天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

閑吟集(続)

 閑吟集の登場人物たちをリストアップすべく岩波文庫版を精査したが、あからさまな固有名詞はほとんどない。大外の重の孫三郎のみ。
 山賎、遊女、海士乙女、高雄の和尚、山伏、人買ひ、船頭、塩焼の子、大外の重の孫三郎、千代鶴子、愛宕の山伏、阿波の若衆 など。なんともむくつけく生臭く生命力あふれる業種といおうか。
ところが閑吟集の歌を理解するには、漢詩、和歌、今様(梁塵秘抄)などの素養を必要とする。いわゆる本歌取が多いのである。また、あからさまには言わず、隠語というか間接表現で、ある職業を匂わせる歌もある。

  つぼいなう、青裳(せいしやう)、つぼいなう、つぼや、
  寝もせいで睡(ねむ)かるらう
  (かわゆいのう、この合歓は、かわゆい、いとしい、
   寝もしないで眠たかろう)

における「青裳(せいしやう)」は侍童を意味するという。もののふの世では、男色が公然と認められていた。武士のみならず僧侶も山伏も若衆や侍童にうつつをぬかした。
 ちなみに、塚本邦雄が現代短歌のテーマに男色を持ち込んだのは、彼が閑吟集など古典に詳しかったから、自然のなりゆきであったと思われる。