天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

わが句集・平成十七年「アライグマ」

ぎんなんを残らず拾ふ神明宮 山門に帽子忘れてしぐれけり 赤々と熟柿くづるる谷戸の雨 秋の日の大名行列うらがなし 石塊に魂一字菊香る 草むらに飛び込むつぶて笹子かな 臨済宗大本山のもみぢかな 撫で牛の石まろまろと落葉かな 椎茸のほだ木あたらし赤まん…

わが句集・平成十六年「雪螢」

大仏の背に開く窓や雪螢 落葉踏みめぐる前方後円墳 ラジオ点け鋏鳴らせり蜜柑山 里山にこぼれむばかり小鳥来る 雲が来る木の天辺の木守柿 大皿に木の葉がたまる蚤の市 宝物の風入れの日や笹子鳴く 名のみなる蛭ヶ小島や稲の波 修善寺は死への入口杜鵙草 山霧…

わが句集・平成十五年「古城趾」

古城趾に百舌鳥の高啼く岬かな ひよどりの群るる歓喜の一樹かな 晩秋の谷戸勤行の太鼓かな 秋の鳶観艦式をうべなへり 鯔飛ぶや潜水艦の黒き背 早ばやとボジョレーヌーボー届きけり 年の瀬や護摩焚く僧に炎立つ 項垂れて流鏑馬戻る秋の雨 関跡や従二位の杉に…

わが句集・平成十四年「からくり時計」

途切れたる鉄路の先の枯野かな 秋雨やからくり時計待てば鳴る 猿島に砲台ありき石蕗の花 秋風の鼻黒稲荷大明神 妹の髪にコスモス姉が挿し キュキュキュキュと白菜笑ふ小川かな 人形に別れ告げたり暮の秋 蟋蟀がぢつと見てゐるデスマスク 朝寒や母の手の甲頬…

わが句集・平成十三年「静粛に」

小賀玉の一樹が下の七五三 うつむくも秋思許さぬぬかる道 百舌鳥猛る小学校の昼餉時 なつかしき色積まれけり落葉掻 江ノ電や花火の海へ切符買ふ 綿虫やまた遠ざかる夢ひとつ 湯豆腐と聞きて禁酒の心失せ 湖に黒き山影浮寝鳥 賑はしや社の屋根に木の実降る 静…

わが句集・平成十二年「高射砲」

高射砲据ゑしとふ山笹子鳴く 隧道の暗き口開く山紅葉 木枯の北京の夜の白酒かな 笹鳴や神雷戦士碑の静寂 初鴨の足裏清しき水沫かな 校庭に白線引けり秋の暮 背丈越す芒のはざま星ひとつ コスモスの揺るるに暗さ見えにけり 藤袴合掌造を開け放ち 花すすき雲動…

わが句集・平成十一年「沢桔梗」

水音の高き湿原沢桔梗 くれなゐはネパール産や蕎麦の花 それぞれの羅漢にとまる赤とんぼ 龍胆に今宵ワインと決めにけり 色変へぬ松高々と鴫立庵 掛軸の達磨が睨む梅擬 菊日和大名行列動き出す 投げ交はす毛槍箱根の菊日和 しぐるるや神籤結べるねがひ垣 レグ…

わが句集・平成十年「猟解禁」

空を嗅ぐ犬を放てり猟解禁 酒蔵の塀のまぶしき小春かな 波音や島の屋台の温め酒 藤の実や子育話つきぬらし 柿囓る音に驚くベンチかな 風を嗅ぐ白き子犬や庭の秋 冬来ぬとぬるでかへるでささめくも 黙深き樫あらかしの小春かな 断崖のウミウ動かず冬日差し 確…

わが句集・平成九年「ゴンドラ」

退院の日を問うてをり木の葉髪 星月夜天狗松から話し声 ばつた見る犬の尻尾のピンと立ち ポリバケツこぼれて跳ぬる鰯かな 黒たまご大湧谷に霧深し ひややかや国宝庫裡に黒き釜 瀬音澄む足柄古道秋薊 初雁やビル屋上の露天風呂 ベイブリッジ閃光放つ時雨かな …

わが句集・平成八年「プラタナス」

客待ちのタクシー涼むプラタナス 鵠沼の五月の黒き浚渫船 蚊に刺され鴫立庵の投句箱 声かけて案山子と識りぬ山の畑 酒提げてしばし佇む花野かな 腹這ひて初波乗りの沖に出づ 子を膝にのせて電車の花野行 帽子とり秋立つ風を招きけり 伝へてよ津軽の里の虫送…

わが句集・平成七年「機関車」

公園の黒き機関車冬ざるる 水涸れや小便小僧のやるせなく 反射炉は江戸の昔よ稲雀 隕石や出雲の冬をつきぬけて 鶏頭の燃えたつ里に下山せり 腕組みて秋の夕陽の男かな 野仏や首にかけたる烏瓜 枯葉散る修道院の塀高き 狛犬の頬かむりしてむき合へり 林立の帆…

わが句集・平成六年「化野」

濁流の吊橋渡る日傘かな 鮎掛けてたもに引抜く早瀬かな 彼岸花枯れて現はる鬼女の相 赤牛の人恋ふる秋草千里 コスモスや自閉の心を野に放て 月の道己が影追ふ少女かな 荒波やおでん屋台を囲みをり 青鷺の抜き足差し足潮溜り ふくろふの目つむりて聞く木々の…

わが句集・平成五年「原生林」

寒雲の燃えてなにやら力湧く 銃一声野兎かけのぼる斜面かな 自転車の白菜一つ揺られゆく 入院の日を知らせくる冬の空 青海苔を刈る浦波の朝日影 凍てつくを青アセチレン鉄を断つ 蓮枯れて鴨の航跡あらたなる 付き添へば点滴の音夜半の冬 黒猫や合掌造りの春…

