天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

わが歌集・平成二十二年「シロフクロウ」

つれあひを亡くしし雄のシロフクロウわが口笛にふり向きにけり ひさびさに身内親戚集まれば育毛剤も話題にのぼる 冬隣 八首 赤い羽根共同募金のコンコース女子高生にわが胸の寄る あたたかき日差好めるエゴ、サクラ、コナラ、クヌギは陽樹なりけり 日の弱き…

わが歌集・平成二十一年「水行」

警杖をつきて玄関前に立つ横浜水上警察署員 運上所の役目ひきつぎ灯ともせり昼なほ暗き横浜税関 水行の白衣に透ける赤き肌経唱ふれば湯気をたてたり 峠 八首 箱根路を『金槐和歌集』たづさへてわが越えくれば初島の見ゆ 丈ひくき竹薮原の山頂に道ありて歌碑…

わが歌集・平成二十年「武士道」

水草を食みて泳げる池の鴨我との間をつかず離れず フランス式レンガ積なる要塞のトンネルの中暗き電灯 武士道 八首 自刃せし山の斜面ゆ遠望すかすみて揺らぐお城の天主 線香の煙にむせぶ白虎隊隊士の墓の数を気にする ただひとり生き残れるを非難され会津を…

わが歌集・平成十九年「玉くしげ」

滝おちてくれなゐの橋かかりたり山を彩るもみぢかへるで きよろきよろとあたり見回し羽根ひろぐ衆人環視の池の鵜の鳥 寒川の神に供へよ白豆腐母乳ゆたかに子育てかなふ 色満たぬ紅葉わびしき大山に厄除けせむと投ぐるかはらけ 霜月 八首 透谷の墓のちかくに…

わが歌集・平成十八年「予科練」

予科練の曲を奏ずる老夫婦アコーディオン弾きタンバリン打つ 人だかりして動かざり藍ふかき冨嶽三十六景の前 同窓会 八首 次々にトンネルに入りて味気なし車窓に映る乗客の顔 鋭角に空をつきさす神山を仰ぎて食ぶる黒玉子かな 枯葉しく山路をくれば何鳥か鋭(…

わが歌集・平成十七年「アマリリス」

丁寧に墓を浄むる白髪の老婆を見たり谷戸の朝日に 塔あまた立ちてパイプをめぐらせる白濁の潮 早川 八首 黄葉の散れる水面は早川のみなもと近く水ゆたかなり 芦ノ湖をみなもととせる早川の流れにそそぐ湿原の水 山肌に白煙立てり神山のを深むる晩秋の雲 紅葉…

わが歌集・平成十六年「もみぢの客」

海草の屑乾きたり晩秋の白砂に色さまざまに散る 馬に乗る女の腰の豊けきに見とれてゐたりあしがらの里 しゆるしゆると電車走れり立冬といへど薄着の関東平野 年間無休暁天坐禅の仏殿に観光客が賽銭投げる 大震災埋没者供養塔立てり「殊顔妙艶童女」の碑銘 も…

わが歌集・平成十五年「大根の苗」

観光の道の裏側竹むらの陰に植ゑある大根の苗 夕されば駅の広場のクスノキに何鳥か群るこぼれむばかり 太刀魚の銀の刺身のの旨味極まる雪国の酒 外来におわあおわあ猫が鳴き二時間近く待ちて呼ばるる 祖父二枚祖母四枚を書きしとふ政府に託す孫への手紙 息吸…

わが歌集・平成十四年「亀の日常」

首出して石に腹這ふ半日を微動だにせぬ亀の日常 杉山の杉の精霊流れ出づ奥多摩川の水青白き 秋晴の昼日中から酒を呑むわが幸せの彼岸なりけり 妻を恋ひ子を恋ひやがて死にゆくを遺伝子に持つわれら人類 ハリハリと木の葉食みゐる檻の中黒く尾長きフランソワ…

わが歌集・平成十三年「香菓(かぐのこのみ)」

それぞれの落葉掃く朝曇り日の小路小路 曇り日のここは明るき黄葉の欅広場に子ら飯を食む 岩壁の赤きロープに取りつける人影ひとつ山紅葉照る 学園の裏庭覗く日曜日消し忘れたる聖樹の明かり シドニーのマウンドに立つ松坂を熱燗酌みてわが声援す 表情のなき…

わが歌集・平成十二年「扉」

この山の抱ける熱き塊に湯は湧き出せり一の湯二の湯 水槽の底ひも壁も青ければアカクラゲの傘ますます赤き 手も肩も首なきもあり羅漢像廃仏毀釈に風化加はる 人のせてゆきし牛車は暁に服のみのせて帰り来しとふ 穴あまた開けたる幹に団栗に合ふ穴探すドング…

わが歌集・平成十一年「蟹葉覇王樹」

くれなゐの爪を開きて踊りゐるテレビの上のカニバサボテン 氷河期を越えここに残れる薄羽黄蝶の食草とする駒草の花 生殖と性の喜び切り離す電気ショックが受精に替はる 自が手に自がクローンを作り出す細胞学者わが夢に棲む 妻は麦酒われは老酒飲みながら子…

