天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湖のうた(4)

宇曽利湖

  脱色されてゆく思慕もてばみづうみにしんしんと日があたるがかなし
                      生方たつゑ
  白よもぎいろの夕べの湖にさはやかに脆(もろ)き波がたち合ふ
                      生方たつゑ
  みづうみの氷がひびもちて裂くる音をりをりにして春のくる音
                      生方たつゑ
  漁火も消えて夜ふかきみづうみのみづから淡くひかるがごとし
                       中野照子
  まかげして雲とあやまつ砂(さ)嘴(し)とほく水かぎろひの立つ湖の涯(はて)
                       山本友一
  走井の餅ひとつ皿に食ひのこし雨のやまざる湖(うみ)の辺に出づ
                       大野誠
  みづうみのおもて見えくるこの道に馬の仏の眼(まなこ)光りつ
                       茅野信二


生方たつゑ一首目の「脱色されてゆく思慕」とは、かつての狂おしい恋情が次第に醒めてゆく、ということか。
山本友一の歌: 初句の「まかげして」とは、遠くを見るときや光線を遮るとき、手をひたいにかざすこと」である。
大野誠夫の歌: 「走井の餅」について。京の都と近江を分かつ逢坂山を越える大津追分には、清らかな水が湧き出す井戸があり、「走井(はしりい)」と呼ばれてきた。江戸時代に街道が発達すると茶店が建ち並び、明和元年(1764)に「走り井餅」が売り出され、東海道名物のひとつとなった。