天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集・令和四年「雲海」

        折に触れて 七首

  認知症に効くとありせば月ぎめで購入したりセサミン錠剤 

  「折れ枝に通行注意」の赤きコーンもみぢ深まる山の辺の道 

  いつも見る「ワタシが日本に住む理由」教へてもらふこの国の良さ

  MLBのテレビ中継見終はりて次にチャネルを国会中継  

  プロ野球解説者の数多けれどわが評価する藤川球児  

  それぞれの輝きのこし引退す松坂大輔斎藤佑樹 

  雲海のかなたに光あらはれて突如かがやくご来光なり

 

        ホモ・サピエンス 七首

  土曜日の朝吹き鳴らすトロンボーン「上をむういてあーるこををを」 

  弟の葬式さへも欠席す外出自粛による立ちくらみ 

  人よりも自然をこのむ性にして浮き世憂き世とわれは生きたり 

  生物の頂点にある智慧・文化死を逃れ得ぬホモ・サピエンス 

  それぞれが求むる利益対立し殺し合ふなりホモ・サピエンス 

  動物の分布境界ありとせり津軽海峡をブラキストンは 

 

         折々に 七首

  三兄弟に死は若きより始まりぬ三男、次男いづれわが身に 

  弟の葬式に出ず家にこもる外出自粛に立ち眩みして 

  冷蔵庫、エヤコンなどを買ひ替へて残り少なきわが生を思ふ 

  落葉して眠りにつける街路樹の梢にかすかつぼみ息づく 

  これからのなりたきものにユーチウバ Z世代の一位の希望 

  さまざまの過去の出来事思ひ出し命終までの道を暗くす

  正月の寺社参拝もはばかられ家にひたすらテレビ見る日々 

 

         年末年始 七首

  子や孫の家族つどひて食事するわが晩年の年末なりき   

  介護付き老人ホームに入ることがわれら夫婦の理想と話す 

  長男が教授になったと話すときわれら夫婦の夢かなひたり 

  新春の青空高く正面に富士が見てゐる箱根駅伝 

  富士山も身を乗り出だし応援す朝日まぶしき箱根駅伝 

  マスクして観客ならび拍手せり走者かけくる遊行寺の坂 

  次走者にたすき渡して倒れこむタオルケットの待つ中継所  

 

         クワッド・アクセル 五首

  三度目の金メダルより執着は前人未踏のクワッド・アクセル 

  滑り終へ四方に礼して引き下がり羽生はひとり採点を待つ 

  羽生にもなしがたければチェンは言ふ「クワッド・アクセルは神の領域」

  正式にクワッド・アクセル認めらる羽生結弦の失敗を機に 

  花火にて羽生の顔が描かれたりオリンピックの北京の夜空 

 

  朝日背に目に紅葉せる雪だるま晴天なるを悲しむごとし 

  雪薄く凍りてのこるわき道を滑らぬやうに夫婦あゆめり  

  職辞して齢とるほどに遠ざかるわが好物のしめ鯖うな丼

 

         ワクチン 七首

  プーチンを生死を問はず捕らへよと賞金つきのメール出でたり

  原発を攻撃するはプーチンの核戦術の予告なるべし 

  長男の教授昇進たしかむるインターネットの浜松医大  

  漱石の胃病痔疾の苦しみを想ひて耐ふるわが闘病期 

  デジカメに撮りてプリント壁に貼る改訂されしバス時刻表 

  予約せしワクチン接種に行くために繰り返し見るバス時刻表 

  ワクチンの三回目接種を待つ妻を見守る吾は居眠りのなか 

 

         日常 七首

  マスクして花粉予防のめがねせり鏡の中のひ弱なる顔

  プーチンを排除すべしといふ意見タブーとなせるロシア国民 

  医薬品、水、食べものも無くなりて死を待つばかりマリウポリは 

  車いすの老婆をさがす音声が通勤時間の町にひびかふ

  つぼみなすソメイヨシノを横にしておかめ桜は下むきに咲く 

  デジカメに撮りてプリント壁に貼る改訂されしバス時刻表  

  テレ東の「YOUは何しに日本へ?」欠かさずに見て元気をもらふ

 

