句結果などが記載される。鴫立庵には毎年二、三回訪…

鑑賞の文学 ―短歌篇(22)―

民族のエミグラチオはいにしへも國のさかひを つひに越えにき 斎藤茂吉『白桃』 [岡井 隆]歌の場合はわりあいうまく外国語を入れていると思います。これなんかも「エミグラチオ」という言葉のひびきが、日本語にない新撰さをもっていていいと私は思います…

熟柿

「じゅくし」は文字通り熟して柔らかくなった柿。枝についたまま熟した渋柿を「木ざわし」と言い、鳥が好む。 一燈と熟柿を磨崖仏の裾 皆吉爽雨 参禅の窓に落ちたる熟柿かな 長尾井蛙 密教の山の彩とし柿熟るる 横山節子 なお、似た状態の柿に「木守柿(きも…

烏瓜

ウリ科の多年生つる草。雌雄異株。晩秋に朱色に熟す。葉が落ち尽した後もぶら下がっているので、目立つ。中の種は黒く、カマキリの頭に似るというが、まだ開けて見たことはない。 うれしさのこどものくれしからすうり 森 澄雄 枯れきつて中の虚ろや烏瓜 長谷…

紅葉狩(10)

「紅葉狩」連載の終りに、紅葉について二三補足しておこう。 「もみじ」に当てる漢字には、黄葉と紅葉があるが、万葉時代にはもっぱら黄葉が使われた。紅葉を当てるようになるのは、平安時代以降である。 文部省唱歌の「紅葉」は、みんなが歌ったり聞いたり…

紅葉狩(9)

鎌倉源氏山のもみじ如何にと寿福寺横から山に入り、源氏山公園、化粧坂、葛原岡、浄智寺と歩いた。源氏山から見下した化粧坂の紅葉が凄みを帯びて最も見ごたえがあった。浄智寺の山門周辺も常になく華麗に紅葉していた。 寿福寺の裏山に入る紅葉狩 年暮れて…

紅葉狩(8)

以前にも書いたが、神奈川県中郡二宮町の吾妻山では、師走になると菜の花や水仙が咲き始める。短い期間ながら紅葉と菜の花と水仙が同時に見られるのである。ただ三者を一枚の写真に収める場所はまだ見つけていない。 電線に白鷺とまる師走かな 年暮れてはや…

紅葉狩(7)

観光の季節の北鎌倉の社寺には、人出が多いので、ちょっと出かける気がしない。紅葉はもう終わったかと思いつつ、師走の円覚寺と東慶寺に出かけてみた。日当りのよい円覚寺境内のもみじは大方枯れていたが、黄梅院の庭の紅葉は見栄えがした。舎利殿の庭では…

紅葉狩(6)

横須賀市の衣笠山は、桜の名所である。来年には改めて桜狩の中でご紹介するつもりだが、紅葉はいかにと見に行ってきた。桜の黄葉はとっくに終わっていて、立ち並ぶ桜木は丸裸。やはり、クヌギやコナラの黄葉が目立つ。 岡田緑風『三浦繁昌記』(明治四十一年…

浮寝鳥

「うきねどり」は冬の季語「水鳥」の傍題になっている。水に浮いて眠っている冬の水鳥を指す。 岩あればしたがひ巡り浮寝鳥 原コウ子 「浮寝」(「浮宿」とも表記)は万葉集の頃から詠まれた。「波枕」という歌ことばも生れた。 敷栲の枕ゆくくる涙にそ浮宿…

紅葉狩(5)

大磯のもみじの見所はいくつもあるのだろうが、私の知るところでは、楊谷寺谷戸横穴群のある紅葉山と高麗山の地獄沢の二か所である。楊谷寺谷戸横穴群は古墳時代後期のものという。紅葉山の中では、この横穴群から見るもみじが最も鮮烈である。高麗山につい…

石蕗の花

石蕗は「つわ」「つわぶき」あるいは文字通り「いしぶき」とも言う。キク科の常緑多年草。暖地の海辺に野生するが、東北地方の中部から北には見られない。 以下の山口誓子の作品は、彼の石蕗の花の全5句である。 つはぶきの終日陰を出でずして 山口誓子 虹…

紅葉狩(4)

里山に紅葉を探した。藤沢の新林公園、横浜の舞岡公園、座間の谷戸山公園などである。里山には、炭焼きや椎茸栽培に使用するクヌギやコナラが多いので、紅葉より黄葉が目立つ。当然だが、日当りのよい斜面の木々が早く色付く。 笹鳴の藪見下すや鳩のむれ 青…

鶏頭

ヒユ科の一年草。アジア熱帯地方が原産とされ、日本には古く中国を経由して渡来した。そこから韓藍と呼んだ。万葉集には四首に詠まれている。 鶏頭の澎湃として四十過ぐ 石田波郷 鶏頭にしばらく見ゆる雨の筋 伊藤通明 わが宿に韓藍蒔き生(おほ)し枯れぬれど…

