天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

観音崎灯台(1)

観音崎にて

    俺ら岬の 灯台守は
    妻と二人で 沖行く船の
    無事を祈って
    灯をかざす 灯をかざす


 これは映画『喜びも悲しみも幾歳月』の主題歌の一番目の歌詞である。映画の監督は木下惠介、歌の作詞・作曲は弟の木下忠司、歌手は若山彰。映画も歌も大ヒットした。映画は、新婚早々の燈台守夫婦・有沢四郎(佐田啓二)ときよ子(高峰秀子)が観音崎燈台に赴任するところから始まる。灯台に哀しいほどのロマンを抱いたのは、1957年に松竹が制作したこの映画と歌のせいであった。
 京浜急行浦賀駅からバスに乗って観音崎灯台に行った。映画に出てきた灯台であるが、当時の生活を偲ぶことは無理であり、灯台建設の歴史を確かめるにとどまった。やはりフィクションであり、夢の世界にあそぶしかない。


      菊かをる無縁仏の寂光土


  灯台に向かふ山路に弱々し露けき朝のこほろぎの声
  要塞の面影のこす石組に国防を思ふこほろぎの声
  東京湾海上交通センターの放送を聞く灯台の内
  灯台のレンズの前にわが立てば朝霧ふかし浦賀水道
  潮引けば隆起海蝕台出でて磯の生き物あまたうごめく
  横須賀へ舳先向けたる巡洋艦しじに行き交ふ漁船、タンカー
  語り継ぐ弟橘媛は潮風の浜辺染めたる赤きテングサ
  国防に漁労に命ささげにし無縁仏の墓地寂光土