嵐にはいくつか別の呼び名がある。
*嵐
「あ(荒)―あるーあらす」ときて、連用形名詞
「あらし」となった。参考(車上荒らし)
ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き
柿本人麿『万葉集』
大海にあらしな吹きそしなが鳥猪名の港に舟泊つるまで
作者未詳『万葉集』
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐と言ふらむ
文屋康秀『古今集』
みよし野のたかねの桜ちりにけりあらしも白き春のあけぼの
後鳥羽院『新古今集』
かれはてて我よりほかに問ふ人もあらしのかぜをいかが聞くらん
和泉式部『和泉式部日記』
かうかうと真夜を吹きぬく嵐の中血を喀(は)くきざしに心は苦しむ
松倉米吉
はやて風枝ながら揺る柿の実のつぶらつぶらにいまだ青けれ
島木赤彦
*野分
野の草を風が強く吹き分ける意。秋から冬にかけて吹く暴風。
特に、二百十日・二百二十日前後に吹く台風。のわきのかぜ。
のわけ。「野分きの風」とも言う。秋の季語。
吹きとばす石は浅間の野分かな 芭蕉
夜すがらの野分の風の跡見ればすゑふす萩に花ぞまれなる
後伏見院『玉葉集』
野分する野辺のけしきを見わたせば心なき人あらじとぞ思ふ
藤原季通『千載集』
野分せし小野の草ぶしあれはててみ山に深きさをしかの声
寂連『新古今集』
わが庭に野分のかぜの吹く見れば靡かふ羊歯(しだ)の向(むき)
さだまらず 斎藤茂吉
この吹き方野分にしてはなまやさしされどもひれふす鶏頭の花は
川田 順