露草

ツユクサ科ツユクサ属の一年生植物。日本全土、アジア全域、アメリカ東北部など世界中に広く分布する。古名は月草。蛍草ともいう。万葉集には、月草で9首詠まれている。鴨跖草(おうせきそう)の字を当てることもある。露草で染めた青色はうつろいやすい色…

シクラメン

サクラソウ科の多年草で地中海東部沿岸地方が原産地。わが国では明治中期から栽培され始めたという。花の色には、白、緋紅、鮭肉、紫紅など多様。花弁についても、先端が波状になるものや縁に細かい切れ込みのあるものなどがある。開花の状態から和名を篝火…

紅葉狩(3)

鎌倉駅から京急バスに乗って鎌倉宮まで行き、そこから瑞泉寺に向かって歩く。二階堂川にかかる通玄橋を渡る手前で左の道をとる。右側に沿って山道に踏み入る。獅子舞、紅葉谷と続く。先日このルートを逆方向から降りた時は、まだ紅葉は見られなかったが、今…

かぶ、かぶら。アブラナ科の二年草。南欧やアフガニスタンが原産地という。葉は菜に似て大きく、根は多肉多汁でともに食用になる。古名は「すずな」、上代には「あをな(蔓菁)」と言った。大蕪と小蕪があり、漬物や煮物にして食べる。 木曽駒に雪きて蕪もろ…

花八手

「ヤツデ」はウコギ科の常緑低木。大きくて厚い葉は掌状に裂ける。晩秋に黄白色の小さな五弁花をつける。翌年の4月5月頃に黒い球形の果実が熟する。庭木としても栽培される。「八手の花」は冬の季語、傍題が「花八手」。 遺書未だ寸伸ばしきて花八つ手 石…

紅葉狩(2)

相州大山の中腹にある大山寺は、紅葉の名所である。先日、山頂まで登った折には、まだ目立たなかったので、あらためて11月末に訪ねてみた。例年と変わりなく見事な景観であった。 雨降山・大山寺は、真言宗大覚寺派の寺院で、良弁が開基と伝える。弘法大師…

鑑賞の文学 ―俳句篇(21)―

あかあかと日は難面(つれなく)もあきの風 芭蕉〈おくのほそ道〉元禄二年 [虚子] ・・・「日はつれなくも」という言葉など、これが他の人の言葉であるとあるいは厭味を感ずるかも知れないのであるが、・・・そういう境遇に身を置いた芭蕉であるとすると、そ…

敗荷

「やれはす」と読む。風で吹き破られた枯れ蓮の葉のことである。敗荷の広がった池の様子は、刀折れ矢尽きた荒涼たる戦場の跡を彷彿とさせる。俳句では秋の季語。「破れ蓮」とも書く。 敗荷の風いろいろに吹きにけり 岸田稚魚 羽ばたけるもの敗荷の水をうつ …

柿の実

柿はカキノキ科の落葉高木またその果実。わが国では、栗と同様に有史以前から栽培されていたらしい。今では多くの品種がある。万葉集に詠まれていないのは解せないが、「平城京木簡」や『出雲国風土記』などに出て来るので、万葉人には身近な果実であった。 …

紅葉狩(1)

南足柄市の大雄山の一隅に足柄森林公園丸太の森がある。入園料四百円。ここにくるとわが辿るルートは決まっている。万葉植物園、けやきの広場、見晴らし広場、詩の広場、せせらぎの小径、ターザンロープ、足柄山野草園、吊橋、親子の広場 と、ほぼ外周を歩く…

マムシ

クサヘビ科マムシ属の毒ヘビの総称。ニホンマムシは日本本土唯一の毒蛇。毒は出血毒で毒性は強いが量が少ないので、致命的ではないらしい。卵胎生で夏から秋にかけて5匹から12匹を産む。語源は「まむし(真虫)」、「はむむし(食虫)」。『玉葉』(九条…

小春日の二宮海岸

二宮町の梅沢海岸には漁港はないが、朝八時から朝市が開かれているらしい。鮮魚は八時半から販売というビラを見た。決まった曜日なのかどうかは不明。臨時の駐車場が開かれて、十数台が集まってくるようだ。らしい、ようだ、というのは、自分の目で見たこと…

初冬の里山

冬枯れの里山を歩いていると緑あふれる時期には気づかなかった草木に惹かれることがしばしばある。 ニガキはニガキ科ニガキ属の落葉高木。雌雄異株。東アジアの温帯から熱帯に分布する。全ての部分に強い苦味がある木で、そこが名前の由来。材から樹皮を剥ぎ…