樟の木
関東南部から九州にはえるクスノキ科の常緑高木。数百年を経て大木になる。葉は長楕円形で尖り革質で光沢がある。材は香気があり樟脳に利用される。楠とも書く。
和泉なるしのだの森の楠の木の千枝にわかれて物をこそ思へ
夫木抄・読み人知らず
いかが見ん七とせをへて楠木の千枝も色なき杜のしのだを
草根集・正徹
樟の木の落葉を踏みて下りゆく谷にもしげく胡蝶花(しやが)
の花さく 長塚 節
樟のかげ行きて帰りて運命のすこし変りしごとき夕なりき
清水房雄
わが肌に汗にじみつつ現身(うつしみ)やなにかみにくし散れる
樟の葉 佐藤佐太郎
巨(おほ)き闇つつめる樟は悲しみをふりほどかむと天にふるふも
松坂 ひろし
一葉一葉は影をたもちて一本の楠はまぎれざる円蓋をなす
玉井清弘
からみあう樟に日射しは割り込みてぼんやりとしたせつなさ
に似る 岸本由紀