天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー肉(1/2)

日本では古来、狩猟で得た獣(シカ、イノシシ、ウサギ、野鳥など)の肉は食べていた。食用に家畜を育てる習慣はなかった。仏教伝来以降は、獣肉全般が敬遠されるようになっていった。明治時代になって、牛肉を食べることが文明開化の象徴と考えられ、牛肉を…

食のうたー蕎麦、うどん、ラーメン(3/3)

ラーメン: 中華麺とスープを主とし、様々な具(チャーシュー、メンマ、味付け玉子、刻み葱、海苔など)を組み合わせた麺料理。日本への伝播としては、明治時代を迎え神戸や横浜などの港町に中華街が誕生し、そこで提供された南京そばに始まるとされる。(参…

食のうたー蕎麦、うどん、ラーメン(2/3)

うどん: 小麦粉を練って長く切った、ある程度の幅と太さを持つ麺、またはその料理。遣唐使(奈良時代か平安時代か)によってもたらされたという。 夕餉にはうどん煮るとてその事を朝より待てりわれも子どもも 吉野秀雄 風邪ひけば母がかならずとりくれし鍋…

食のうたー蕎麦、うどん、ラーメン(1/3)

蕎麦: 日本への伝来は奈良時代以前。農民が飢饉などに備えてわずかに栽培する程度の雑穀だった。古くは粒のまま粥にし、あるいは蕎麦粉を蕎麦掻き(そばがき、蕎麦練り とも言う)や、蕎麦焼き(蕎麦粉を水で溶いて焼いたもの。麩の焼きの小麦粉を蕎麦に置…

食のうたー鮨(3/3)

鮓の石に五(ご)更(から)の鐘のひびきかな *夜の時間を初更から五更に区分する制度において、五更は御前四時頃に当る。 寂寞(じやくまく)と昼間を鮓のなれ加減 蓼(たで)の葉を此(この)君と申せ雀ずし *王子猷の詩を踏んでいるらしい。雀鮓にとって蓼の葉は…

食のうたー鮨(2/3)

鮒(ふな)ずしや彦根の城に雲かかる *鮒ずし: 日本古来のなれずしの一種。古代から琵琶湖産のニゴロブナなどを主要食材として作られ続けている滋賀県の郷土料理。独特の発酵臭がある。 鮓おしてしばし淋しきこころかな *鮓を漬けて重しをして作業が終わっ…

食のうたー鮨(1/3)

「すし」は、酢で味付けした飯に、魚介類などの具をのせたり、混ぜ合わせたりした食品で、語源は、「酸し(すし)」からきている。発祥は東南アジアの山間部とされる。 「すし」の漢字には、「鮨」「鮓」「寿司」がある。このうち「寿司」は江戸末期に作られ…

食のうたー魚介(7/7)

海人(あま)の群からすのごときなかにゐて貝を買ふなりわが恋人は 若山牧水 *海人さんたちがみな黒いウェット・スーツを着ていたので、鴉の群のように感じたのだ。 此ごろは浅蜊浅蜊と呼ぶ声もすずしく朝の嗽(うが)ひせりけり 長塚 節 巻貝の螺旋に残る紅(く…

食のうたー魚介(6/7)

わが背子(せこ)に恋ふれば苦し暇(いとま)あらば拾ひて行かむ恋忘(こひわすれ) 貝(がひ) 万葉集・大伴坂上郎女 *忘れ貝: 二枚貝の片方だけになったもの。恋忘れ貝は、恋心を忘れることができるとされた貝。一首の意味は、「貴方を恋して苦しくてたまりませ…

食のうたー魚介(5/7)

鰰(はたはた)を吊り干す軒に夕しばし潮の照りの寒くかがやく 木俣 修 *鰰: スズキ目ハタハタ科の海水魚。「ハタハタ」は雷の鳴る音の擬音語。晩秋から初冬の雷が多く鳴る季節に、秋田・山形の海岸へやってくる魚であるところからの命名。(百科事典から) …

