天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

黴(かび)

 黴は微細なキノコ類の総称。黴が赤、黄、緑などの色に見えるのは胞子の色や排出する色素によって決まる。

 

     この宿をのぞく日輪さへも黴         高浜虚子

     黴けむり立ててぞ黴の失せにける      池内たけし

     黴煙上がりしなかの己かな          中村汀女

     としよりの咀嚼つづくや黴の家        山口誓子

     黴の家振子がうごき人うごく         西東三鬼

     黴の中鼻翼はや死に垂んと          石田波郷

     靴の黴拭ひ俄かに遇ひたくなる        横山白虹

     黴厨匙きらきらと密集す           目迫秩父

     黴びざらむとするか盲眼またたきて      村越化石

     能衣装黴びてわが祖は猿楽師         後藤綾子

 

  引越しの車の上にはみ出せる洋書の黴の白きさびしさ

                           金子薫園

  久々に吾の寝床をのべにけりところどころにかびの生えたる

                           松倉米吉

  にはかにもこころ動きて真夜なかを黴のにほへる書庫に入りゆく

                           木俣 修

 

黴(かび)