天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

コミック短歌(7/12)

沖積舎刊

■次は、下句の破調について。
上句は、五七五あるいは六七五の例をあげる。四句あるいは結句の増音は、短歌のリズムにさほど大きな影響を与えないので、以下では、専ら減音の場合に焦点を当てる。穂村の例は、歌集『シンジケート』から。
 新品の目覚めふたりで手に入れる ミー ターザン ユー
  ジェーン


下句にスペースを入れているので、短歌調に拍の調子を整えられる。
 生れたてのミルクの膜に祝福の砂糖を 弱い奴は悪い奴
四句目は「砂糖を」の四音 、結句は「弱い奴は悪い奴」の十一音とする作りになっているが、空白を一拍に入れて「砂糖を 弱い➝奴は悪い奴」と八八にもできる。これもかろうじて短歌調を保てる。
 花びらに洗われながら泣いている人にはトローチの口移し
四句五句は、「人にはトローチの」(九音)「口移し」(五音)となって、塚本調。強引に「人にはトロー↑チの口移し」と、トローチを語割れにして、七七に感じさせる方法でもある。
塚本の例では、
 完璧に人貶むるためにのみ待ちに待つ美しき曇天
四句五句は、「まちにまつうつ↑くしきどんてん」とすれば、七七と分割できるが、それでは、「美しき」の語幹部を割ることになり無理。「待ちに待つ↑美しき曇天」と五九とするのが自然だが、四句減音になり短歌のリズムが崩れる。
 子規が好きとは言はざれどこの秋の子規忌にはさみどりの帷子(かたびら)
下句は、「子規忌には↑さみどりの帷子(かたびら)」と五九の四句減音結句増音で散文化。強引に 「子規忌にはさみ↑どりの帷子(かたびら)」と「さみどり」の語幹を割ると畸形になる。
 午前二時伊良子崎にて雄の鷹二羽うちかさなれる屍(し)を視たり
四句五句は、「二羽うちかさなれる↑屍(し)を視たり」と九五に切る。結句減音で喪失感あり。
先の統計で見たように、塚本には結句減音の傾向は、穂村に比べてはるかに強い。塚本短歌の特徴のひとつ。