天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(11)

歌川広重の浮世絵から

 嵐にはいくつか別の呼び名がある。
*嵐
  「あ(荒)―あるーあらす」ときて、連用形名詞
  「あらし」となった。参考(車上荒らし


   ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き
                 柿本人麿『万葉集
   大海にあらしな吹きそしなが鳥猪名の港に舟泊つるまで
                 作者未詳『万葉集
   吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐と言ふらむ
                 文屋康秀古今集
   みよし野のたかねの桜ちりにけりあらしも白き春のあけぼの
                    後鳥羽院新古今集
   かれはてて我よりほかに問ふ人もあらしのかぜをいかが聞くらん
                  和泉式部和泉式部日記』
   かうかうと真夜を吹きぬく嵐の中血を喀(は)くきざしに心は苦しむ
                        松倉米吉
   はやて風枝ながら揺る柿の実のつぶらつぶらにいまだ青けれ
                        島木赤彦

 *野分
   野の草を風が強く吹き分ける意。秋から冬にかけて吹く暴風。
   特に、二百十日・二百二十日前後に吹く台風。のわきのかぜ。
   のわけ。「野分きの風」とも言う。秋の季語。


     吹きとばす石は浅間の野分かな      芭蕉


   夜すがらの野分の風の跡見ればすゑふす萩に花ぞまれなる
                   後伏見院玉葉集』
   野分する野辺のけしきを見わたせば心なき人あらじとぞ思ふ
                   藤原季通『千載集』
   野分せし小野の草ぶしあれはててみ山に深きさをしかの声
                    寂連『新古今集
   わが庭に野分のかぜの吹く見れば靡かふ羊歯(しだ)の向(むき)
   さだまらず               斎藤茂吉


   この吹き方野分にしてはなまやさしされどもひれふす鶏頭の花は
                       川田 順