天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー旅(7/7)

伊豆下田行 八首 台風の去りし天空はれわたり海岸沿ひに「踊り子」走る 松陰が泊りし島の弁天堂板戸に四首空穂の歌が 「踏海の朝」の銅像見上ぐればさはやかなりき初夏の風 黒船の将兵たちに食はさむと牛をつなぎし屠殺の木あり 松陰が自首して捕らへられし…

わが歌集からー旅(6/7)

越後紀行 八首 深緑は谷底までもなだれたり千眼堂の赤き吊橋 大杉の梢さしくる夏の日を背に受けのぼる国上(くがみ)の山に 万葉のしらべにのりて破綻なき八一のうたに心やすらぐ 晩年の八一のすまひ見てあれば良寛和尚の書も掛かりたり 立ちならぶ柳の木々は…

わが歌集からー旅(5/7)

古都に遊ぶ 八首 紋様の定かならざる曼陀羅も国宝なれば尊びて見る 当麻寺(たいまでら)浄土の庭に口づさむ大津皇子の雲隠(くもがく)りの歌 *雲隠(くもがく)りの歌とは、次の有名な歌。 「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟背とわが見む」 大伯…

わが歌集からー旅(4/7)

奈良の旅 五首 山椒とたらの芽添へて香り立つ鯛のあら煮に酌む吟醸酒 旅先の奈良の宵闇やるせなし一万円をパチンコに擦る 手の指の欠けてかなしき阿修羅像春のあしたに顔あかく立つ 春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇院 時の塵かぶりて白き四…

わが歌集からー旅(3/7)

沖縄(一) 六首 人少なく車混み合ふ那覇の町国際通りと呼べど狭しも 泡盛はタイの米から作るといふ砂糖黍からと思ひをりしを ホルトノキ、アコウ、チシャノキ首里城の荒廃隠す緑の若木 彼我の兵たふれしといふ司令部の塹壕跡にガジュマル立てり 砲撃の跡に…

わが歌集からー旅(2/7)

中禅寺湖晩春 五首 頂に雪消え残る男体を右に左に見るいろは坂 「五月なほふかきみ雪の男体」と詠める空穂の歌碑に触れゐつ *窪田空穂の一首は、「五月なほ深きみ雪の男体の山に解けてはみずうみとなる」。 温泉(ゆ)のほてりさまさむとして窓際に湖上に暮る…

わが歌集からー旅(1/7)

北米を飛ぶ 六首 ブロンドのスチュアデス来る衆目を集めてまぶし制服の胸 看板の朽ちし通りは留学の心癒せしリトルトウキョウ 枯野ゆく自動車道路一本のカリフォルニアは果てしなき青 赤茹のおほき鋏のロブスター、クルージングのランチ賑ふ 潮風の匂ひかす…

わが歌集からー酒類(4/4)

JIM・BEAMブラックを飲む熟成の六年間に孫ふたり生れ *JIM・BEAM: 米国ケンタッキー州、クラーモントで蒸留製造されているバーボン・ウイスキーの銘柄。 屋根の無きビルの屋上夏くればビアガーデンのパラソル開く 泡盛の十年ものの一瓶をの…

わが歌集からー酒類(3/4)

コップ酒大吟醸を傾けて妻と見てゐる空爆映像 烏賊ちやんちや焼きと長茄子漬に酌む麒麟麦酒の一番搾り 初穂料百円を捧げ一盃を口にふふみぬ大山の酒 内宮を出でておはらい町をゆく造り酒屋のあれば聞き酒 白秋と夕暮が来て酒飲みし八景原に大根育つ 東京の地…

わが歌集からー酒類(2/4)

シドニーのマウンドに立つ松坂を熱燗酌みてわが声援す 歳晩の卓に並ぶる酒肴訪ひくる子等を花活けて待つ 山椒とたらの芽添へて香り立つ鯛のあら煮に酌む吟醸酒 吟醸酒一合枡にあふれさす茶髪娘の慣れたる手つき 恋多き母なり愛の欠落を酒が満たせる昼の居酒…

