靴(9)
靴に関する諺がある。以下に三つあげる。
「瓜田に靴を納れず 李下に冠を正さず」
疑いをまねくような行為はしないほうがよい。
「隔靴掻痒(かっかそうよう)」
かんじんなところに手が届かず、もどかしい。
「冠(かんむり)古けれども沓(くつ)に履かず」
物には貴賎上下の区別があり、その区別を乱してはならない。
クールベの風景画よりセザンヌへ靴五、六歩の響き
のありて 春日真木子
菜の花の咲く頃立たむ風遍路履きなれし靴ま白に洗ふ
梅原皆子
薔薇窓のステンドグラスを透しくる光りは我の靴
まづしくす 太田青丘
ひとつ歯の天狗の下駄に寄せかけて祀る幼壮のいくつ
もの靴 川島喜代詩
夏の靴しまひてをればげに遠く光にうねる阿武隈川は
河野愛子
十年の単位となりしことのなか常臥せば靴も購はず
済みをり 滝沢 亘