天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

旧川喜多邸

旧川喜多邸

 四月十五日は、鎌倉まつり最後の日であり、恒例の流鏑馬が開催される。今回も見たかったが、あまりにギャラリーが多く立錐の余地もない。二時間も前から我慢強く待っている。何度も見ているのであきらめた。八幡宮を出て雪ノ下二丁目を歩いていたら、たまたま旧川喜多邸が公開されていた。今まで前の道を通るたびに、長い板塀の邸内を見てみたいと思っていたが、その機会がなかった。
 ここは、ヨーロッパ映画の輸入を通じて国際的に活躍した川喜多長政、かしこ夫妻の住まいであったところ。海外からくる映画監督や映画スターを迎えたところ。平成6年に鎌倉市が譲り受け、今後記念館にすることを計画している。山林を含めた土地面積は、9,484平方メートルもあるらしい。邸内に入って見てがっかりした。庭の手入れもなされておらず、趣がない。随分荒れている。往時はもっと洗練されていたはず。
 二つの建屋がある。上段の建物は、哲学者の和辻哲郎が、大山の麓にあった江戸末期建築の農家を練馬区に移して住んだものを、没後、川喜多夫妻がここ鎌倉雪ノ下に移築したという。この一階建ての建屋で海外からの客を接待した。下段の建物が二階建ての立派な母屋である。が、近寄って見ると相当痛んでいるようで、風格が失われている。
 かしこ夫人の活躍は目覚しい。芸術選奨菊池寛賞、フランス文芸賞、フランス国家功労賞など受賞している。長政氏は昭和56年に78歳で、夫人は平成5年に85歳で亡くなった。

  奉納の酒一斗樽並べたりほら貝に打つ「やぶさめ太鼓」
  鯉あまた泥をけたてて睦みあふ池の辺に立つ一羽白鷺
  桜ちり著莪躑躅咲く公開の旧川喜多邸黴か匂へる