天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー腕(2/3)

  取材せし船より酔ひて来し夫の額冴えつつわが腕の中

                      三國玲子

  抱き来し女の肩を放したる用なき腕を垂らして帰る

                     石田比呂志

  乾燥炉の火を搔きまはしゐる腕(かひな)細きながらに筋肉動く

                      大平修身

*乾燥炉: 各種の熱源を使用し、水分・溶剤・接着剤などあらゆる物の乾燥処理を行う装置。用途によって大小さまざまな種類がある。

 

  羊のやうにありたる過去よわれもまた種痘の創(きづ)を腕に遺して

                     杜澤光一郎

*種痘 とは、 天然痘 の 予防接種 のこと。 ワクチン をY字型の器具(二又針)に付着させて人の上腕部に刺し、傷を付けて皮内に接種する。 1980年 に 天然痘ウイルス は撲滅され、自然界に存在しないものとされているため、 1976年 を境に日本では行われていない。(辞典による)

 

  ほそき腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引きあげてくる

                      加藤治郎

  おのづから塩噴き出づる腕ありき海より上がる人のかなしみ

                      櫟原 聡

f:id:amanokakeru:20210917161521j:plain

種痘の創

身体の部分を詠むー腕(2/3)

  取材せし船より酔ひて来し夫の額冴えつつわが腕の中

                      三國玲子

  抱き来し女の肩を放したる用なき腕を垂らして帰る

                     石田比呂志

  乾燥炉の火を搔きまはしゐる腕(かひな)細きながらに筋肉動く

                      大平修身

*乾燥炉: 各種の熱源を使用し、水分・溶剤・接着剤などあらゆる物の乾燥処理を行う装置。用途によって大小さまざまな種類がある。

 

  羊のやうにありたる過去よわれもまた種痘の創(きづ)を腕に遺して

                     杜澤光一郎

*種痘 とは、 天然痘 の 予防接種 のこと。 ワクチン をY字型の器具(二又針)に付着させて人の上腕部に刺し、傷を付けて皮内に接種する。 1980年 に 天然痘ウイルス は撲滅され、自然界に存在しないものとされているため、 1976年 を境に日本では行われていない。(辞典による)

 

  ほそき腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引きあげてくる

                      加藤治郎

  おのづから塩噴き出づる腕ありき海より上がる人のかなしみ

                      櫟原 聡

f:id:amanokakeru:20210917062452j:plain

種痘の創

身体の部分を詠むー腕(1/3)

 「ただむき、かひな」とも言う。腕に宿る力から転じて、武芸のたくみさ、職人の技術などについても使う。

 

  腕拱(く)みて/このごろ思ふ/大いなる敵目の前に躍り出でよと

                      石川啄木

  楤(たら)の芽にがき晩餐ののち汝とねむり金色の腕の下にほろぶ

                      塚本邦雄

  満月のきたりてわれの夜を照す垂れたる腕はさみどりの莢

                      岡井 隆

  あそびゐし軍鶏がいたく柔らかに抱(いだ)きとられつ男の腕に

                      田谷 鋭

  前科の腕を垂れて君ありわが彫りし生ける塑像と誰か言はぬか

                      春日井建

*なんとも難解! 「前科の腕」「わが彫りし生ける塑像」 ??

 

  抱くため腕あることを知らしめし縹の夜明け忘るるなけむ

                      春日井建

*縹: 縹色(はなだいろ)は、明度が高い薄青色のこと。

f:id:amanokakeru:20210916063239j:plain

楤の芽

身体の部分を詠むー背(2/2)

  胸郭の内側にかたき論理にて棍棒に背はたやすく見せぬ

                     岸上大作

*日頃の政治運動からできた一首。

  さみしさをあらはにみせてゐるだらうわたくしの背(せな)をみないで欲しい

                    岩田記未子

  ぽきぽきと背骨を折らばすがしからむ何にあらがひてきたるわが生(よ)か

                     仲 宗角

  われの背へからだあずけて眠りたる幼き重み梅咲けば恋し

                     松平盟子

  母の背を幾度も擦り帰りたる真夜はその手を温(ぬく)めてねむる

                     浦上光子 

  背(せな)硬くひと遠そきし日のやうに乾きはじめてゐる水溜り 

                    田村美智代

*上句と下句の直喩による対比が独特。

 

