天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

わが歌枕―伊良湖崎

渥美半島突端の岬。伊良湖と鷹は関係が深く、古代から「鷹渡り」の中継地点として知られていた。芭蕉の「鷹一つ見付てうれし伊良湖崎」は有名で、公園に句碑がある。 うつせみの命を惜しみ波に濡れいらごの島の玉藻刈り食む 麻績王『万葉集』 汐さいにいらご…

わが歌枕―五十鈴川

伊勢神宮の内宮境内を流れている御手洗の川で御裳濯川(みもすそがわ)ともいう。「神」「千歳」「万代」などの語とともに詠まれた。悠久の清流を天皇の御代に譬えたりもした。 宮柱下つ岩根の五十鈴川よろづ代すまむ末ぞはるけき 藤原俊成『五社百首』 神風や…

わが歌枕―二見浦

ここでは三重県度会郡二見町の海岸をとり上げる。五十鈴川河口から夫婦岩の立つ立石崎までの海岸である。以下の歌で、「玉くしげ」は、「ふた、あく」などの枕詞になっている。 玉くしげ二見の浦に住む海人のわたらひぐさはみるめなりけり 凡河内躬恒『躬恒…

わが歌枕―伊勢

[まえがき]このシリーズでは狭義の歌枕をとり上げる。つまりいわゆる名所歌枕である。いずれも今までに私自身が訪れたところであり、過去のブログでは私の作品を中心にご紹介したが、このシリーズでは、その場所を歌枕としたもとの和歌を主体にご紹介した…

秋の植物園

今年は台風が連続したりして天候不順が長引いたせいで、秋の草花を見に出かける機会を逸してしまっている。それで曇り空ながら大船フラワーセンターに出かけた。この時期、温室にはみるべきほどの花は無かった。温室を出てから園内をぐるりと見て回ったのだ…

宇宙を詠む(5/5)

一首目は誰しもが抱く感懐であろう。珍しくない。永井陽子と栗木京子の宇宙は、不思議さ・謎を感じさせる言葉として使われている。それに比して佐藤通雅の歌は理解しがたい。幻想してみせたようだ。 わが佇てるこの一瞬も無に等し宇宙果てなき闇と広ごる 中…

宇宙を詠む(4/5)

一首目の「みにくきもの」とは人工衛星のことだろうか? 二首目の「宇宙の声」の正体が分らない。作者の幻聴か? 三首目は、テレビで見た宇宙から帰還した飛行士の情景であろう。「こころ安けくゐた」のは、飛行士のはずだが、作者のようにもとれる。 みにく…

宇宙を詠む(3/5)

一首目は、百合の花の空間を宇宙とみなしたまで。二首目はどのように鑑賞すればよいか? 下句は何を意味しているか? 裸になった患者のようでもあるが。近藤の歌では「ともし」が分りにくいが、「とも(接続助詞)・し(副助詞)」として、「たとえ佇つとし…

宇宙を詠む(2/5)

岩井謙一の歌は、広島と長崎に落されたふたつの原爆の閃光を詠んでいる。「水ヲ下サイ」から理解できる。この時から現在まで71年が経った。今ふたつの閃光は宇宙の中で71光年のかなたを進んでいる。 宇宙より己れを観よといにしへの釈迦キリストも あはれみ…

宇宙を詠む(1/5)

以下にとりあげた宮地伸一の歌はどれも、まともに天文学上の宇宙をとり上げている。物理学の対象として宇宙の時空間を考えると、未解決の疑問がたくさんあり、とりとめもない気分になってしまう。ホーキングのような理論物理学者は、宇宙は無(時空間がゼロ…

採茶庵跡

隅田川と小名木川が合流する地点に芭蕉が住んだという庵跡があり、その近くの芭蕉記念館には寄ったことがある。先日、「短歌人」の東京歌会が芭蕉記念館で開催されたついでに、今まで気付かなかった採茶庵跡を見て来た。(採茶庵跡の画像は、2016-09-08 雲の…

定家卿を訪ふ(7/7)

冷泉家は、藤原定家の孫にあたる冷泉為相(為家の子)から始まる。冷泉という家名は平安京の冷泉小路からきている。この孫の代に、御子左家から二条家、京極家、冷泉家の三家が分れた。このうち二条家、京極家は室町時代には断絶していた。冷泉家は上と下の…

定家卿を訪ふ(6/7)

定家が百人一首を選んだという小倉山荘「時雨亭」の跡には三カ所の候補地(厭離庵、二尊院、常寂光寺)がある。後世に小倉百人一首があまりに有名になったために、複数の伝説が現れたのであろう。三カ所を訪ねてみたが、二尊院や常寂光寺の場合、裏山の小高…

定家卿を訪ふ(5/7)

定家は、夜空に「客星」「奇星」が現れ、明るく染まった時、その都度不安に駆られて、陰陽師(安倍泰俊)に問い質した。そこで伝え聞いた話には、現在に知られる3種類の超新星爆発(かに星雲、SN1006、SN1181)があった。 かに星雲は牡牛座にある超新星爆発…

定家卿を訪ふ(4/7)

藤原定家は鎌倉幕府の源実朝と和歌を通じて懇意になることで、身代の安寧を図ろうとしていた。天皇・上皇側と幕府側の勢力バランスを見て行動していた。 実朝に万葉集を贈りては荘園安堵を要請したり 力ある武家の娘を為家の嫁にもらひて盤石を期す 「道のべ…

定家卿を訪ふ(3/7)

