天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

極楽寺から長谷寺へ

都忘れ

      薬の処方を待つ間
  フェニキアのワイン運びし船ありき白砂つもれる海底の壺
  イスラエル沖に沈めるフェニキアのワインの壺に赤き魚群る


      江ノ電にて極楽寺に向かう
         江ノ電江ノ島駅の花ざくろ


      満福寺下を過ぎて七里ヶ浜

  義経の歯軋り聞こゆ腰越の寺に残れる下書きの状
         波待てるサーファ黒き梅雨の海


      極楽寺
         桜桃のむなしく散れる極楽寺
         血を吸ひにくる羽班蚊(はまだらか)極楽寺
       
      成就院
         紫陽花の参道のぼる成就院


      五郎神社
         梅雨に垂るマキバブラシの赤き房


      長谷寺
  岩煙草、都忘れの花咲けり読経聞こゆる雨の長谷寺
  線香のけむり纏ひてをろがめる雨の長谷寺あぢさゐの花
  「お静かに」くわんくわう客を制止せるくわんおん堂の光おもたき
  金色の三丈三寸観世音女ひとりを背に読経せり
  らうそくの煤に耐へゐる大黒と知らずをろがむ出世願望
  声若き読経流るる長谷寺の山になだるるあぢさゐの花
         あぢさゐの風に聞こゆる読経かな
         ほの暗き写経の御堂梅雨に入る
         梅雨に入る写経机の紙白き


      光則寺
  梅雨空の奥にとどろく飛行機の熱を思へりあぢさゐの花
         伊予絞り、伊予の星屑 山あぢさゐ
         ひと声に孔雀高啼く梅雨入りかな


      収玄寺
  つつましく野の草花を庭に植え札に書きたる万葉の歌
  大いなる石碑に残る東郷の「四條金吾邸趾」の揮毫
       指先に触れておもたき杏かな
       東郷の揮毫の石碑梅雨に入る