         運動不足 七首

  プーチンの演説無難に聞えたり五月九日の戦勝記念日 

  MLB、プロ野球など寝ころびてテレビ見る日々つづくこの時期 

  歴史的活躍なれば新しき「OHTANIC」とふ言葉生れたり 

  寝てすごす運動不足が目まひよぶテレビみる日々野球の季節 

  コロナ禍の外出自粛もかさなりて運動不足はあきらかなりき 

  プーチンの癌の手術を政権の交代時期と願ふばかりぞ 

  富士をみる三崎の海に釣り上げしアブラボウズを刺身にしたり 

 

         気になる 七首

  テレビつけ先ずは気になるウクライナ NATO諸国の武器を待ちゐる 

  アマリリス咲き初めたればその鉢をテレビのそばに置きたり妻は 

  玄関と居間に置かれしアマリリス花落ちたればベランダに出す 

  ベランダの隅にもどされ来年の花時を待つわがアマリリス 

  通院は内科に皮膚科、泌尿器科 薬漬けなる日々をすごせり 

  排尿をうながす薬のみ始め発疹、かゆみの出でて目まひす 

  晴れの日のあれば足腰きたへむと俣野別邸庭園にゆく 

 

         命あるもの 七首

  一試合二回の三点ホームラン延長の末ゲーム落せり 

  十六号ホームランの翌日はフォアボール2個と外野フライ2個 

  それぞれの色みせて咲く紫陽花のまばらにあれば寂しかりけり 

  首筋になにか落ちたり振り払ひ見れば地面に太き青虫  

  四方からつつかひ棒に支へられ風をたのしむクスの大木  

  決められた直進距離の範囲内庭を行き来す芝刈ロボット 

  海に満ち川に流れて命あるものをはぐむ水(みづ)と呼ぶもの  

 

         白内障手術 七首

  この頃の目まひの因(もと)を調べむと医者をたづねつ耳鼻科と眼科

  目の検査耳の検査も異常なし足もと見れば目まひはつづく 

  左目の白内障を手術して三年たてど支障なかりき 

  自動車の運転に危険あるべしと妻は両目の手術決意す

  白内障術前術後の通院の妻につきそふ猛暑の日々を 

  手術後の一週間のたべ物はわが担当と買ひだしに行く 

  白内障術後十日もたちたれば妻の自動車運転ゆるす 

 

         折に触れて 七首

  大リーグ野球の放映待ちて見る手練れの弾ける「街角ピアノ」 

  膝に抱く子も鍵盤をたたきけり母の弾きける「街角ピアノ」 

  入れ替はり立ちかはりくる奏者なれ楽譜を見ざる「街角ピアノ」 

  遠まきに見る聴衆に会釈して席を去りゆくピアノの奏者  

  はうれん草モロヘイヤなど足らざれば買ひたしに行く地下のスーパー

  遅々としてすすまぬ台風十一号暴風域はひろがるばかり 

  台風の位置確かめて買ひものに行くか否かを思案する日々

 

雲海

わが句集・令和三年「初茜」

       宇宙にも初めと終り初茜

       狗尾草(ゑのころ)や廃車のめぐりとり囲む 

       道の辺に思ひ出したり杜鵑草

       けさカーテンに霜降の日差しかな

       秋風の別れの声か楠の空

       冬到来大樹の梢震はせて 

        コロナ禍にまたも遠のく花見かな

        家々の輝く丘や年あらた 

       撫で牛を撫でてはならず初詣

       大寒の夜空飛びくる火球かな

       歩道橋春の嵐に帽子飛ぶ

       それぞれの犬つれつどふ桜かな

       馴染めざる建国記念日富士白し 

       飼ひ犬のしつけ手こずる春の芝 

       家うちも夫婦でマスク花粉症  

       別邸のむかしをしのぶ蕗の薹 

       空をくる黄砂おそろし雪の富士  

       虫出しや居間に腰うく老夫婦 

       うぐひすや花海棠も遅れまじ 

       うぐひすにそそのかされて口説きけり

       大木の老いを忘るる若葉かな

       春雨や痔疾押さへてバスを待つ 

       窓たたく春の夜風や眠られず 

       泌尿器科いのちの春をなつかしむ

       月蝕は赤黒かりき望の月

       コロナ禍の街に食ひたりうなぎ飯 

       春泥にからだを洗ふ雀かな 

       居眠りて弱冷房車乗り過ごす 

       それぞれの犬つれつどふ桜かな

       思ひ出に苦しめらるる酷暑かな 

       あらためて外出自粛の猛暑かな 

       ななそぢの道につまづく猛暑かな 

       故里の出水気遣ふテレビかな 

       洪水の跡炎天に立ち尽くす  

       今ははや過疎の故里雪の中

 

