天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

神を詠む(4/9)

思ふことくみてかなふる神なれば塩やに跡をたるるなりけり 千載集・藤原公教 春日野のおどろの道のうもれ水すゑだに神のしるしあらはせ 新古今集・藤原俊成 八百万(やほよろづ)よもの神たちあつまれり高天(たかも)の原に千木たかくして 金槐集・源 実朝 やほ…

神を詠む(3/9)

竜田姫たむくる神のあればこそ秋の木の葉のぬさと散るらめ 古今集・兼覧王 かすが野に若葉つみつつ万代をいはふ心は神ぞしるらむ 古今集・素性 千早ぶる神のきりけむつくからに千年の坂も越えぬべらなり 古今集・遍昭 神垣のみむろの山の榊葉はかみのみ前に…

神を詠む(2/9)

大王は神にし坐(ま)せば赤駒の匍匐(はらば)ふ田井(たゐ)を都となしつ 万葉集・大伴御行 霰降り鹿島の神を祈りつつ皇(すめら)御軍(みくさ)にわれは来にしを 万葉集・大舎人部千文 国国の社の神に幣帛(ぬさ)奉り贖祈(あがこひ)すなむ妹がかなしさ 万葉集・忍海…

神を詠む(1/9)

神秘的な力を信じて畏怖する対象物。「かみ(上)」と同源という説がある。即ち、「か」は「かぶる(被)」「かさねる(重)」と同根で、「み」は「も(方)」の転。 玉(たま)葛(かづら)実ならぬに樹にはちはやぶる神そ着くとふならぬ樹ごとに 万葉集・大伴…

同窓会―伊豆高原にて

今回は五十年目の同窓会(東京大学工学部計数工学科応用計測コース、昭和43年卒業)になる、ということを前田忠昭さん(幹事)が話してくれた。毎回出席してきたわけでないが、感慨無量である。学生時代からの常連がそろった。とは言え、数人があの世に旅立…

匂い・匂うの歌(8/8)

セメントのにほふ地下駅葱の束解きたるがごと若者らゐる 真鍋美恵子 眠りゐる褐色の犬とたんぽぽと土に低きもの自(じ)がにほひもつ 真鍋美恵子 美しく名を呼ばれたりはつなつの魚の匂いのする坂道で 藤本喜久枝 議事堂より出できてわれを遮りし集塵車激しき…

匂い・匂うの歌(7/8)

薬師寺の塔のしら壁ましら壁ゆふかたまけてさぶくにほふも 新井 洸 落葉松(からまつ)の芽ぶきの時の色感(しきかん)を匂ふといひて ただ已(や)まむのみ 松村英一 谷ひとつへだててまともに白馬岳うす紫に残雪にほふ 窪田章一郎 見る限り焼き払ひたる出津の野…

匂い・匂うの歌(6/8)

木の花の散るに梢を見あげたりその花のにほひかすかにするも 木下利玄 峡ふかき宿駅(まや)に兵とまり馬にほひ革の匂ひの満ちにけるかも 中村憲吉 利鎌(とがま)もて刈らるともよし君が背の小草(をぐさ)のかずに せめてにほはむ 山川登美子 川芎(せんきゆう)の…

匂い・匂うの歌(5/8)

花のいろにあまぎる霞立ちまよひ空さへにほふ山ざくらかな 新古今集・藤原長家 吉野山はなやさかりに匂ふらむふるさと去らぬ峰の白雲 新古今集・藤原家衝 山里の花のにほひのいかなれや香をたづねくる鶯のなき 新勅撰集・選子内親王 山里は夕暮さむし桜花ち…

匂い・匂うの歌(4/8)

日本で「香」が用いられるようになったのは、仏教伝来の頃という。当初は、主に仏前を浄め、邪気を払う「供香」として用いられ、宗教的な意味合いが強いものだった。平安時代になると、香気を楽しむ「薫物」が貴族の生活の中でさかんに使われるようになった…

匂い・匂うの歌(3/8)

こち吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな 拾遺集・菅原道真 行くみづの岸ににほへる女郎花しのびに浪や思ひかくらむ 拾遺集・源 重之 かばかりのにほひなりとも梅の花しづが垣根を思ひわするな 後拾遺集・弁乳母 植ゑおきし人なきやどの桜花…

匂い・匂うの歌(2/8)

紫草(むらさき)のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも 万葉集・天武天皇 引馬野(ひくまの)ににほふ榛原(はりはら)入り乱り衣にほはせ 旅のしるしに 万葉集・長奥麿 あをによし寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の薫(にほ)ふがごとく 今盛りなり …

匂い・匂うの歌(1/8)

匂いの意味としては、照り映える色、雰囲気、香り などがある。その動詞形が匂う。語源は「にほ(丹秀)」に語尾「ふ」が付いたもの。「に(丹)」は赤、「穂(秀)」は抜きんでて現れている、とされる。以上は辞書からの情報。 黄葉(もみぢば)のにほひは繁…

色を詠む(4/4)

消えぬともあさぢが上の露しあらばなほ思ひおく色や残らむ 新勅撰集・藤原雅経 むら雀声する竹にうつる日の影こそ秋の色になりぬれ 風雅集・永福門院 目にかけて暮れぬといそぐ山本の松の夕日の色ぞすくなき 風雅集・藤原為兼 見わたせば心は色もなかりけり…

色を詠む(3/4)

