天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

防風(ばうふう)

日本の海岸に野生するハマボウフウをさす。 防風のここまで砂に埋もれしと 高浜虚子 美しき砂をこぼしぬ防風籠 富安風生 防風とり怒涛の前にみな黙す 古館曹人 防風とる砂浄ければひざまづく 末永感来 わが丈に余れるいのち地に深くひそめ防風の強き根の張り…

茎立(くくたち)

春がたけるころに菜類が高く茎を立てて蕾をつけ、花を開くことをいう。 大小の畑のものみな茎立てる 高浜虚子 茎立てるものをとらへし牛の舌 渡辺大年 茎立つや石槌の雪また新た 高倉観涯 上野(かみつけの)佐野の茎立(くくたち)折りはやし吾(あれ)は待たむ…

落花

風に吹かれてサクラの花弁が散る様。 城を出し落花一片いまもとぶ 山口誓子 流氷の落花寄りてはまた離る 藤田雅子 吾が木場へ城の落花の飛来せり 田上石情 落花してすべての花の地に還る 佐竹弘江 庭に下りれば肩にも髪にも散る落花消息絶えたる人が恋しき …

下萌(しももえ)

春早く大地からいろいろな草の芽が萌え出る様である。 下萌の大磐石をもたげたる 高浜虚子 貨車降りて下萌を踏む曲馬の象 橋詰沙尋 草萌ゆる廃線レールなほ存し 藤田雅子 草萌や機関車つけて全両鳴る 原 輝生 下萌の射撃場火を噴きつづく 原口天拝 荒れまさ…

真菰

イネ科の多年草。「まこも刈る」は枕詞で、「淀、大野河原、堀江、伊香保の沼」にかかる。 真菰中杭並びたる船着場 高浜虚子 舟先に真菰へなへな伏し沈む 後藤夜半 舟の波真菰を越えて田にはしる 加藤楸邨 真菰野の暮色が隔つ字二つ 山口草堂 まこも刈る淀の…

病葉(わくらば)

「わくらば」は枯葉ではなく、蝕まれ変色した木の葉。青葉の中にたまたま一二枚残るところから「わくらばに」でタマサカの意味になる。 病葉や学問に古る白浴衣 原 石鼎 病葉落ちつちかづく僧に裏返る 吉岡句城 病葉や来る日来る日が正念場 河村杉男 病葉の…

万緑

王安石の漢詩「万緑叢中紅一点」は古くからよく知られているが、俳句の季題 になったのは、以下の中村草田男の昭和十四年作からという。 万緑を顧るべし山毛欅(ぶな)峠 石田波郷 甕の濡れ一条黒し万緑下 平畑静塔 万緑の中や吾子の歯生え初む 中村草田男 万…

草いきれ

夏の強い日ざしをうけて,草むらから立ちのぼる,むっとする熱気のことである。 草いきれ人死居ると札の立 蕪村 草いきれ鉄材錆びて積まれけり 杉田久女 草いきれ貨車の落書き走り出す 原子公平 草いきれ尾さばきもなき馬の後 能村登四郎 草いきれ膝より低き…

胡瓜(きゅうり)

ヒマラヤ山麓が原産地というウリ科の一年草。一般に食べられるようになったのは、江戸末期から。 胡瓜いでて市四五日のみどりかな 大江丸 胡瓜もみ蛙の匂ひしてあはれ 川端茅舎 胡瓜もぎ噛みて何者かと語る 西東三鬼 茄子胡瓜買ふにも馴れてふるさとのことを…

浜木綿

ハマユウともいうが、ハマオモトが標準名。葉がオモトに似て、海浜に生えるところから命名された。ヒガンバナ科の大形多年草。[植物図鑑より] 浜木綿や落ちて飼はるる鳶の雛 水原秋櫻子 浜木綿や青水脈とほく沖へ伸ぶ 山口草堂 浜木綿に流人の墓の小ささよ…

人類が繊維をとるために最初に栽培を始めた植物のひとつ。その歴史は古く、日本でも奈良時代にすでに栽培されていた。中央アジア原産のクワ科の一年草。 しののめや露の近江の麻畠 蕪村 なつかしき闇のにほひや麻畠 召波 夕暮やかならず麻の一嵐 正岡子規 麻…

竹煮草

ケシ科の多年草で、本州以南の日本各地に原産及び自生する。夏の開花時期に草丈1500~2500mmに達する高さになる。時として3000㎜に育つ株も出る。果実は平たい莢になってぶら下がり風に揺れてさやさやとなるので、ササヤキグサの名もある。有毒植物。 馬飼も…

青葡萄

ブドウの品種には、ワイン向けのヨーロッパ系と耐病性の高いアメリカ系の二系統がある。この二つの交雑種が、生食用の品種として多くを占めている。シャインマスカットやロザリオビアンコが贈り物としてよく知られていよう。色づく秋の葡萄とは別物の感じ。…

黴(かび)

黴は微細なキノコ類の総称。黴が赤、黄、緑などの色に見えるのは胞子の色や排出する色素によって決まる。 この宿をのぞく日輪さへも黴 高浜虚子 黴けむり立ててぞ黴の失せにける 池内たけし 黴煙上がりしなかの己かな 中村汀女 としよりの咀嚼つづくや黴の家…

マタタビの花

名前の由来については、「疲れた旅人がマタタビの実を食べたところ、再び旅を続けることが出来るようになった」ことから「復(また)旅」と名づけられたという俗説があるが、アイヌ語の「マタタムブ」からきたというのが、現在最も有力な説のようである。(…