わが句集・平成四年「獅子頭」

牡丹園傘さしたるが獅子頭 碧き目の流鏑馬の射手疾駆せり 水位計赤く点滅梅雨の川 夏の木の命の音よ聴診器 週末の畑仕事の西瓜冷ゆ 舎利殿は座禅道場蝉時雨 初物の梨むく皮の長からず 骨董の競りの声飛び蓮の実飛ぶ 指さすを見れば瓢箪青きかな 虫すだく夜道…

「わが句集」について

新聞や雑誌の俳句欄、結社紙、NHK俳壇、俳句大会などに掲載されたわが作品を、投句を始めた平成四年から最近の令和二年まで一部未発表分を含めて(全3,031句)、年ごとにご紹介しておきたい。なお作者名については、長く本名(秋田興一郎)を使用していた…

歌集『運河のひかり』

時本和子さん(「短歌人」同人)の第二歌集が、10月26日付で砂小屋書房から発行された(定価3000円)。 全413首。ゆたかな情景描写に惹かれる歌集。家族、旅行、日常 の様々が懐かしく描かれていて、時本さんの素晴らしい人生がうかがわれる。 技…

わが歌集・令和三年「封じ手」

競売に高値つきたり最年少藤井聡太の封じ手のメモ ゴミ捨て 七首 熟睡(うまい)せる犬を離れて隠れたり目覚めし時のうごきを見むと 目覚むれば主をらざり見まはして隠れし彼をみつけ寄りゆく 断捨離を前にためらふととのへし入選句歌のあまたのファイル あま…

わが歌集・令和二年「予兆」

颱風の合間 七首 テーブルに懐中電灯ひとつ置き颱風くるをおびえて待てり バス停のベンチに鳥の糞あればよけて座りぬすずめ啼くとき なまぬるきバスの車内に見はるかす空に予兆の颱風の雲 ランチタイムはライス無料の焼き肉店パート募集ののぼりはためく 灰…

わが歌集・令和元年「同窓会」

ショータイム(二) 七首 大谷は復帰後すぐにDH六番にして球場湧かす 復帰後の二戦目に打つ初ヒット明日は大谷二十四歳 一か月ぶりのヒットによろこびの声あがりたり国のあちこち 復帰後のアメリカ独立記念日を祝福したりヒット、二塁打 大谷が苦手な左投手…

わが歌集・平成三十年「春愁」

イチローを追ふ(十一) 七首 外国人選手トップの安打数MLBの歴史にのこる 先発し六打席あり二安打しアウト一つにフォアボール三つ フィリーズ戦代打に立ちてスリーラン百三十二メートル飛ぶ 名投手ストラスバーグの直球に三球三振うつ向きもどる 先発し…

わが歌集・平成二十九年「振り子打法」

イチローを追ふ(二) 七首 その年のドラフト一位は田口壮イチローは四位高卒にして 生意気と振り子打法の嫌はれて二軍降格一再ならず イチローの癖を矯正せむとせし土井正三と山内一弘 打ち方の指導拒否して達成す最多安打と最高打率 イチローの真価見出し…

わが歌集・平成二十八年「スーパームーン」

備忘録 八首 電柱にしがみつきたる人のあり助けもとむる洪水の町 母と娘(こ)と共に参加のボランティア洪水あとの家をたづねて 道の辺に玉ねぎひとつころがりて人待ち顔につややかなりき ベランダにカメラかまへて息ころしスーパームーンのかがやきを撮る マ…

わが歌集・平成二十七年「多摩川」

多摩川紀行(一) 八首 多摩川の河口左岸にせり出せり五十間鼻無縁仏堂 おごそかに稲荷大神現れて「稲荷山」とふ舞を舞ふなり 秋風の穴守稲荷例大祭テントを張りて地のものを売る さまざまのペットボトルの散らばれる岸辺かなしき秋の多摩川 亀甲山(かめのこ…

わが歌集・平成二十六年「超新星爆発」

定家卿を訪ふ(五) 八首 尋ね来し水無瀬宮址に碑を探すむぐら茂れる線路の脇に 後鳥羽院、定家ら歌人の集ひける水無瀬の里は電車が通る 正二位にのぼりつめたる喜びを「希代ノ珍事」と明月記にあり 為家の嫁の実家を頼りては国司になるを相談したり 大金を…

わが歌集・平成二十五年「霧笛橋」

島崎藤村展 八首 霧笛橋渡りて近代文学館藤村展を見むとわが来し 五七調はた七五調読むほどに心地よくなる藤村の詩(うた) 三越で渡欧の前に誂(あつら)へし小型トランクまだ使へさう 藤村の頭の臭ひ残しゐむふたつ展示のカンカン帽は 口少し開きて顎鬚まばら…

わが歌集・平成二十四年「宇宙と素粒子」

宇宙と素粒子 八首 人類の叡知美(は)しくも怖ろしきE = mC2 豚が走り牛がさまよふフクシマの原発避難地区を映せり 理論とはシナリオのこと現実の観測結果と辻褄の合ふ 原始、力は一種であったその後の宇宙膨張につれて分岐す 相対性理論も古典力学もつひに為…

わが歌集・平成二十三年「イチロー」

イチローは二百安打へあと七本テレビ見ていた糸瓜忌の昼 数の世界(二) 八首 数学を飛躍せしめし古き代のインドの工夫 0(ゼロ)、記数法 0(ゼロ)につき加算減算乗算の性質述べしブラーマグプタ 整数の除算のできる新しき数を定義す 分数といふ ピタゴラス…