富士川
角川文庫版(佐藤謙三校注)「平家物語」を拾い読みしながら、JR東海道線を熱海で乗り継いで富士川に向かう。
”さる程に、兵衛佐頼朝、鎌倉を立って、足柄の山うち越え、黄瀬川にこそ着き給へ。甲斐・信濃の源氏ども、馳せ来て一つになる。駿河国浮島が原にて勢揃へあり。都合その勢廿萬騎とぞ記いたる。” ”その夜の夜半ばかり、富士の沼にいくらもありける水鳥どもが、何にかは驚きたりけん、一度にばつと立ちける羽音の、雷大風などのやうに聞えければ、・・・・・・、とて取る物も取り敢へず、我れ先に我れ先にとぞ落ち行きける。・・・”
逢坂の関を越えけり維盛は著背長唐皮唐櫃に入れて
水鳥の一度にばつと立ちたれば飛沫に光る富士の白嶺
のぼりくる鮎を待つらし首縮め魚道の堰に白鷺佇てり
白々と堰横たはる富士川の土手に座りていにしへ思ふ
堰に佇つ白鷺の羽靡かせて五月五日の風わたるなり
いなづまの疾るかたちに白鷺は魚道の堰に身をかがめたり
雪解けの白き道筋嶺に見ゆ富士の裾野はかすみに消えて
白鷺は堰を伝ひてまたきたり魚道見つめて身をかがめたり
いつまでも魚を狙へる白鷺の姿勢を飽かず見てゐたりけり
富士川の浅瀬に白き鷺の群夕べにかへる水神の森
富士川の早き流れをせき止めて水の涸れたる渡船場の跡
黄瀬川の流れあをめる五月かな
富士川へ黄瀬川渡る子供の日
魚狙ふ白鷺の堰風かほる
川風に身をひるがへす燕かな
白鷺の堰をうごかぬ五月晴
白鷺の長き嘴鮎光る
富士川や川風に聞く行々子