キク科の多年草。雌雄異株で地下茎を伸ばして繁殖する。 沢水の川となり行く蕗がくれ 高浜虚子 産褥をはなれて青き蕗洗ふ 百合山羽公 母の年越えて蕗煮るうすみどり 細見綾子 蕗むくや歳月かけて妻となりぬ 渡辺喜久子 水に放つ蕗のさみどり交錯す 奥野美枝…

虎耳草(ゆきのした)

雪の下、虎耳草、鴨脚草、鴨足草、金糸荷などとも書く。山地の湿った場所に生育する草本で、春の山菜として食されるほか、薬用にも使われる。日本の本州、四国、九州および国外では中国に分布する。 手ふきただ垂れて狭庭や雪の下 原石鼎 ふもと井や湯女(ゆ…

沢潟(おもだか)

アジアと東ヨーロッパの温帯域から熱帯域に広く分布し、日本でも各地で見られる。水田や湿地、ため池などに自生する。オモダカの語源ははっきりとしていない。ハナグワイ、サンカクグサ、イモグサ、オトゲナシなど多くの別名がある。 参考: 面高の意で、葉…

萍(うきくさ)

ウキクサは、浮草、根無草、無者草(なきものぐさ)(秋になると姿を消し、春に再び現れることから)などとも。古名をカガミグサといった。 直径 3–10 mm ほどの葉状体から、多数の根が水中に伸びている。葉状体は5–16脈をもち、裏面はふつう紫色を帯びる。 う…

藻の花

藻は、普通には水中に生ずる草をさすが、花を開かない海藻と花を開く淡水草とに大別する。俳句では主として湖沼や小川などに生じて花を開く淡水草のことを藻という。 渡りかけて藻の花のぞく流れかな 凡兆 藻の花に吸ひがら落す船頭かな 蘭更 藻の花の楽譜の…

青桐

アオギリ科の落葉高木。アオギリの名はあるがキリの仲間ではない。アオギリの名の由来は、キリ科のキリ(桐)が「白桐」とよぶのに対して、幹肌が青緑色で大きな葉がつく様子がキリに似ることから。漢名を梧桐(ごとう)という。庭木・街路樹として家具材に用…

菩提樹の花

菩提樹は中国に野生するシナノキ科の落葉高木。日本へは、12世紀に渡来したといわれる。禅僧栄西が中国から持ち帰ったとか。 天蓋のごとく菩提樹咲きにけり 那須茂竹 菩提樹の花を直ちに指さしぬ 後藤夜半 菩提樹の花さしのぞく写経台 金子篤子 鋸山(のこぎ…

柿の花

柿の原産地は中国という説が有力。奈良時代のものとして出土した木簡には、柿や干し柿について記されているという。 柿の花きのふ散りしは黄ばみ見ゆ 蕪村 役馬の立ち眠りする柿の花 一茶 柿の花こぼれて久し石の上 高浜虚子 舟人の舟を掃きゐる柿の花 田代…

蜜柑の花

昔は食用柑橘類をタチバナと総称し、奈良時代にはその実を「香(かぐ)の菓(このみ)」といった。蜜柑の文字は室町時代に出てきた。庶民が食べるようになったのは、江戸時代からという。 柚の花や能き酒蔵す塀の内 蕪村 うたたねをわが許されて蜜柑咲く 中村汀…

椎の花

イタジイとコジイの二種があり、日本の常緑樹林を代表する。前者は主に沿海地に、後者は主に内陸部に見られるという。椎は性的な独特な匂いを発する。 旅人のこころにも似よ椎の花 芭蕉 杜に入る一歩に椎の花匂ふ 山口誓子 椎匂ふ夜を充ち充ちて書きゐたり …

苔の花

俳句の季題には苔の花があるが、植物学的には苔には花は咲かないらしい。白や薄紫色の胞子を入れた胞子囊を花に見立てたようだ。 岩角や火縄すり消す苔の花 太祇 御地蔵や膝も眼鼻も苔の花 一茶 水打てば沈むが如し苔の花 高浜虚子 苔咲くや親にわかれて二十…

芭蕉

バショウ科の大形多年草。果実はバナナに似る。玉巻く芭蕉は、巻き葉のことを美しく表現したもの。他にも玉椿、玉串、玉繭などに見られる。 島庁や訴人もなくて花芭蕉 日野草城 島の子と花芭蕉の蜜の甘き吸ふ 杉田久女 真白な風に玉解く芭蕉かな 川端茅舎 玉…

えごの花

エゴノキの材は傘のろくろに使用するので、ロクロギの名前もある。長い花柄を垂れ、花は下向きとなりその数が多く盛観。エゴノキは漢字では、売子木と書く。 えごの花遠くへ流れ来てをりぬ 山口青邨 えごの花散り敷く水に漕ぎ入りぬ 大橋越央子 えごの花かか…

アカシアの花

アカシアの多くは熱帯や亜熱帯に野生するが、日本には栽培だけで野生はない。北アメリカ東部を原産とするハリエンジュを指す場合が多いという。 風塵のアカシヤ飛ぶよ房のまま 阿波野青畝 アカシヤのもとに梢の花も落つ 山口誓子 アカシヤの花や記憶に露語少…

朴の花

山野の林の中で見られるモクレン科の落葉高木。北海道から九州までの山腹の肥えた土地に生育する。林業の面から重要な広葉樹のひとつ。 晴るる日も獄鬱鬱と厚朴咲けり 飯田龍太 朴の花暫くありて風渡る 高野素十 朴散華即ちしれぬ行方かな 川端茅舎 近よりし…