狗尾草

わが句集・令和二年「日脚」

       即位式経てあらたまの令和かな

       乗り込めるバスの座席に日脚伸ぶ

       枯葉ちる手づくりパンの店先に 

       こも巻きの松を見下ろす天守閣 

       ふたつ垂れひとつ落ちたり烏瓜

       収穫をことほがごと藁ぼつち

       清水や花さく友禅着てあるく

       掘り出だす蓮根積みて壁なせり

       風寒しベビーバギーに犬のせて

       見慣れたる松もあたらし初詣     

       松過ぎてカテーテルとるうれしさよ  

       あらたまの木漏れ陽に聞くリスのこゑ 

       玄関をあけて驚く春の富士 

       この庭に育ちて咲ける桜かな 

       切り出せる石の白さや春日さす 

       ウィルスにつづきて来たる黄砂かな 

       池の面にしだるる花へ鯉の口  

       カーテンの隙間に見たる雪の嵩 

       手作りのマスクして行く花見かな   

       感染を忘れて仰ぐ桜かな 

       人避けて清明の朝散歩せり

       凧ひとつ自粛の空に鳴る 

       人類の足跡のこる望の月

       二十年ともに暮らせるアマリリス

       ザリガニの鋏が真っ赤梅雨の沼

       卯の花や新型コロナ恐れつつ 

       万歩計歩数気にする梅雨の道     

       梅雨出水生存罪悪感の村   

       雨やみて胸はだけたる大暑かな  

       甲虫少年の手に足掻くのみ    

       包装紙はみ出て垂るる葡萄かな  

       雪積める妻の故郷を思ひやる

       忘れしが名札のありて花海棠 

 

花海棠

わが句集・令和元年「からす瓜」

       はるかなる夕陽手前のからす瓜

       ひさかきのはるか上なる銀杏かな

       蜘蛛の囲の主人おどろく落葉かな

       ささがにのねむりをさます落葉かな 

       あらたまの元号待つやあきつ島

       自転車をおほかた隠す花八つ手

       鉄砲宿さくら並木の東海道

       窓外に干し柿を見る湯宿かな

       銭洗ふ妻を見てをり初詣

       梅まつり梯子にあるく小猿かな         

       たらの芽をてんぷらにしてラム酒かな      

       春きたる大島航路の白き船           

       老人と老犬がくる夕桜     

       新元号「令和」ことほぐ花見酒  

       流れくる雲にさそはれ桜散る 

       唐土仲麻呂しのぶ望の月

       窓に入る日差しに咲けりアマリリス 

       紫陽花のなだるる先に由比ヶ浜

       何事か帽子に蝉のぶつかり来 

       墓じまひ決断迫る蝉のこゑ 

       墓じまひよりはこのまま雪の墓地

 

