天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(10)

青田風(webから)

 植物に吹く風を意識した風の名前もある。特に松風や荻吹く風の歌は多い。


 *松風
   宿にある桜の花は今もかも松風速み地(つち)に
   散るらむ           厚見王万葉集


   さびしさに憂世をかへてしのばずはひとり聞くべき
   松の風かは           寂連『千載集』


   思ひかねうちぬる宵もありなまし吹きだにすさめ庭
   の松風          藤原良経『新古今集


   松風を聴かば心も澄みなむと風のきこゆるところまでゆく
                     吉野鉦二

 *荻吹く風
   葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の吹き来るなへに雁鳴き渡る
                 作者未詳『万葉集
   秋はなほ夕まぐれこそただならね荻(をぎ)のうは風萩
   (はぎ)の下露      藤原義孝和漢朗詠集


   あはれとて問ふ人のなどなかるらむもの思ふ宿の荻の上風
                  西行新古今集
   夕暮は荻吹く風の音まさる今はたいかに寝覚めせられむ
                具平親王新古今集

 *葛のうら風
   うつろはでしばし信太の森を見よかへりもぞする葛のうら風
                赤染衛門新古今集