色にのみそみし心のくやしきを空しと説ける法のうれしさ 新古今集・小侍従 桜咲くとほやま鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな 新古今集・後鳥羽院 いろかはる萩のした葉を見てもまづ人の心の秋ぞ知らるる 新古今集・相模 野辺の露はいろもなくてやこ…

色を詠む(2/4)

秋吹くはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ 和泉式部 知られじとそこら霞の隔てしに尋ねて花の色は見てしを 和泉式部 梅の花香はことごとに匂はねどうすく濃くこそ色は咲きけれ 後拾遺集・清原元輔 あさみどりみだれてなびく青柳のいろにぞ…

色を詠む(1/4)

色の語源は、「うるわし(麗)」の「うる」あるいは「うるう(潤)」からの転といい、色彩や顔色を意味したが、美しい容色、けはい、様子、情趣、色情などをも表すようになった。 このシリーズでは、「色(いろ)」という文字を詠み込んだ(つまり字縛り)作…

ご報告 蜘蛛の囲

[ご報告] 従来のシステム「はてなダイアリー」が、今年いっぱいで終了しますので、 新しいシステム「はてなブログ」に移行しました。従来のアドレス(お気に入り 登録名)をタッチして頂けば、この新しいページに自動的に移動します。また 過去の記事をイ…

自然への挽歌(9/9)

「国破れて山河あり」(杜甫「春望」の一節)の自然観が、我国の短歌の自然観を長く支配してきた。人間が構築した国家は滅んでも山河の豊かな自然は残るという思い込みである。奈良県吉野の自然にどっぷり浸って一生を終えた前登志夫の言葉、「僕の山河の形…

自然への挽歌(8/9)

環境破壊 昭和二十年以前の近代短歌においては、自然詠が割に多かった。それは、わが国に自然が豊富であり、かつアララギを中心とする客観写生が推奨されたことが要因であろう。 農林業に携わっている人のように自然を生活のかてにしている人達は、山林を削…

自然への挽歌(7/9)

うすれゆく季節感 平安朝時代から比べると、明治以降、季語の種類が圧倒的に増えた。例えばラグビー、受難節。季語登録が間に合わないくらいである。現代歳時記の季語に登録されていない季節の表現はいくらでもある。 ノースリーブの肩より垂らすさみしさよ…

自然への挽歌(6/9)

アニミズム 自然を詠う場合に、自然と作者とを平等の立場におく、あるいは自然と一体化して交信する際に、アニミズムは必然的に視野に入ってくる。これは洋の東西を問わない。アイヌのユーカラや古代神話では自然界の生物はすべて同等であり、言葉を話して交…

自然への挽歌(5/9)

谷川の早湍(はやせ)のひびき小夜ふけて慈悲心鳥は啼き わたるなり 島木赤彦 やはらかに柳あをめる 北上の岸辺目にみゆ 泣けとごとくに 石川啄木 最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも 斎藤茂吉 信濃川堰かれ堰かれて今日いゆくこころのうち…

自然への挽歌(4/9)

山の歌川の歌 自然詠は、海や山河、花(植物)鳥(動物)風(気候)月(宇宙)を対象とするわけだが、これらすべてについて近現代の短歌を見てゆく紙幅がないので、代表として山と川を詠んだ作品をとりあげることにしよう。すべてが自然讃美といってよい。詠…

自然への挽歌(3/9)

絵画手法の導入 はじめに正岡子規が写生の方法を短歌に持ち込む契機となった考え方を「歌よみに与うる書」から要約しておこう。 詩歌に限らずすべての文学が感情を本としていることは古今東西共通である。感情を本 とせず、理屈を本としたものがあるなら、そ…

自然への挽歌(2/9)

題詠からの脱却 題詠の歴史的経緯については、佐佐木幸綱の評論がよくまとまっているので、以下に抜粋して紹介しよう。 「題詠」が、短歌史の全体をおおうほどに重視された第一の理由は、「題」を通して「古」にそまり「新」を見る装置であったからなのであ…

自然への挽歌(1/9)

科学技術文明の発展に伴う合理的思考の普及につれて土俗文化が後退し、アニミズムは衰退した。季節感の希薄化も起きてきた。資源開発や都市文化によって引き起こされる大規模自然破壊や環境汚染は、世界的問題に発展している。前登志夫が短歌に詠んだ吉野の…

龍舌蘭

リュウゼツラン科の常緑多年草。葉は根元から叢生し、長さ1〜2メートル、剣状で肉が厚く、縁にとげがある。開花は約60年に一度。高さ7〜8メートルの花茎を伸ばし、黄緑色の円錐状の花をつける。メキシコの原産で、アオノリュウゼツランともいう。茎などの汁…

短歌の詠み方・作り方

文芸作品はすべからく修辞技法のたまものであるが、わけても短詩形の俳句や短歌においては、顕著な効果が現れる。それで初心の頃から、修辞にこだわり独自性を出そうと努力する。 このたび仙台文学館が編集・発行の『小池光 短歌講座』一式(2007年度〜2017…

病を詠む(12/12)

病みつかれみとり疲れて世の時間(とき)の流れのそとに われら佇む 岸上 展 しろがねの針降るやうにひかり降るきさらぎ尽を君病める辺に 雨宮雅子 繭籠るときと病む軀をあざむけば駆け登りゆく冬の花火は 岡口茂子 濠を越えきて病むわれら呼ぶ娼婦あり園めぐ…