天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

大根のうた

大根干す

 今日は冬至、よって大根にこだわってみる。
 『古事記』や『日本書紀』の仁徳天皇の項に、女の白い腕をおほね(淤富泥あるいは於朋泥の表記)にたとえた天皇の次のような歌謡がある。嫉妬に狂った皇后を呼び戻そうとする歌である。


      つぎねふ 山代女の
      木鍬持ち 打ちし大根
      さわさわに なが言へせこそ
      うちわたす 八桑枝なす 来入り参来れ


      つぎねふ 山代女の
      木鍬持ち 打ちし大根
      根白の 白いただむき
      まかずけばこそ 知らずとも言はめ


 おほねから大根、だいこんと呼ばれるようになったという。万葉集の歌に詠まれていたように思い調べてみたが見当たらなかった。「すずしろ」の呼び方では、平安の和歌に詠まれていたと記憶する。手近の書籍から、大根の句や歌をみておこう。


      身にしみて大根からし秋の風      芭蕉
      流れ行く大根の葉の早さかな     高浜虚子
      風呂吹や闇一塊の甲斐の国      広瀬直人
      
  足引の国上の山の山畑にまきし大根をあさずをせ君
                          良寛
  冬畑の大根のくきに霜さえて朝戸出さむし岡崎の里
                        太田垣蓮月
  ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも
                        斉藤茂吉
  そうじろ宗次郎におかねが泣きて口説き居り大根の花白きゆふぐれ
                        石川啄木


 大根となれば、身近には三浦大根が有名。それで居ても立ってもおられず、大根畑を見るために三崎に出かけてしまった。
 この季節になると温かい大根料理が旨くなる。酒は冷で大吟醸か焼酎のロックがよい。日本酒の熱燗は、冷たくなった大根の煮付けに合う。というわけで、三崎から帰り、シャワーを浴びた後、熱い風呂吹大根を肴に、芋焼酎のロックを飲みつつ、この文章を入力している。


      湯上りの焼酎ロック風呂吹と
      いさなとり終へし港や大根干す
      笹鳴のつぶてが藪に飛び込めり
      砂浜にしぐれて黒き白秋碑
      マグロには大根が合ふ三崎かな
 
  ただむきを大根と云ひて機嫌とる后に遣りしすめろぎの歌
  道の辺の於朋泥股間にさし挟み精を放ちし昔思ほゆ
  寄る波のくだくる上にそそり立つ糞にま白き海鵜の岬
  城ヶ島上昇気流に遊弋の何を狙へるこの鳶の数
  何魚か半身失ひただよへる波打ち際に時雨きたれり
  鵜のかづく波間に群るるかもめ見ゆ梶の三郎山に登れば
  尋ね来し三浦三崎にしぐるれば大根の葉の歌くちづさむ
  時雨くる三崎の丘に青々と大根畑の広がれる見ゆ