わが歌集・平成十年「茅の輪」

東京湾横断橋は瀟洒なり秋の日差しに白く霞める 死後遊ぶ庭とぞ思ふ池の辺に彼岸花咲き朱の橋かかる 憲兵の刀の脅しもきかざりしジャパンブルーの「別れのブルース」 江ノ島の屋台に入りてコップ酒壺焼きに酌む子連れの夫婦 山頂に山の幸売る媼ゐてわがひと…

わが歌集・平成九年「望遠鏡」

望遠鏡に真白きドームの立てる見ゆ雪積む富士の山頂の端 髪の毛の硫黄臭きを言ひ合ひて乙女ら立てり大湧谷に 悲しもよコバルトブルーの湖の底神楽を舞ひし村の沈める 釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面 北京好日 十四首 焼藷を並べて売れ…

わが歌集・平成九年「望遠鏡」

望遠鏡に真白きドームの立てる見ゆ雪積む富士の山頂の端 髪の毛の硫黄臭きを言ひ合ひて乙女ら立てり大湧谷に 悲しもよコバルトブルーの湖の底神楽を舞ひし村の沈める 釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面 北京好日 十四首 焼藷を並べて売れ…

わが歌集・平成八年「桃太郎」

「おはやう」と「ばか」くり返すオウムゐる人語悲しき公園の朝 にぎわいし夏の浜辺の海の家秋風吹きて跡形もなし 桃太郎の歌口ずさむ子等住めりミクロネシアの珊瑚の島に 日の丸の国旗を立てし家一軒黄菊白菊庭にかがやく 文化の日枯れ残りたる向日葵のうつ…

わが歌集・平成七年「荻原」

荻原の葉末のまろき巣に生れしカワネズミの子等秋風をかぐ 伐採の山を追はれし鹿なるや入江の家の芝生食みゐる 雲の棲(す)む国メガラヤの少女等は水を背負ひて斜面を登る 波の穂に黒き人影立ち上がる秋の日射の茅ヶ崎の海 山鳩は社の鳩になじまざり枯木林に…

わが歌集・平成七年「聖夜」

夕暮れて人皆帰る仕事場にひとり書を読む聖夜なりけり 年一回相模湖にくる一団は湖底に沈む村の人々 四条流包丁の技伝へ来し包丁塚に蝉時雨降る 月山の修験終りて降りくれば町の匂ひに涙流るる サルバドール貧しき子等の朗らかに空缶たたくサンバのリズム 新…

わが歌集・平成五年「上昇気流」

北海の怒涛逆巻く河口には鮭の大群寄せてひしめく うちつれて上昇気流に舞ふ鶴のやがて越えゆくヒマラヤの峰 鎌倉へ 七首 広重の絵に描かれしと碑に謳ふ花の盛りの松並木跡 鏑矢をすべて当てたる太鼓打つ返す馬上に射手の碧き目 駆け込みの寺の昔は忘れよと…

わが歌集・平成四年「獅子頭」

苗植える水面に映る雲まぶし今は忘れん出稼ぎの町 夜更けても騒音絶えなき国道の間近きにあり出稼ぎの宿 フルートの音色かすかに香りたつコーヒーカップの匙のきらめき 秋暮れて帰りうながす妹を待たせて兄は道に輪を描く 肉削げし身となりたるにひたすらに…

「わが句集」について

新聞や雑誌の俳句欄、結社紙、NHK俳壇、俳句大会などに掲載されたわが作品を、投句を始めた平成四年から最近の令和二年まで一部未発表分を含めて(全3,031句)、 年ごとにご紹介しておきたい。なお作者名については、長く本名(秋田興一郎)を 使用してい…

「わが歌集」について

新聞や雑誌の短歌欄、結社紙、NHK歌壇、短歌大会などに掲載されたわが作品を、短歌を始めた平成四年から最近の令和二年まで一部未発表分を含めて(全4,807首)、年ごとにご紹介しておきたい。なお作者名については、長く本名(秋田興一郎)を使用していた…

歌集『サーベルと燕』について(4/4)

[巧みな修辞] あたたかき冬の日にして手つなぎあひ保育園児のおさんぽが行く 永平寺の修行僧といふ人生もありしか遠(をち)の遠(をち)の山辺に 松葉牡丹の花をうたひて色彩のとびちる如し斎藤茂吉 裕次郎「北の旅人」そのこゑはワイングラスのこころに沁み…

歌集『サーベルと燕』について(3/4)

[とり合せ、下句への転換、モンタージュ] 蒙古野の空にひびかふ雁のこゑ茂吉うたひしわれは読みつつ はかなごとおもひてをれば秋晴れに今朝は秩父のやまなみは見ゆ ゆふぐれのせまる寒風うけながら佃(つくだ)渡船(とせん)のいしぶみのまへ 谷川雁「毛沢東…

歌集『サーベルと燕』について(2/4)

[表記]ひらがな・カタカナ、漢字の使い方、読み方 ひらがな表記の例を次に。 和歌、短歌はひらがなから出発すべし、という信念が感じられる。 一瞬に金魚すくひの紙やぶれかなしみふかきこどもなりしか わが町にまだ銭湯のありしころエントツ立ちてけむり…