天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

穴のうた(2/2)

蓮根の穴

 穴は比喩に使われることも多く、興味深い内容になる。以下のそれぞれの作品は比喩の多様性を示し、鑑賞するに歯ごたえがある。つまり言葉で歌の意味することを表現するのに汗をかく。


  荷車に練炭積みてゆくが見ゆ陽に練炭の穴みなわらふ
                     沢口芙美
  自らを苛むごとく屈まりて吸ひこまれゆくうつそみの穴
                     内藤 明
  工事場の穴の深みを覗きこむときの眼は眼(まなこ)らしくあり
                     今井恵子
  激怒後のわたし泥々の牛となり泥となりくらき穴ぼことなる
                    佐佐木幸綱
  穴掘りて土に言はばと極(きは)まりてなげきし日さへ
  早く忘るか              柴生田稔


  全身が穴でできてる穴男あした吊革に住みて揺れをり
                     高野公彦
  炎天に穴掘る吾にうろんげな視線の寄れば屍体など欲し
                    富小路禎子
  人気なき獄舎(ひとや)なりしよひとつづつのぞきゆくなり
  ハーモニカの穴           大橋智恵子