わが歌集からー酒類(1/4)

熱燗を注文せしがぬるかりき煮付け南瓜の上の山椒 夕暮れて大台ヶ原に雲湧くも大部屋にひとり飲む缶ビール 妻と酌む麦酒一本新香を噛む音のする鰻屋の昼 一時間余して返すレンタカーくさや焼酎買ひて船待つ 羊肉のしゃぶしゃぶ食ひて白酒呑む木枯すさぶ北京…

わが歌集からー子、孫

子 練習は社宅の部屋をしめきりて子はバイオリンわれはフルート 浪人の息子も囲むすき焼きに明日入院の妻を励ます むらさきの花を飾りて妻泣きぬ子と喧嘩せし日の夕暮に ふたり子の巣立ちにければ鳩時計買ひたしといふ家籠る妻 子の去りし学習机布かけてそつ…

わが歌集からー妻(4/4)

上野駅ホーム案内悪しければ妻をしたがへののしり走る 年々に居間に咲かせるアマリリス老いゆく妻のたのしみにして 駒形のどぢやう食ひにと婚前の妻ともなひしことも思ほゆ 墓石の重きをいとふわが妻は死後の出入りを想(おも)ひゐるらし 「晩春」とふ古き映…

わが歌集からー妻(3/4)

御仏の前去り難き妻おきてわが涼みゐる石のきざはし 妻は麦酒われは老酒飲みながら子の話する焼肉の店 たのしまぬ男となれる我とゐて御仏を彫る眼鏡の妻は 乳濁の霧の中ゆくゴンドラに二人となりて妻ははしゃぎぬ それぞれ顔の映れるガラス窓鰻食ひゐる彼岸…

わが歌集からー妻(2/4)

木彫(一) 五首 御仏を彫れば長生きするかもと子宮筋腫をとりし妻はも 子宮とりし後の背中に出でし瘤凝ると言ひつつ御仏を彫る 角材の中の御仏彫り起こす妻の夜なべの夢明かりかな 気品ありと仏誉むれば手を打ちて喜びをりぬ春の夕暮 枕辺に彫りし御仏飾り…

わが歌集からー妻(1/4)

電話鳴り妻の手術日告ぐる声丹沢山塊とほく黒ずむ 入院の妻をかばひて通勤のバスに乗り込む師走国道 相部屋の入院ベッドに妻残し会社へ急ぐ木枯しの中 開腹に立ち会ふ我は祈りつつ窓越しに見る妻の昏睡 珈琲の朝の香りに浸りつつ妻はさくさくセロリを食めり …

わが歌集からー母(2/2)

見送る(二) 八首 うつろへる視線の前に顔出して話しかくればわが子と識りぬ 皺多くシミ浮き出でし母の手を擦りつつ妻は話しかけゐつ 「また来るね」と声をかくれば探すごと視線泳がせはつか頷く 死化粧に見苦しくなき母の顔柩にあれば心やすらぐ ひつそり…

わが歌集からー母(1/2)

母の病状 六首 自動ドア開きて入りし癌研のロビーは無人の夏の夕暮 小説と三鬼の句集とどけたり癌病む母の憂さ晴らさむと わが訪へば饒舌になる母ゐます癌研究所北の病棟 気丈なるゆゑに全てを告げられし医師のことなど母は語りき 出張のかたはら見舞ふ癌研…

わが歌集・概要

わが句集と同様に、新聞や雑誌の短歌欄、結社紙、NHK歌壇、短歌大会などに掲載されたわが作品を、短歌を始めた平成四年から最近の令和三年まで一部未発表分を含めて(全4,796首)、年ごとに歌集名と歌数をご紹介しておきたい。なお作者名については、長く…

