天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

電飾の島

北斎の江ノ島

 12月に入ると、江ノ島ではクリスマスや年末年始のためのイルミネーションの準備が進められている。そしてクリスマスから正月にかけて、夜は参道と公園が電飾に輝く。江ノ島は電飾の島になる。


     笹鳴に猫がとび込む藪の中
     もみぢちる八臂妙音弁財天
     江ノ島の冬の日だまり猫ねむる
     電飾の奥にひそけき冬桜
     冬涛のとどろく岩屋龍の夢
     風化せる芭蕉の句碑や石蕗の花


  うかび来し鵜は青鷺の足元に 顔見合はせて驚きにけり
  絵之嶋へふたつならびて懸かりたり車道の橋と歩道の橋と
  そのかみの宿屋の跡にビル立ちて天然温泉天空カフェ
  江戸の世の洞窟温泉伝へたり旧岩本院の岩本楼は
  江ノ島の西の空なる富士の峰雪をかむりて霞にうかぶ
  参道は女夫饅頭売る店も射的スマートボールの店も
  江ノ島に棲みつく猫の多ければ参道脇に募金箱あり
  龍宮のかまへなしたる瑞心門階段沿ひに献灯ならぶ
  初穂料五百円とぞむすび絵馬良縁成就の桃色なせる
  電飾の線めぐらせる花畑花はなけれど明りが点る
  爾靈山高地の石を置きにしは昭和拾年一月一日
  電線を筒に包みて守りたり台湾栗鼠の棲みつける島
  満潮の波うち寄する音高しカナリー椰子は電飾まとふ
  江戸の世の歌舞伎役者が献じたる石の燈籠風化して立つ
  菊五郎と共に歌舞伎の菊之助弁天小僧の手形のこせり
  看板の海鮮料理磯料理掛け替へもなく島冬に入る
  多紀理比賣命祀れる奥津宮八方睨みの亀の絵の奥
  常の日は釣り人多き岩礁は飛沫に隠る冬の満潮
  金網に錠前あまた掛りたり愛をちかひし龍恋の鐘
  のぼり来し媼がふたり鳴らしたる龍恋の鐘恋人の丘
  江ノ島の沖にひびかふエンジン音やみたる時は釣りはじめたり
  いつの間に雪と霞に隠れたる富士を惜しみて江ノ島を出づ
  弁天をたのむほかなき経済のこの年暮るる電飾の島