天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

コミック短歌(6/12)

短歌研究社刊

以下に穂村と塚本に共通の具体例をあげる。分析における句切の箇所を「↑」印で示す。
■上句の破調について。
下句は七七あるいは七八の場合を例にとる。穂村の例は、『手紙魔まみ・夏の引越し』から。
  その先はドーナッツ、その先はドーナッツ、虫歯のひとは
  立入禁止
上句は、「その先は↑ドーナッツ、その先は↑ドーナッツ、」と五十五に句切れば、二句増音ながら許容度大で短歌の調子を保てる。
  「この道はまみのためにつくられたんだ」(神様、まみを、
  終わらせて)パチン
上句は、「この道は↑まみのために↑つくられたんだ」と、五六七と自然に切れば、二句減音三句増音になるが、一方、「この道は↑まみのためにつく↑られたんだ」と、五八五と活用語尾割れの句切にもできるので、許容できる。
  「思った通りだ。すごくよく似合う」(神様、まみを、終わらせて)
  パチン
上句を、句点に従って句切ると八八になり三句目が無くなる。短歌のリズムとして無理、致命的。ただ、句点を無視して「思った↑通りだ。すごく↑よく似合う」と四七五に切ればリズムは整うが、それでは別作品になってしまう。表記上は散文、読み方で短歌になるという際どい例。
塚本の例は『約翰傳偽書(ヨハネでんぎしよ)』から(以下すべて)。
  イタリア料理店「ビアンカ」も五月雨の中 舊戀の烏賊墨(セピア)
  のにほひ


  さらば壮年、紫木蓮(しもくれん)散る精神科醫院テラスにあふるる涙湖
それぞれは次のように切れる。
「イタリア料理↑店「ビアンカ」も↑五月雨の↑中 舊戀の↑烏賊墨のにほひ」
「さらば壮年、↑紫木蓮散る↑精神科↑醫院テラスに↑あふるる涙湖」
いずれも初句七音。句跨りが発生するが、一首として塚本得意の七七五七七調リズムにできる。
  訊かむ火夫に、水夫に、風太郎に馭者に「戀」は果して何劃の字ぞ
初句は、「訊かむ火夫に」の六音。二句三句を、「水夫に、風太郎に↑馭者に」の十音三音としても、「水夫に、↑風太郎に馭者に」と四音九音にしても三句あるいは二句で減音が生じ、上句は全く短歌らしさが無くなる。