わが句集・概要

新聞や雑誌の俳句欄、結社紙、NHK俳壇、俳句大会などに掲載されたわが作品を、投句を始めた平成四年から最近の令和三年までの全3,031句を、年ごとに句集名と句数としてご紹介しておきたい。作者名については、長く本名(秋田興一郎)を使用していたが、途…

年月を詠む(3/3)

歳月の長さがなかのある時にするどかりき激しかりきまんじゅさげの赤 真鍋美恵子 おもむろに一日(ひとひ)一日が過去となる集積あはれ老の歳月 佐藤佐太郎 孤り聴く<北>てふ言葉としつきの繁みの中に母のごとしも 浜田 到 *浜田 到: 大正7年~昭和43年。ア…

年月を詠む(2/3)

くさ枕このたびへつる年月のうきはかへりてうれしからなむ 後撰集・読人しらず *「草枕この旅経つる年月の憂きは帰りてうれしからなん」という読み。 よとともに恋ひつつ過ぐる年月はかはれどかはる心地こそせね 詞花集・一条院 とし月をいかで我が身におく…

年月を詠む(1/3)

歳月、光陰を意味する年月をとりあげる。 年月はあらたあらたに相見れど吾が思ふ君は飽き足らぬかも 万葉集・大伴村上 梓弓春たちしよりとしつきの射るがごとくもおもほゆるかな 古今集・凡河内躬恒 *梓弓: アズサの木で作った丸木の弓。弓のつるを引く、…

令和三年のわが作品から

令和三年も終りに近づいた。新型コロナ・ウィルスは新しい株が出てきて衰える気配がない。今年のわが俳句短歌作品の中からいくつか挙げておきたい。 俳句十句(「古志」掲載) 宇宙にも初めと終り初茜 道の辺に思ひ出したり杜鵑草 撫で牛を撫でてはならず初…

女を詠む(4/4)

はじめより女は傷(いた)みに耐ふること勁(つよ)しと言はれつよく耐えきつ 真鍋美恵子 女(をみな)とは幾重(いくへ)にも線条(すぢ)あつまりてまたしろがねの繭と思はむ 岡井 隆 ハスキーに猫を呼びたる女(ひと)のあり性の脆さをいとしめるらし 伊藤弘子 *ハス…

女を詠む(3/4)

桐の葉に包みとらへし蛾を殺すをみなの指とおこなひを見つ 橋本徳寿 人々の噂を好むをみな子の中に交りてしばらく愉(たの)し 山下陸奥 うつしみは香をともなふと思ふときかなしきまでにちかし処女は 上田三四二 *うつしみ: 現し身(現在生きている身) 処…

女を詠む(2/4)

あまつ風雲のかよひぢ吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ 古今集・良岑宗貞 *「天の風よ、雲の通り道を吹き閉じてくれ。舞う女性(天女)たちの姿をあともう少しだけでも留めておきたい。」 出家後の僧名が遍昭。 あまつ風氷をわたる冬の夜の乙女の袖をみ…

女を詠む(1/4)

「をみな」の音便形が「をんな」。「め」はおんな・女性の意味から妻を指すことも。児、児ら、をみな子 なども。「をとめ」に当てた漢字には、少女、処女、乙女などがある。 ささなみの志賀津(しがつ)の子らがまかり道(ぢ)の川瀬の道を見ればさぶしも 万葉集…

男を詠む(4/4)

まぎれなき冬の夜の風くだり来(き)ぬ酔うてさみしき男となるな 紺野寿美 男はもかなしからずや犯されて泣くよろこびは持たず生きゆく 香川 進 *女性は「犯されて泣くよろこび」をもっているとの考え方のようだ。 現代では公然といえる内容ではないだろう。 …

男を詠む(3/4)

あなかしこ やまとをぐなやー。国遠く行きてかへらず なりましにけり 釈 迢空 *あなかしこ: 連語《感動詞「あな」+形容詞「かしこし」の語幹》。 「ああ、恐れ多い。」の意。 雪のこる遠くの山に背をむけて麦ふんでゐる一人の男 矢代東村 またひとり顔な…