食のうたー魚介(4/7)

河豚くうていのち死なまし海棠(かいだう)に春うつくしく雨のふる日や 太田水穂 *作者は、《アララギ》の万葉調,写生主義に対抗して,蕉風俳諧の精神を歌に移し,象徴主義を作歌の根本とすることを唱えた。 覇県警備に静かなる夜は送り来し烏賊を焼きつつ兵…

食のうたー魚介(3/7)

鱈: 北半球の寒冷な海に分布する肉食性の底生魚。日本近海では北日本沿岸に マダラ、スケトウダラ、コマイの3種が分布する。 鮭: シロサケ、アキサケ、アキアジなどの名称がある。なお地方名も多い。 鰊: 別名、春告魚(はるつげうお)。冷水域を好む回遊…

食のうたー魚介(2/7)

日本の鰯には、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種がある。名前の由来には、陸に揚げるとすぐに弱って腐りやすい魚なので「よわし」から変化したとの説がある。 鯖はマグロやアジ等と並んで世界的に消費量の多い魚とされる。日本の太平洋側の各地…

食のうたー魚介(1/7)

鰻については過去のブログで多く取り上げているので、このシリーズでは省略する。 沖方(おきへ)行き辺に行き今や妹がためわが漁(すなど)れる藻臥(もふし) 束(つか)鮒(ふな) 万葉集・高安王 *この歌は高安王が裹(くづつ)(わら・糸などで編んだ袋)でつつん…

食のうたー米、飯、ごはん(6/6)

壜の米棒もて搗ける母の後姿(うしろ)しのつく雨を見てありしかば 島本正靖 *戦後の家庭で見られた懐かしいような風景。 米煮ゆる匂ひ立ちゐて短歌的抒情の骨子いやしまずゐる 石橋妙子 *米が煮える匂いが立ち込める情景は短歌の抒情に合うという。短歌に詠…

食のうたー米、飯、ごはん(5/6)

闇なかに面寄せて食ふ白飯は飴のごとくに咽喉くだりゆく 大内與五郎 *シベリア抑留中の経験であろう。 白飯のひしめく湯気を手もてあふぐ 人はほろびに至るにも 森岡貞香 *葬式の食事に出された白飯を食べる場面であろう。 あたたかく真白き飯(いい)よ神の…

食のうたー米、飯、ごはん(4/6)

食初めの飯一粒をみどり児はいぶかしみつつ舌もて押し出す 植松壽樹 さやぎ合ひ飯食ふことも幾年かすぎて思へば朝寒(あさざむ)の中 岡井 隆 *楽しく食事していた時期があったのだ。幾年かたってそれがなくなってしまった。家庭崩壊が起きたのだろう。 おの…

食のうたー米、飯、ごはん(3/6)

虎杖(いたどり)のわかきをひと夜塩に漬けあくる朝食ふ熱き飯にそへ 若山牧水 *虎杖: 山野に自生するタデ科の多年草。高さ約1.5メートル。若い茎は酸っぱいが、食べられる。 出でゆくと飯いそぎ食ふ弟を見れば立ち入りてもの言はざりき 五味保儀 み枕べ去ら…

食のうたー米、飯、ごはん(2/6)

日本人が日常に米を食べるようになるのは新しい時代で、古くはひきわり麦が一般的な主食であった。「白飯」は、神に供えてからお下がりを食べた。 冷飯に湯をかけ食ひつつわがむかふ庭には紅し芍薬の花 松村英一 それとない監視を背(せな)に感じつつわれ差入…

食のうたー米、飯、ごはん(1/6)

衣食住のうちの食を詠んだ歌に注目してみよう。ただし、個々の食品をとりあげるときりがないので、基本的なものにかぎる。先ずは米、麦、飯について。飯は米や麦を蒸したもの。飯(いひ)の「い」は接頭語、「ひ」は霊力を表す。たべることによって力となる…

