初富士
正月の関東地方は快晴である。白雪を頂く端整な姿の富士はまことに美しい。
田児の浦ゆうち出でて見れば真白にそ不尽の
高嶺に雪は降りける 山部赤人
初富士へ荒潯船を押しあぐる 石田波郷
初富士の胸わたりゆく雲の影 伊藤敬子
古典の歌枕を今更歌に詠むことは大変難しい。なかでも初春の富士を詠むには勇気を要する。波郷の句は葛飾北斎の名画「富獄三十六景・神奈川沖波裏」を見てのものであろう。そう思うと興覚めになる。
白雪の富士をよぎれりひよどりか
初富士や木の間に見るもうるはしく
南北朝時代の鐘をつかせけり百八名の先着順に
兄弟が父の仇を討ちたれば姉が祀りし浅間神社
朝焼けの富士のなだりに白雲のたなびき出づる倭国原
ひよどりがむれてつひばむ赤き実のこぼれんばかり
垂れてかがやく
鐘撞くも機械じかけとなりにけり正月明くる山の端の寺