天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ズーラシア

象の発情

       蒸しに蒸す青水無月ズーラシア
       黒揚羽エミューの長き首の上
       岩陰に暑さしのぐや金絲猴
       文月の象発情すズーラシア


   擦り交はす鼻の長さに越えられぬ溝あり象の発情期
   樹を揺らしひとりあそべる手長猿仲間のなきを子はさみしがり
   蠅たかる骨前にして美しきスマトラトラの背腹波うつ
   美しき縞の背腹の波うてりスマトラトラは暑さにあへぐ
   肉つける骨をつひばむ烏ゐてスマトラトラの園の水音
   烏にも朝の食餌となるらしき虎の残せる肉付きの骨
   蓑着たるごときエミューが立ち上がり何事ならむとあたり見回す
   さし交はす木にうつ伏せて横たはる雲豹(ウンピョウ)の四肢だらんと
   垂るる


   離れては真黒き親にしがみつくフランソワルトンの茶色の赤子
   生国はマレー半島尾長猿ダスキートンは木の葉食べゐる
   食肉目ネコ科のインドライオンの踊り始まるアナウンスあり
   猿ならねセスジキノボリカンガルー暑さの故か呆と固まる
   ズーラシア 硝子たたけば現はるる絶滅危惧種ドールの群は
   密輸され空港税関で保護されしインドホシガメ行くあてのなき
   保護されしベルセオレガメ首すくむペットブームの犠牲者として
   思はざる銀色の舌ながながと一瞬伸ばすオオアリクイ
   樹に擬せるコンクリートの木によれるコモンウーリーモンキー
   の檻


   落ち着かぬ雄に構はず腹這へり出産近きヤブイヌの雌
   息づきの音の聞こゆるメガネグマ樹に腹這ひて曇天仰ぐ
   二十世紀明けて発見偶蹄目キリン科オカピ コンゴの森に
   文明に飼はれて人目気にせざり愛を交はせるオカピの夫婦
   後足に立てば人気のでるものを眠れる此処のレッサーパンダ