衣のうたーコート(2/2)

皺くちゃのレイン・コートの襟正し、卒業生を見送っている 福島泰樹 天涯はみどりの孤独ここはどこ レインコートのえりたてるかな 村木道彦 川にそそぐ雨白々とさびしきにレインコートの裾濡れて行く 近藤芳美 バーバリを吹かれ帰らん人絶てる今日すずかけの…

衣のうたーコート(1/2)

外套は、最も外側に着ることを想定して作られた上着のことで、英語ではオーバーコート。日本語では「オーバー」または「コート」と略すことが多い。 幾日もかけて縫ひやりし半コート妹は今日着て見せに来ぬ 大西民子 *大西民子の私生活は壮絶と言ってよい。…

衣のうたー履物(4/4)

きみが靴にわが小さきを並べ置くそれさへ不可思議のごとき朝(あした)よ 今野寿美 *結婚生活を始めたばかりの感想であろう。 背なか一面皮膚はがれきし少年が失はず穿く新しき靴 竹山 広 *生きることの悲しさと少年のたくましさを感じる。 今ぬぎし靴玄関の…

衣のうたー履物(3/4)

足半(あしなか)の草履(ぞうり)の脚に来る媼まこと貧しきは物を盗まず 岡部文夫 *脚にすり寄ってきた物乞いの老女を詠んだ。時代が思われる。 妻と子と吾に従う雪の径ゴム長靴は借りて穿きつつ 細川謙三 *ゴム長靴を借りて穿いたのは、作者だけだったのか?…

衣のうたー履物(2/4)

わらぢ作る手はじめに習ひし足中草履(ぞうり)はきたる武士の絵馬は忘れず 土屋文明 *足中(足半)草履: 普通の長さの半分しかなく、踵が出てしまう草履の総称。長草履と区別している。鎌倉時代から戦後ぐらいまで、ざっと7~800年ぐらいは履き続けられたと…

衣のうたー履物(1/4)

以下では、辞書で調べたことがらを引用することが多いが、煩雑になるので典拠は省略する。 下駄は、木製の台に鼻緒をすげた履物の総称。登呂遺跡の田下駄をはじめ古くから多くの遺品によって知られる。ぞうり(草履)は、鼻緒を有する日本の伝統的な履物で、…

洪水

(閑話休題) 新型コロナ・ウィルスの勢いが止まらないままに、梅雨前線による九州豪雨の災害が増えている。大雨や洪水は古代から日本にもあったのだが、和歌短歌に詠まれることは稀であった。雅を詠う和歌短歌の射程には入っていなかったからである。ちなみ…

衣のうたー帽子・手袋・足袋(6/6)

零下十六度足袋はかぬ子がつま立ちてたたみを歩くあかきそのあし 斎藤 史 白きものこほしめばここに足袋美し爪のかたちもああつぶさなる 香川 進 足裏を舞によごして足袋ひとつ包みてわれのまぼろしも消す 馬場あき子 夜となりて足袋にたまりし砂埃裏がへし…

衣のうたー帽子・手袋・足袋(5/6)

流亡の相(さう)と言はれし中指の渦紋も夏の手袋に秘む 大西民子*占い師に手相を見てもらったときに、中指の渦紋から「流亡の相(さう)」あり、との占いが出たのだろう。流亡とは、居所を定めずさすらうこと(流浪)を意味するが、作者の人生の実感であったろ…

衣のうたー帽子・手袋・足袋(4/6)

空つぽに満たされてゐるわが帽子冠ればゆふやみ掬ひてぬくし 上村典子 なつぼうしまぶかく吾子にかぶらしむこの世見せたくなきものばかり 辰巳泰子 喪のような空に帽子を投げつけて恋うるニコライ・スタヴローギン 古明地実*ニコライ・スタヴローギン: ド…