天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

絶筆三句―蕪村と子規―

偶然にもと言うべきか、さもありなんと言うべきか、蕪村と子規の辞世三句が作られた情況は、実によく似ている。 蕪村の臨終に際して、辞世の三句は弟子の几薫が看取った。子規の絶筆三句は弟子の碧梧東と妹・律が支えて書かれた。両者を見比べて見よう。 蕪…

翡翠

翡翠(ひすい)はもともと玉のことだが、鳥のカワセミがこの玉の色を持つので、ヒスイとも呼ぶ。雄を「翡」、雌を「翠」という。そして翡翠をカワセミとも読む。川蝉とも書く。カワセミ科の鳥で、ユーラシア大陸中南部等で繁殖。日本全国の川、池、湖等の水辺…

十月折々(2)

大磯の高麗山(こまやま)にのぼるべく高来(たかく)神社の境内に入ったら、今迄気づかなかった大磯八景の一つ「高来寺の晩鐘」の歌碑を見つけた。次の歌が書かれている。 さらぬたに物思はるゝ夕間暮きくそ悲しき山の手の鐘 高麗山の山頂までを男坂を辿ったら…

源五郎

ゲンゴロウ科の甲虫。日本全土、朝鮮、中国、台湾に分布。ゲンゴロウ科は全世界に数千種、日本には100種ほどが棲息する。肉食性で小魚や昆虫、ミミズなどを食べる。ただ絶滅危惧種にあげられている。実際、最近ではたんぼでも沼地でもほとんど見かけなく…

子規の墓

四国愛媛出身の正岡家の墓所は、子規が葬られた東京田端の大龍寺にある。子規居士之墓を中に、向かって右手に正岡八重墓、左手に正岡氏累世墓と三基にまとめられている。こうして見ると正岡一族の墓所は子規を中心に据えて故郷からはるかに離れた東京田端に…

桔梗

キキョウ科の多年草で、日本全土、東アジアの山野に生える。花冠は青紫色から淡紫色だが、白花や二重咲きなどの園芸種も多い。「きちこう」とも読む。秋の七草の一つ。 山中に一夜の宿り白桔梗 野澤節子 桔梗よりなほ桔梗の花らしく 長谷川櫂 長谷川櫂の句は…

朝顔

ヒルガオ科の一年草。蔓は左巻。色も品種も多様である。熱帯アジアが原産らしい。日本には平安時代に中国からもたらされた。従って、万葉集に五首出て来る朝顔は、槿(むくげ)とか桔梗だという説がある。 朝顔の思い出となれば、誰しもが小学校低学年の夏休み…

ヨメナ

キク科の多年草。野菊に類するもので、よく似た姿のキク類は他にもあり、まとめてヨメナと呼ぶ。ヨメハギ、ヨメガハギ、ウハギ、オハギ、ノギク などとも。万葉集には「うはぎ」として二首に詠まれている。いずれも春の若菜摘みである。夏から秋にかけて薄紫…

野球を詠う

MLBのポストシーズン争いが面白かった。例えば、レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンでの試合。テキサス7点タンパベイ3点で、テキサスのリリーフとして登板した上原浩治投手が、3ランを浴びてアッという間に7対6になった場面など、まこ…

稲架(はざ)

刈り取った稲を掛けて干すもの。丸太や竹を組み上げたり、立木に横木を渡したものなどがある。はさ、稲掛、稲木 などとも。 稲架かけて対馬に神の山いくつ 大谷弘至 山深きわづかな空に稲架掛けて 大谷弘至 あきつとぶ門田のくろの稲掛のかなたに青き小筑波…

イナゴ

稲子はバッタ科イナゴ属の昆虫の総称。日本ではハネナガイナゴ、コバネイナゴ、エゾイナゴの3種が代表的。注意すべきは、大群で移動するのはイナゴでなくトノサマバッタ類で、漢字の蝗を当てる。それは文字に「皇帝」の「皇」を含んでいることから理解でき…

十月折々(1)

二宮町の吾妻山で鍾馗(しょうき)水仙の群落に出会った。いままで全く気づかなかった。朱の彼岸花がすっかり枯れ果てた後に、黄色の彼岸花が咲きだしたと思ったら、さにあらず。鍾馗水仙というヒガンバナ科の別種の花であった。 路の辺に容姿うつろふ曼珠沙…

サボテン

メキシコを中心に南北アメリカ大陸に分布。わが国には寛永年間にオランダ船が長崎にもってきた。漢字では、仙人掌、覇王樹など。俳句では夏の季語。 サボテンの花ながめつつ鱶料理 大島民郎 切支丹戦趾や覇王樹花ひらく 山本古瓢 覇王樹のくれなゐの花海のべ…

短歌人10月東京歌会

十月の会場は、池袋にある生活産業プラザであった。今回は私にとって珍しい偶然が起きた。詠草は無記名でプリントされ、参加者が順番に詠草を読んで批評してゆき、歌会の最後に各詠草の作者が発表される。偶然とは、小池光さんの歌を私が批評し、私の歌を小…

芙蓉(ふよう)

アオイ科の落葉低木。キハチス、モクフヨウなどとも。八重の白花で午後桃色に変わる種類を酔芙蓉(すいふよう)と呼ぶ。中国では芙蓉と書けばハスの花の別称になり、美人のたとえになる。白居易は「長恨歌」で、楊貴妃の面貌を芙蓉に譬えたが、それは蓮の花…

