天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

バスの中で

 会社からの帰りは、地下鉄で九段下から大手町へ、そこから歩いて東京駅へ。JR東海道線で藤沢駅までグリーン車に乗り、藤沢から家の近くまではバスを利用する。そのバスの中での話。
 バスの後部座席で、わが前の席に背を向けて老爺と小学校低学年の男の子とが並んで座っていた。初めは、男の子が独り言をいっていたのだが、それに老爺が話しかけたのである。

  「君はひとりなの?」『うん』「学校行っているの?」『ううん』
  「じゃあ幼稚園?」『今夏休みだから』「一年生?」『三年生』
  「どこまで帰るの」『緑ヶ丘。おじさんは?』
  「ずうと先の影取」『影取かあ。影取経由戸塚バスセンター行き、
   ていうよね。』
  「君はサッカーは好き?」『ううん』
  「じゃあ野球が好きなのか。」『ううん』
  「君は大きくなったら何になりたいの?」『バスの運転手』
  「さあ遊行寺坂上に着いた。次が緑ヶ丘だ。そろそろリュックを
   背負ったほうがいいよ。五十円は持っているね。」
  『うん。ぼくがボタン押すんだ。』
  「さあ、そろそろ着くから下りる準備をしなさい。」『うん』
  「気をつけて帰るんだよ」

 老爺は男の子がバスを降りる準備をするまで、ずうと団扇の風を男の子の方に送り続けていた。緑が丘でバスを降りた小さな小学生は、バスが走り始めるとちょっとバスと並んで走って手を振った後、くるりと後方に引き返して遠ざかった。老爺も振り返って手を振ったが、男の子は小さくてバスの中からは見えなかった。


 帰宅してテレビで見たが、高校野球・夏の決勝戦の再試合は、昨日に続き大変なことになった。高校球史に残る名勝負であり、その清々しさに日本国中の老若男女が感動した。女学生も老婆も涙して試合を見たという。


 今日はなんだか、とっても幸福な気持になった。