からす瓜

わが句集・平成三十年「円位堂」

       こゑ遠きつくつく法師円位堂

       大山を望みてはるか稲架の朝

       銀杏を炒る音高し鶴ケ丘 

       抹茶待つ小春日和の開基廟

       木の間より枯葉ちりくるつづら折り

       息切れて座る山路のもみぢかな

       笹鳴きの声より近き姿かな

       いただきて夫婦涙す年賀状

       息切れて座る山路のもみぢかな 

       水槽にエヒの笑顔や大晦日 

       駅伝や富士の冠雪まだらなる 

       復興を待てず見に行く桜かな

       力石見つけてうれし雪催

       けさ晴れて道に掻き出す塀の雪

       梅園を笑はせてをり猿回し 

       きさらぎの朝日まぶしむ熱海の湯 

       通院も三寒四温となりにけり 

       わが妻の白髪かなしむ桜かな

       見上げたる花のむかふに天守閣 

       太陽の笑みをもらひて福寿草

       凧ふたつ少年野球を見おろせる

       波の間に和賀江島跡月の影

       近況のメモ添へてある新茶かな

       見るほどに蕾ふくらむアマリリス        

       いただきし新茶に今日を始めんと 

       バスを待つ人影いくつ木下闇

       梅雨明けの前触れなるかつむじ風 

       バス待つや右手にメロンぶら下げて 

       青天の西につらなる雲の峰

       うな重を鰻供養と言ひて食ぶ 

       うな重をうなぎ供養と言ひて食べ

       墓地のみが残るふるさと雪が降る

       浜茄子の実や太陽の子を宿す 

       原爆忌いまだ原爆手放せず 

       一週間ごとに取り替へ夏帽子 

       台風も火星も大接近の空  

       あらたまの朝の鏡をまぶしめり

       老いたれば顔が気になる曼殊沙華 

       柿熟るる木の下蔭に駐車せり 

       地に垂れてとる人もなき熟柿かな 

 

マリリス

わが句集・平成二十九年「古希の春」

       あらためて過去振り返る古希の春

       カーテンに猫がとびつく秋の風

       墓ならべ藤村夫妻蝉しぐれ

       頭に触れて風鈴鳴りぬ鴫立庵

       米ぶくろ抱へて急ぐ秋の雨

       観賞にたへて糸瓜の垂れさがる

       鳩来り積める落葉を掻きちらす

       大輪の黄なるダリアに満ち足りぬ

       他愛無き言葉に笑ふ七五三 

       小春日や大黒天を撫でまはす

       街路樹の落葉みつめて人を待つ 

       裏山に土牢二つ笹子鳴く

       年とりて花のいのちをうらやめり

       差し交す紅葉の木立化粧坂  

       銭洗ふ師走の水や弁財天  

       冬枯れのけやきの根方鋏塚      

       大寒や熱きご飯に生たまご      

       寒風に顔さらしたる朝湯かな     

       立春の日射しにねむる電車かな 

       不用なる火の見櫓か春の富士  

       砲撃のとほくとどろく曽我の梅 

       津波来し海を見下ろす桜かな

       出稼ぎの思ひ出語る花見かな

       大八洲桜見てみな浮かれだす

       越して来し日を思ひ出す辛夷かな 

       夕食に花見弁当老夫婦   

       恐竜の絶滅おもふ月の痣

       皮衣着て筍のたくましき 

       紫陽花やつるべに活けて井戸の端 

       孤高なる松の枝ぶり梅雨の空 

       紫陽花や鎌倉十井つるべの井 

       髪洗ふごとし柳に雨やまず 

       七夕ややすらかな死もねがひけり 

       寝ころんで野球見てゐる夏座敷 

       バスを待つ炎暑のベンチ背を伸ばし 

       冠雪の富士あからひく朝日光

       森ふかく山百合人を恋ふごとし

       洪水の引きて花火や大曲

       寄り添へば花火が照らす涙かな 

       み仏の胎内に入る長谷の春

       秋彼岸龍が水吐く手水鉢  

 

糸瓜

わが句集・平成二十八年「延寿の鐘」

       秋風に延寿の鐘を撞きにけり

       豊作や竹ロケットを打つ秩父

       子供らが案山子を笑ふ畦の道  

       息切れて琵琶の阿弥陀寺もみぢ狩 

       見つむればふくら雀が首かしぐ 

       菜の花や路傍に夢のあるごとく 

       江ノ電や七里ケ浜に風光る

       鎌倉や春日をこばむ牢格子

       犬猫の慰霊碑かこみ梅真白   

       うららかや束子供養の小天神  

       春雪のかがやく富士を目の当たり 

       かたくりの花にはらばふ山路かな     

       ひき当てし大吉むすぶ柳かな        

       葉桜のおほひかむさる東司かな     

       倒壊の家屋にまどふ里燕

       なつかしきこゑ空にあり初燕  

       落ちてなほかたちとどむる桐の花  

       伊勢志摩の真珠をおもふ今日の月

       溜池の水を田に引く蛙かな          

       鳩の屍や大暑の風に羽根散らし 

       炎帝が見下ろすふたつ力石 

       舞殿に横笛涼し八幡宮 

       夕立をあやぶむぼんぼり祭かな

       木洩れ陽は夕陽となりぬ夏木立 

       水ひけば川岸の草刈りはじむ 

       孫たちにスマホで送る雪景色

       歳晩の波音を聞く円位堂

 

桐の花