天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

大涌谷

大涌谷

 七月十六日と十七日を箱根に遊ぶ。十六日の夜は芦ノ湖畔のペンションに泊まる。


   山百合の今をさかりと咲くそばに色あせそめしあぢさゐの花
   トンネルの壁に点れる蛍光灯登山電車の車体がきしむ
   小涌谷大涌谷とのぼり来て富士にまむかふ梅雨明けの空
   蛇骨川石風呂ありてそのかみの兵ねぎらひし熱き湯の湧く
   ひび割れの岩の間に噴く白煙の硫気の谷にうぐひす啼くも
   黒玉子一つ食ぶれば七年は寿命延ぶると妻ふたつ食ぶ
   ひばの木の天辺に啼く夏鳥の声の涼しき姥子温泉
   芦ノ湖の水面まぶしき船室に妻またひとつ黒玉子食ぶ
   芦ノ湖の木陰に小舟とめて釣る鱒の鱗は虹にかがやく
   芦ノ湖の朱き鳥居にあからひく朝日のさして梅雨明けにけり
   芦ノ湖の湖畔をめぐる石畳杉の木立にひぐらしの鳴く
   映らざるテレビあきらめペンションのベッドに聞きし
   ひぐらしの声


   ペンションのベッドに寝ねて裏山のひぐらしを聞く芦ノ湖湖畔
   夕されば霧たちこむる芦ノ湖に海賊船は明りを点す


       山のぼるスイッチバック額の花
       紫陽花や登山電車にかぶさり来
       ケーブルカー車窓に迫る額の花
       ゴンドラに風鈴が鳴るロープウェイ
       うぐひすや硫気の谷を啼きわたる
       うぐひすや冠ヶ岳に身を反らす
       谷深し風にふかるる蝉の声
       釣り上ぐる虹鱒ひかる水面かな
       みどりさす杉の大木朱鳥居
       時鳥箱根神社をわがものに
       石畳ほたるぶくろのうつむける
       つばめ飛ぶ霧の中なる関所跡
       ペンションの裏山せまる時鳥
       ペンションのベッドに聞きしほととぎす
       ペンションに寝ねて気になる扇風機