天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

現代の定家(11)

 今回は塚本邦雄の犬の歌をあげる。漢字の使い方と効果に注目したい。塚本家ではノエルとか百合若とか名づけた犬を実際に飼っていたというから、全くの作り話ではない。

  番犬主水(もんど)ディステンパーに身罷りて白牡丹昨日今日眞盛り     
  愛犬ウリセス去勢の件を今夕(こんせき)は家族会議にかけむ
   黴雨寒(つゆざむ)   
  猟犬百合若姦通罪發覚 今上の上意によりて宮刑に處す      
  血統書附紀州犬牡進呈葵荘十二階四夷安代            
  焦眉の問題二つ、飼犬ワグネルの去勢と華鬘草(けまんさう)の
  株分け      
  遠目に見つつ薄気味悪し甘露寺家家令に生寫しのシェパード    
  飼犬ルカの戀はみのるか家具店のうらには枇杷の塾實瞬き     
  詩人たることはさておきボクサー犬カタログに選るひとときの夏  
  愛犬ウリセスの不始末を元日の新聞で始末してしまった      
  思ひもよらぬことの一つに隣家の犬ナポレオン懐胎したる     
  わが飼へる犬が卑しき耳垂れて眠りをり誰からも愛さるるな    
  かんふらんはるたいてんよ飼い犬の隠子軽皇子(かるのみこ)と
  名づけて