天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

塚本邦雄の新歌枕東西百景

 昭和53年に毎日新聞社から発行された塚本邦雄
『新歌枕東西百景』を、仕事で姫路に日帰り出張する
飛行機および新幹線車内で読みきってしまった。それほど面白い。
地図から探した日本の美しいあるいは大変魅力的ななつかしい地名を
短歌に読み込んでいる。
 彼は、次のように思いを述べている。

 “私は地名をのみ読むことによつて、言葉の、文字の秘密の
一端を探り得た。命名の威厳と畏怖を知つた。(中略)
万菓の地名枕詞を、私ほど鮮烈な感動と共に享受した少年が
かつて存在しただらうかと、獨りしみじみと思ひ返すことがある。      
 そこに住む住まぬは問題ではない。そこへ旅するせぬは問ふ
要もない。日本に、このやうな美しい地名が現実に存在すると
思ふだけでも、私は「生ける験」を覚える。 ”  
 
 物名歌のかたちで、歌に詠み込んでいる。例えば、
   山形県西田川(にしたがは)郡温海(あつみ)町一霞(ひとかすみ) については、
   いらくさの野に美しきひとが住み夏もをはりのシャポー打ち
   振る

に「ひとかすみ」が入っている。
   岡山県真庭(まには)郡美甘村延風(みかもそんのぶかぜ) については、
   血と肉と隙間にはかに冴えわたるわがうつそみか紅葉
   (もみぢ)照りつつ

に「みかも」が入っている。
といったぐあいである。