  抱きながら背骨を指に押すひとの赤(あか)蜻蛉(あきつ)かもしれないわれは

                    梅内美華子

  しばしばを背比べしに来しひとりもう来ずわれを抜きさりてのち

                     大松達知

*抜き去ったのは、背の高さだけではなさそうだ。

f:id:amanokakeru:20210915064446j:plain

赤蜻蛉

身体の部分を詠むー背(1/2)

  久方のあまつみ空は高けれどせをくぐめてぞ我は世にすむ

                 夫木抄・宗尊親王

  闇を背にまじまじと孤(ひと)つ保ちいる水銀灯に雨のしたたる

                     高安国世

*まじまじと: 目をすえじっと見つめるさま。水銀灯を擬人化している。

 

  暖かき日ざしの窓に背をむけて記憶の断片をつなぎつつゐる

                     藤岡武雄

  われの背に残照がある窪地にて風はしばらく輪をなし廻る

                     斎藤 史

  強ひて抱けばわが背を撲ちて弾みたる拳をもてり燃え来る美し

                     小野茂

  梯子の男夕日のなかへのぼりゆくくろくきやかに背(せな)をまろめて

                     加藤克己

  てのひらの迷路の渦をさまよへるてんたう虫の背の赤と黒

                     塚本邦雄

  一心に釘打つ吾を後より見るなかれ背は暗きのつぺらぼう

                    富小路禎子

  背に負へばよく笑ふ子の生ひ立ちて迎合の声をあぐる日あらん

                     島田修二

*人間の生きる哀歓を詠い続けた作者らしい作品といえる。

f:id:amanokakeru:20210914064221j:plain

てんとう虫

身体の部分を詠むー肩(2/2)

  肩厚きを母に言ふべしかのユダも血の逆巻ける肉を持ちしと

                      春日井建

*なんとも難解。歌の背景を知りたい。

 

  蝶の粉を裸の肩にまぶしゐたりわれは戦火に染む空の下

                      春日井建

*上句の目的は、裸の肩が冷えないようにするためであったのか? 不可解。

 

  荒あらと肩をつかみてひき戻すかかる暴力を愛せり今も

                      河野裕子

  肩で風切りてあゆめば地平線ゆれつついつの日にもひとりか

                      村木道彦

  つくえの灯ともさむとして撫肩のやはらなりしをいま思ひ出づ

                       篠 弘

  指輪はめてさへ肩の凝(こ)るわがからだ長き歳月苦しく保つ

                      佐藤志満

  その狭き肩幅ほどの過去ひきて軽羅の少女さざめきわたる

                     武下奈々子

* 軽羅: かるいうすもの。うすい絹布、紗(しゃ)、絽(ろ)など。

 

  いつの日か殺してやらむと思ひしが駅へと肩をならべてきたる

                      上田一成

f:id:amanokakeru:20210912065446j:plain

指輪

身体の部分を詠むー肩(1/2)

 肩は人の腕が胴体に接続する部分の上部、および、そこから首の付け根にかけての部分をさす。いくつもの比喩、成句、慣用句がある。肩書き、肩を貸す、肩の荷が下りるなど。

 

  今年行く新島守が麻衣肩のまよひは誰が取り見む

                  万葉集・作者未詳

*「今年行く、新しい防人の麻の衣の肩のほつれは、誰が繕ってやるのだろうか。」

 

  くらべこし振分(ふりわけ)髪(がみ)も肩すぎぬ君ならずして誰(たれ)かあぐべき

                      伊勢物語

  きのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ

                     与謝野晶子

  肩痩せて嚢(ふくろ)重しとかこつなり市にもの乞ふ良寛あはれ

                      吉井 勇

*かこつ: 心が満たされず、不平を言うこと。

 

  父生きてありし日の肩大きかりし 摑まむとしてつね喪ひき

                      葛原妙子

  長き材の重心をいま肩にとり歩みゆくさま電車より見ゆ

                      田谷 鋭

  そばだちて寂しき肩を張る山の今日見えがたし曇る秋日に

                      安永蕗子

  死後のわれは身かろくどこへも現れむたとへばきみの肩にも乗りて

                     中城ふみ子

  春蝉の死への合唱 少年のやはらかき咽喉わが肩に触れ

                      塚本邦雄

*上句がいかにも塚本らしい。

f:id:amanokakeru:20210911063737j:plain

振分髪