リンドウ

リンドウ科の多年草。本州から九州にかけて乾燥気味の草原に生える。根茎や根は苦味健胃剤にされる。語源は漢語の「竜胆」からきており、漢字でもこれを当てる。蔓竜胆、御山竜胆、朝熊竜胆、深山竜胆などの種類がある。 朝市や竜胆ばかり抱へ売り 中西舗土 …

彼岸花

曼珠沙華、きつね花、死びと花、幽霊花、捨子花、天蓋花、カミソリバナ などの多様な呼び名があることはよく知られている。ヒガンバナ科の多年草で古く中国から渡来したという。リコリンなどのアルカロイドを含み有毒。昔は鱗茎を水でさらして有毒成分を除去…

精霊飛蝗

しょうりょうばった。キチキチバッタとも呼ぶ。直翅目バッタ科の昆虫。イネ科の雑草を食べる。日本全土、朝鮮、中国、台湾に分布。 誰のたましひ来て遊ぶのか秋の日の草葉に遊ぶ精霊ばつた 福田栄一 つむぎいるは愛惜の歌 暁闇の精霊バッタわれ越えて飛べ 大…

シオカラトンボ

腹の上側が灰紺障u色なところから塩辛という名がついたのだろう。ただこれは成熟した雄の印。雌と未熟な雄は、鮮黄色に黒い斑紋が散っているので麦藁蜻蛉と呼ばれる。日本全土のほか、極東ロシア、中国、韓国、台湾などに分布する。 税務署の横を流るるこの…

鬼灯

ホオズキは、ナス科ホオズキ属の多年草そしてその果実。カガチ(古名)、ヌカヅキとも言う。原産地は東南アジアというが、南欧やアメリカ大陸などにも自生している。花言葉は「偽り」。古事記では「赤酸漿(あかかがち)」と呼ばれ、赤い実が八岐大蛇の目に譬…

みそはぎ

漢字では、禊萩、鼠尾草、千曲菜などを当てる。仏花として栽培されるミソハギ科の多年草。聖霊花(しょうりょうはな)とも言う。日当りのよい湿地に生える。溝辺にはえるところから溝萩ともいう。 みそ萩や水につければ風の吹く 一茶 みそ萩の露にとどけり昼の…

百日紅

「ひゃくじつこう」あるいは「さるすべり」と読む。ミソハギ科の落葉高木。中国原産で古くわが国に渡来した。「さるなめり」とか「なめらき」と呼ばれた。花弁は6枚、円形で著しく縮れている。古典和歌にはほとんど詠まれていないようだ。次の夫木和歌抄(…

秋出水

台風による豪雨で河川、野川の水量が増加する現象で、堤防が決壊し宅地や田畑が浸水する被害が出る。台風十五号は、まともに本州を縦断して都会の通勤手段を奪った。 くちなはも流れ着くなり秋出水 中村苑子 物皆の動きを閉ぢし水の夜やいや寒々に秋の虫鳴く…

野分・台風(2)

台風は、英語typhoonの当て字だが、わが国では古くは野分と言った。現在は野分という言葉はあまり使われないが、雨を伴わない秋の暴風というイメージが強い。右の写真は、台風でなぎ倒されたグラジオラスの群。 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな 蕪村 米…

野分・台風(1)

相模線の宮山駅で下車し、台風十五号の過ぎた後の相模川を見に行った。護岸のコンクリート堤が水面下に隠れるほどの水量が静かに流れる様は不気味であった。その後、寒川神社に寄り台風の影響があったかどうか確かめた。境内に立つ無患子の大木から大量の実…

夕顔の実

ウリ科の一年草。アフリカから熱帯アジアが原産という。夏の夕方から朝にかけて白色の花をつける。果実には二種類あり、長い円筒形の若いものは生食にでき、扁平で大きなものは干瓢にする。過熟した果皮を容器にしたが、これも瓢箪(ひょうたん)と共に瓢(ひさ…

翁草(おきなぐさ)

キンポウゲ科の多年草。プロトアネモニン・ラナンクリンなどを含む有毒植物。漢方では根を乾燥させたものが白頭翁と呼ばれ、下痢・閉経などに用いられる。 しらけゆくかみには霜やおきな草ことのはもみな かれはてにけり 源 順 かみさびて山辺に見ゆる翁草い…

舟虫

等脚目フナムシ科の甲殻類。熱帯から温帯の海岸に広く分布する。雑食性で、藻類や生物の腐肉などを食べる。 船虫に忽然としてヨットかな 中村汀女 舟虫を走らす雨に海女の声 藤田湘子 日ざかりは巌を動かす海蛆(ふなむし)もぱつたりと 息をひそめけるかも 北…

案山子

かがし、かかし と読む。語源は「嗅がし」という説が有力らしい。魚の頭、焼いた獣肉など悪臭を放つものを立てて、農作物を鳥獣の害から防いだところからきたという。それにしても「案山子」という字を当てる理由にはならない。むしろ現在普通に見かけるよう…

九月折々(3)

秋の鎌倉や江ノ島を歩きまわった。百日紅、むくげ、彼岸花などが目立つ。海の青潮の色が美しい。今年は例年に比べて萩の花が少ないのではないか。鎌倉は萩の多い町だが、花が咲いている場所にあまり出会わない。海蔵寺、宝戒寺といった萩の名所も歩いてみた…