天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

綿

横浜市俣野別邸庭園にて

 棉、絮とも書く「わた」は、アジア原産のアオイ科一年草。わが国には奈良時代に渡来したという。なお、古くは蚕からつくる真綿を指した。室町時代以降に植物のワタからつくる木綿が普及した。綿毛と種を採るのに栽培される。夏の朝に花が開花し、秋に朔果が熟して白い綿毛に包まれた種子ができる。花の色は、クリーム、黄、深黄、紫など。


     しろがねの一畝の棉の尊さよ   栗生純夫
     棉吹いて風の明るくなりにけり  松岡隆子


  しらぬひ筑紫の綿は身につけていまだは着ねど暖かに見ゆ
                 万葉集・沙弥満誓
  伎倍人(さへひと)の斑(まだら)衾(ぶすま)に綿さはだ入り
  なましもの妹が小床(をどこ)に   万葉集・東歌


  柳咲かむ絮に包める紅(くれなゐ)を今日のひかりの中に
  見むとす               土屋文明


  綿の木を知らぬわが目に結びし実一つ大きく真白く割れぬ
                    窪田章一郎
  省境を幾たび越ゆる棉の実の白さをあはれつくつく法師
  鳴けり                宮 柊二


  百済よりここに渡りて継ぐ花か畠の綿に淡黄に咲く
                     黒田淑子