源実朝は和歌を定家に学んだ。定家からは「万葉集」を貰い、万葉調や古今調・新古今調の本歌取りを主とした和歌を作って定家に送って見てもらっていた。その成果が『金槐和歌集』(鎌倉右大臣家集とも)である。 『明月記』は、周知のように、藤原定家が治承…

定家卿を訪ふ(2/7)

40歳の時、定家は22歳の後鳥羽院に付き従って、初めて熊野詣をした。下級公家の定家の役割は、一行に先駆けて船や昼食、宿所を設営したり、歌会の講師を務めたりで忙しく、さんざんな目に遭ったようである。出世のためには、後鳥羽院の気ままな行動に勤勉に…

定家卿を訪ふ(1/7)

[まえがき]これから7回にわたるこのシリーズの短歌部分は、「短歌人」誌上に、平成25年7月号から平成26年6月号にかけて掲載されたものです。また風景写真は、私自身が現地で撮ってきたものです。 相国寺を建てたのは、室町幕府3代将軍の足利義満である。一…

白鳥の歌(9/9)

「白鳥」は、冬の季語。傍題には、スワン、鵠(くぐひ)、大白鳥、黒鳥 など。日本の地名に白鳥とつく場所はいくつかある。鈴木鷹夫の句にある「白鳥」は、上野から汽車でゆくところなので、東北地方にあるはず。候補地として、岩手県二戸市白鳥、栃木県小山市…

白鳥の歌(8/9)

青井史はカメラアングルで詠んだ。渡英子の情景は、まことに珍しい。どんな郵便受けなのか?青山兟の歌では、編隊を外れた一羽がいたのかどうか不明。作者の願望を詠んでいる。 みづうみを傾けていつせいに翔ちてゆく春の白鳥の はばたき重し 青井 史 阿武隈…

白鳥の歌(7/9)

水原紫苑の歌は、歌集『世阿弥の墓』にある。世阿弥の言葉「白鳥花を含む、これ幽玄の風姿か」を踏む。白鳥が蛇に近づくとは、水原紫苑のエロス感覚であろう。 水を出でおおきな黒き水掻きのぺったんぺったん白鳥がくる 渡辺松男 白鳥はふっくろと陽にふくら…

秋まつり

村祭、豊年祭、収穫祭 などともいう。秋の収穫に感謝する趣旨である。 豆腐屋が寄付を集めに秋祭 阿部みどり女 提灯を木深くさげぬ秋祭 冨田木歩 海沿の道に灯が点き秋まつり 大串 章 秋祭り町の太鼓のおもしろさおもしろきゆゑかなしからむか 橋田東声 旅に…

白鳥の歌(6/9)

山中智恵子の歌は、作者の狙いが透けて見えるようで、よろしくない。小島ゆかりは、白鳥の鳴き声を「ぼーむ」としているが、実態とかなり違う。録音した鳴き声を聞くと、か音やこ音が主体になっている。そこが詩的表現の工夫であろう。小島ゆかりはオノマト…

白鳥の歌(5/9)

稲葉京子の歌は、母親の感受性・母性を詠んでいて興味深い。大塚陽子の二首は、日本にくる白鳥を強く意識したもの。岩田 正の「白きとり」は、ハクチョウとは限らないだろう。 白鳥をうつくしからぬといふ吾子よわが裡の何を 罰するならむ 稲葉京子 力こめて…

旧東海道・鉄砲宿

わが住む横浜市東俣野町は、鎌倉市と藤沢市に隣接している。戸塚駅と藤沢駅を結ぶ神奈中のバス路線の東俣野町の区域に、影取と鉄砲宿という珍しい名前のバス停がある。鉄砲宿という名前は、昔、鉄砲鍛冶職人たちの村でもあったのだろうと、かってに想像して…

白鳥の歌(4/9)

道浦母都子の歌は初々しい相聞である。青井史はテレビのカメラアングルを感じさせる。岡井隆の歌は比喩なので、これだけでは分らない。小池光『鑑賞・現代短歌 岡井隆』には、「建国間もない中華人民共和国であり、アジア民衆のかがやかしい民族解放闘争」の…

白鳥の歌(3/9)

湖沼、浅瀬のある湾内で主に水草などを食べる。水面を脚と翼を使って長距離を助走して飛び立つ。編隊を組んで飛ぶ。餌付をされている所もある。新潟県の瓢湖では昭和29年に餌付けに成功した。毎年小白鳥を中心に多数の白鳥が飛来する。 福田栄一の二首はとも…

白鳥の歌(2/9)

以下では、いわゆるハクチョウを対象とする。これはカモ科ハクチョウ属の鳥の総称。8種類いる。日本にはオオハクチョウ、コハクチョウの2種が冬鳥として渡来する。オーストラリアには羽が黒いコクチョウもいる。 白鳥(はくてう)の鳴くこゑたえず聞こえゐる…

白鳥の歌(1/9)

白鳥をシラトリと読めば、古くは鷺の異名。また近代のハクチョウと読めば、古名の鵠(くぐい)を差す。 以下の万葉集歌では、「白鳥(しらとり)の」は「飛ぶ」や「鷺」を導く枕詞として使われている。つまり実景に白鳥が現れているわけではない。 白鳥の飛羽(と…

藤袴(続)

2008年11月14日、2011年11月14日 の補足である。 地下茎が伸びて猛烈な勢いで広がるため、自生地では密生した群落になる。ただ現在の日本には適した環境が少なくなったため、絶滅危惧種となっている。生乾きの茎葉にクマリンの香りがあり、中国では古く芳香…