天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

能「石橋」

寒川神社

 相模之国一ノ宮の寒川神社が何時創建されたか詳らかでない。『續日本後紀』に、仁明天皇承和十三年(846)に神階従五位下を授けられたとの記述があるらしい。ご祭神は、寒川比古命(さむかわひこのみこと)と寒川比女命(さむかわひめのみこと)の二神である。なんともお手軽な名前ではないか。
 鳥居近くの池のほとりに、相模薪能「石橋」の像がある。ちなみに、石橋は文殊菩薩の浄土にかかる石の橋で、それを渡ろうとする寂照法師に仙童が橋のいわれを語る。石橋の幅はわずかだが、長さは1丈、谷底までは数千丈という。深山幽谷の景色の中、菩薩の霊獣獅子が現れて牡丹の間を舞い狂う。


      五線譜に音符置きゐる師走かな
      かんかんと踏切が鳴る師走かな
  ちりかかる赤き椿を背に受くる相模薪能「石橋」の獅子
  まくなぎの柱の下に跳ね上がる緋鯉の腹のなまめかしけれ
  年暮れて光さみしき境内に願掛け絵馬と厄落し絵馬
  ケイタイの電源切りてそれぞれに白衣まとふ客殿の中
  青松はゆるがざりけり年の瀬の風にざはめく大楠のむれ
  ちよろづの青松の木にかしづかれ幾年ふりぬ御製の石碑
  青松の風に吹かるるいしぶみに流るるごとくすめろぎの歌
  つつしみて白き豆腐を供ふれば胸乳はいたく張りにけるかも
  寒川の神に供へよ白豆腐母乳ゆたかに子育てかなふ
  侃侃と踏切が鳴る宮山の駅につめたき相模野の風