天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

老境の歌(2)

 高橋さんは、仏像に惹かれるらしい。歌集には、「円空仏巡礼」という章があって南から北へ寺々に円空仏を訪ねて歌を詠んでいる。個々の仏像の特徴を詠み込むことになるが、難しいのは、読者にとってリアリティが感じられないとか作り物の感じがする点にある。仏の表情を直接詠んだ歌には特に要注意である。

A 大鉈をぐさりと落としし雄心に応ふるもののなきをさびしむ
B かすかにも仏の耳環なりそむる旅立ちまぢか我も供せむ
C 口裂ける大いなる龍を頭の上に善女いただきかしこまりゐる
D うづまける雷雲せおひ天の声放つは円空彫りし権現
E 木の精にくすぐられゐるみ仏は耐へきはまれば笑みこぼしたり


 A,B,Eは素直に良いと感じるが、C,Dはどこか作為が臭う。