植物に吹く風を意識した風の名前もある。特に松風や荻吹く風の歌は多い。
*松風
宿にある桜の花は今もかも松風速み地(つち)に
散るらむ 厚見王『万葉集』
さびしさに憂世をかへてしのばずはひとり聞くべき
松の風かは 寂連『千載集』
思ひかねうちぬる宵もありなまし吹きだにすさめ庭
の松風 藤原良経『新古今集』
松風を聴かば心も澄みなむと風のきこゆるところまでゆく
吉野鉦二
*荻吹く風
葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の吹き来るなへに雁鳴き渡る
作者未詳『万葉集』
秋はなほ夕まぐれこそただならね荻(をぎ)のうは風萩
(はぎ)の下露 藤原義孝『和漢朗詠集』
あはれとて問ふ人のなどなかるらむもの思ふ宿の荻の上風
西行『新古今集』
夕暮は荻吹く風の音まさる今はたいかに寝覚めせられむ
具平親王『新古今集』