天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ヤマブキ

衣笠山にて

 バラ科の落葉低木。北海道から九州まで山野に自生し、万葉集にも詠まれている。八重咲きの品種もあり、これには実がならない。太田道灌に農家の娘が差しだした山吹がこの品種であった。娘はこの花を詠んだ後拾遺和歌集兼明親王の歌「七重八重はなは咲けども山吹のみの一つだになきぞかなしき」に掛けて、「蓑ひとつない」ことを伝えたかった。それを道灌が後になって家臣から聞いて、農家の娘さえ心得ている古歌を知らなかったことを大いに恥じた、という。


  かはづ鳴くかむなびがはに影見えて今か咲くらむ山吹の花
                    万葉集厚見王
  山吹の花取り持ちてつれもなく離(か)れにし妹を偲びつるかも
                    万葉集大伴家持
  やまぶきの花色衣ぬしやたれ問へど答へずくちなしにして
                    古今集・素性
  たれかこの数はさだめしわれはただとへとぞ思ふ山吹のはな
                    詞花集・藤原道綱母
  おのづからあはれとも見よ春ふかみ散りゐる岸の山吹の花
                    金槐和歌集源実朝
  筏おろす清滝河のたきつ瀬に散りてながるる山吹のはな
                    桂園一枝・香川景樹